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東海・北陸信越エリアにおける物流施設ニーズ調査

各地域の「特性」を反映した施設運営に勝機あり

2022年7月28日 (木)

話題LOGISTICS TODAY編集部は、東海・北陸信越エリアの物流施設に焦点を当てた特集企画「物流施設特集−東海・北陸信越編−」の開始にあたり、物流企業や荷主企業を中心とする読者を対象に7月15日から20日にかけてニーズ調査(有効回答数304件、回答率10.4%)を実施した。

東海・北陸信越エリアにおける物流拠点開設の動機について、人気の高い愛知県内陸部の高速道路インターチェンジ(IC)周辺を中心に出荷先・取引先への利便性を挙げる一方で、労働力の確保に課題を抱く傾向も明らかになった。

回答者の主な内訳は、物流企業62.8%、荷主企業23.4%、その他13.8%。東海・北陸信越エリアに物流拠点を開設している割合は55.9%。荷主企業のうち、現場オペレーションを含めて自社で完結するところが46.5%、物流企画機能を自社で担いオペレーション業務は外注する事業者は29.6%、物流企画を含めた物流業務を外注している割合は15.5%だった。(編集部特別取材班)

「2大都市圏以外のエリアにおける物流サービス」のあり方とは

名古屋市を中心とした大都市圏を構成し、自動車関連産業を基盤とした製造業が卓越した東海エリア。独自の地場産業が根付いた堅実な経済圏を構成する北陸エリア。さらに首都圏の影響力も受けながら幅広い産業で一定の存在感を示す信越エリア。高速道路網の発達やEC(電子商取引)サービスの普及もあり、物流拠点展開を手がける主役はかつての地場倉庫業者から大手不動産開発事業者へとシフトしているのが実情だ。

これまで物流拠点と言えば、首都圏と関西圏に東西の拠点を置いて全国への輸配送ネットワークを構築する図式が一般的だった。しかし、物流が社会に不可欠なインフラとして認知されるにつれて、荷主企業によるニーズの高度化も進展。物流施設の開発事業者も、より付加価値の高いサービスを開発して地域特性に応じたラインアップで提供する動きを加速させている。

物流拠点ネットワークの構築においても、地方の事情を意識した展開が当たり前になっているということだ。こうした傾向を色濃く示している好例が、北陸や信越エリアなのだろう。高速道路ICに近く近距離と広域の両面で輸送メリットがあること、さらには地場で存在感のある産業拠点の近くに立地するなどの特徴がある。物流ニーズの集積地はまさにそこにあるからだ。

圧倒的な物流施設人気エリアである「小牧」

今回のニーズ調査では、東海・北陸信越エリアに物流拠点を置く動機や立地、課題について回答を求めて、傾向を分析した。

東海・北陸信越エリアに物流拠点を開設している企業に具体的な立地を聞いたところ、「小牧(愛知県)」が65.3%と最多だった。名古屋市北郊の小牧市は、東名・名神高速道路と中央自動車道が結節する東海エリアで有数の物流適地として知られる。地元自治体による積極的な誘致もあって多くの産業が進出。それに付随する形で大型物流拠点の整備も進んでいる。

続いて回答割合が高かった「その他愛知県」(47.1%)は、一宮市や犬山市など名神高速道路の沿線が中心とみられる。小牧市から広がる裾野の広い産業立地が卓越した地域であり、高い交通利便性と居住人口の集積も背景に発展を続けている。さらに「名古屋港周辺」(40.0%)は自動車関連産業の輸輸出入における物流機能を求める事業者が進出している。

ちなみに北陸エリアでは、「北陸自動車道沿線」(13.5%)と「その他の北陸(福井県・石川県・富山県)」(20.0%)を合わせて全体の3分の1が回答。かつては首都圏や関西圏を拠点に輸配送サービスを展開していたであろう北陸エリアで、物流施設の展開が進んでいる実情が浮かぶ。

拠点設置の背景にある「支店経済」ならではの特性

こうした動きを背景に、東海・北陸信越エリアに物流拠点を置く利点をどう考えているのか。「出荷(納品)先に近いから」(41.8%)、「取引先に近いから」(33.9%)とビジネスパートナーへの距離感を指摘する回答が上位を占めた。特に全国で事業を展開する企業は、東海・北陸信越エリアの拠点を支店機能として位置付けているところも多い。そう考えれば、こうした関係先への利便性の高さは、いわゆる「支店経済」を象徴する傾向なのだろう。

むしろ特筆すべきなのは、「首都圏・関西圏の間に位置し、これらの大都市圏への輸送利便性が高いから」との回答が28.6%と全体の4分の1を超えたことだ。全国における輸配送拠点網の構築にあたって、名古屋市を抱える東海エリアでさえも首都圏や関西圏の後塵を拝する傾向にあった。しかし、ドライバー就労環境の改善やBCP(事業継続計画)の策定、地域特性に応じた物流機能を重視する観点から、長距離輸送における「中継拠点」の整備を進める動きが、物流業界でクローズアップされている。こうした中継拠点の有力候補地として注目されるのが、東海エリアなのだ。

