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遠隔点呼が開く新時代—本誌WEBイベントで熱論

2022年9月7日 (水)

話題LOGISTICS TODAYが主催するオンラインイベント「運送会社DXに盲点、“点呼業務”の主要メーカー・販社と徹底討論」が7日開かれた。今注目の「遠隔点呼」を中心に、点呼を巡るトラック運送業の現状や課題、今後の方向性について、点呼機器のメーカーと販売会社の4人のパネリストが進行役の赤澤裕介編集長と熱い討論を交わした。

新制度のスタートと業界の理解不足

相次ぐ飲酒運転による悲惨な事故や、デジタル技術の進化、新型コロナウイルス禍で広がった非対面業務といった環境変化を受け、安全確保のための乗務員への点呼業務は大きく変わりつつある。Gマーク事業者を対象にした「IT点呼」に続き、ことし4月には「遠隔点呼」の制度がスタートした。本人確認や情報共有の高度技術を施した機器を使い、離れた場所での非対面の点呼を可能にした制度だ。ところが、本イベントの複数のパネリストが課題として指摘したのが、遠隔点呼を巡る「周知不足」と「理解不足」だった。

▲サンコーテクノの坂口正一氏

「多くの運送会社で、遠隔点呼がIT点呼の延長上にある制度と誤解されている。両者の違いや遠隔点呼の導入ハードルを説明すると、『うーん』と唸ってちゅうちょされるケースが多い」。こう話したのは、点呼機器メーカーのサンコーテクノ機能材事業本部副本部長の坂口正一氏。

本年4月の制度開始時、国土交通省に遠隔点呼の導入を申請し許可されたのは23社にとどまった。国が運送会社に求める要件は、Gマーク導入を前提とするIT点呼に比べて遠隔点呼は格段に多い。書類申請に25の要件がある上、その後の陸運支局による実地監査が細かい。同じく機器メーカーである東海電子の取締役安全・健康システム営業部部長の松本剛洋氏も「支局職員は運送会社の現場に入り、ドライバーを撮影するカメラの性能など、あらゆる機器をチェックする。書類にも相当細かい指摘が入る」と、顧客の運送会社と一緒に経験した監査の手強さを語った。各機器の導入コストも負担になる上、カメラの精度は200万画素以上、運行管理者が見るモニター画面は16インチ以上でドライバーの顔色がわかる性能でなければならない、といったハードルを運送各社はクリアしなければならない。

行政の対応にバラつき

飲酒運転事故の撲滅やドライバーの健康向上のためには、そうしたハードルの高さを覚悟しなければならないわけだが、運送会社をさらに悩ませるのが遠隔点呼体制を審査する行政側の課題だ。「各地の陸運支局の対応にはバラつきがある」(松本氏)のだという。

例えば、申請時点で点呼風景を撮影した動画をDVDにして提出を求める支局がある反面、そこまで求めない支局もある。松本氏は「運送会社に申請を指南する立場の点呼機器メーカーとしては悩みどころだ」と語った。

同じくメーカーであるテレニシ法人事業本部ソリューション営業二部の吉田寛之部長も、「当社の遠隔点呼機器を導入した運送会社の間でも、申請が通ったところと通らなかったところがあった」と、支局によって運用解釈が違うことを指摘した。「行政には運用基準を統一してほしいものだが」と言う赤澤編集長に対し、機器販売会社タイガーの成澤正照・取締役営業本部長は「非常にグレーの部分が多く、対処法を捉えにくいのは確かだ。国も初年度は年間を通して、制度運用を固めていく構えをみせると思われる」と解説した。

▲(左から)タイガーの成澤正照氏、LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長

「対面時代の終わり」

運送会社や点呼機器メーカーの多くに当惑を抱かせている遠隔点呼の制度。各パネリストは、それでも遠隔点呼を推進する重要性で一致した。中でも松本氏は「対面点呼に限られていた時代の終わりという、歴史的に大きなターニングポイントとなった」と、意義を強調した。

▲東海電子の松本剛洋氏

IT点呼が運送業界で「3分の1ルール」と呼ばれるように、従来の対面点呼のルールをかなり残した制度であるのに対し、遠隔点呼は運行管理者のDX(デジタルトランスフォーメーション)がもたらす、完全に対面点呼と「同等」の制度として制定されており、決定的な違いがあるという。狭い営業所なら全てを遠隔点呼で終えることができる。事業所の無人化・省人化、運行管理者の負担軽減に大きく道を開くもので、いずれは対面点呼やIT点呼を抑えて遠隔点呼が一般的になる「遠隔一強」時代が到来すると予測した。

変わりゆく運送業界

テレニシの吉田氏は、遠隔点呼の普及や今後始まる「自動点呼」の制度を見据え、「対面、遠隔、自動の各点呼の中で、各運送事業者が自社に適したものを選べるようになるのが望ましい」と語った。

▲テレニシの吉田寛之氏

その上で、「高齢化する運行管理者や補助者たちが必ずしもパソコンなどITスキルを持っていないことが遠隔点呼の障害になる」(吉田氏)と危惧した。坂口氏もそれにうなづき、「これから運送各社に入社してくる、若いデジタル世代が重要になってくる」とし、遠隔点呼や自動点呼を機に、これまで「リモートワーク」に縁遠いとされていたトラック運送業界も、業態の「ギアチェンジ」が進むと展望した。

坂口氏はまた、トラック運行の安全を担保するのが一番の目的であることを改めて指摘した上で、「自動化や無人化が進んだ場合に、点呼の本来目的である安全担保が忘れられることがないよう、注意も必要だ」と述べ、運送会社と機器メーカー、販売会社、行政が協力し合いながら、点呼制度をより良いものにしていくことが大事だと強調した。

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