続いて、東海・北陸信越エリアに物流拠点を置くデメリットについて聞いた。「労働力を確保しにくいから」が37.2%でトップ。「賃料水準が高騰してきたから」(24.7%)、「従業員の通勤が不便だから」(18.4%)、「交通渋滞が多いから」(12.8%)――が続いた。

少子高齢化が加速するなかで、労働力の確保は大都市圏から離れた地方における最大の問題点と言えるだろう。交通インフラの相対的な脆弱性もしかりだ。現場業務を動かすために欠かせない若年層の確保は、地方で特にシビアな問題だ。ただでさえ少ない人材を採用するには、待遇面での競争力を高める必要もある。

さらに地方で物流ビジネスを展開する上で脅威なのが、賃料水準の上昇だ。一義的に賃料は需要と供給のバランスで決まることを考えれば、地方における実質的な物流ニーズが高まっていることを示唆している。とはいえ、賃料高騰はコスト効率の観点からはマイナストレンドにもなりうるわけで、付加価値の提供などサービスの向上をさらに手厚くするなどの巧みな運営も求められそうだ。

「進出する明確な動機・背景」を求められるエリア特性が浮き彫りに

ここまで、東海・北陸信越エリアで物流拠点を開設している企業の動向とともに、進出のメリットとデメリットについて考察してきた。ここからは、このエリアにおける今後の拠点新設の可能性について考えていく。

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まず、東海・北陸信越エリアにおける物流拠点の開設を検討する可能性について聞いた。「ない」が29.3%で最も多く、続いて「ある(1年以内)」(11.5%)、「ある(時期は未定)」(11.2%)、「ある(3年以内)」(8.6%)――となった。

東西の輸配送拠点として位置付けられることの多い首都圏や関西圏と比べて「進出する明確な動機・背景」がより強く求められることもあり、強固な関係先やその地域に特化した物流需要が存在するなどの理由がないと、拠点開設を決定するのは難しい。東西の中継拠点という発想が生まれてきてはいるものの、現実に導入している事業者はまだ少ない。「物流は立地産業である」ゆえんか。

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東海・北陸信越エリアでの物流拠点開設を検討する可能性が「ある」とした企業に対して、必要なスペース面積をたずねたところ、「1000坪以上3000坪未満」が27.5%で最多。「1000坪未満」(18.3%)、「3000坪以上5000坪未満」(12.8%)――と続いた。「1万坪以上」との回答も8.3%あった。

自動車関連産業をはじめ大型貨物の扱いもある東海エリアと、医薬品や農産物など小ぶりの荷物が多い北陸信越エリアでは事情が異なりそうだ。

不可欠な機能は「マイカー通勤」「大型貨物」「広域輸送」への対応

それでは、東海・北陸信越エリアでの物流拠点開設を検討する可能性が「ある」企業が重視する機能は何か。物流施設の機能を判断する35項目を設定して、重視する度合いを聞いた。

「不可欠」と回答した割合が最も多かったのは「駐車スペース」で全体の34.9%を占めた。続いて「40フィートトレーラー対応」(30.3%)、「事務所スペース」(27.5%)、「高速道路ICからの距離」(25.7%)――となった。東海と北陸信越の両エリアが共通するのは、いわゆる「クルマ社会」であることだ。必然的に通勤手段はマイカーとなり、駐車場の確保は欠かせない要素となる。機能面では、東海エリアを中心とした大型貨物に対応した仕様も望まれているようだ。さらに広域輸送も含めて高速道路のアクセス性は重要な要素になるだろう。

「重視する」と回答した割合が高かったのは、「周辺道路の幅」(79.8%)、「車両待機スペース」(67.9%)、「40フィートトレーラー対応」(64.2%)、「空調」(62.4%)。大型車両でも余裕のあるスペースの確保を求める傾向があるようだ。空調設備を重視する声が多かったのは、夏季の猛暑に悩まされる東海エリアならではなのだろうか。

一方で「重視しない」回答で上位を占めたのは、「施設のデザイン性」(28.4%)、「築年数」(27.5%)、「託児所」(26.6%)、「コンビニ・売店」(22.9%)。大手の物流施設開発事業者が比較的最近になって進出したエリアでもあり、築年数はあまり課題にならない傾向にあるようだ。従業員への福利厚生や建物の意匠など、より良い就業環境を意識した取り組みへの関心も低めで、「実利」を優先する土地柄も反映しているようだ。

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最後に、回答者全員に許容できる坪単価賃料水準を地域別でたずねた。北陸信越では「3000円未満」の回答が中心なのに対して、愛知県を除く東海エリアは「3000円以上4000円未満」が最も多かった。愛知県では、中心帯は「3000円以上4000円未満」であるものの、以前から物流施設の集積する小牧・一宮で「4000円以上5000円未満」「5000円以上6000円未満」の回答割合が他の地域と比べて高かった。依然として物流適地としての存在感は健在であることを示している。

次回は、東海・北陸信越エリアの物流施設における「関心度ランキング」を紹介する。

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