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いすゞ自動車に見る商用車メーカーのクラウド戦略

2022年11月10日 (木)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「いすゞなど、商用車の運行管理や稼働支援サービス」(10月5日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

▲パソコンに表示されたいすゞの運行管理サービス「MIMAMORI」の画面(いすゞ自動車提供)

荷主クラウド技術を使ったトラック運行管理サービスの進化が加速している。陸運分野の代表的なDX(デジタルトランスフォーメーション)であり、ドライバーの労働時間規制による「物流の2024年問題」やCO2削減への一つの解決策として需要が膨らんでいる。ソフトウエア事業者などが提供しているほか、商用車メーカーも車載端末を通じた顧客支援として力を入れており、いすゞ自動車が最近発表した拡張性の高いサービスが注目を集めている。

車載機でスマホアプリに対抗

現在の運行管理サービスは、省エネ・安全運行やドライバーの労務管理の支援策で、「テレマティクス」と呼ばれる移動体通信システムを使って運送会社側のパソコンとトラックやドライバー側の端末をインターネットで結び、位置情報や燃料消費などのデータや運行指示のメッセージをやり取りするのが主流だ。両者の間にサーバー上のクラウドが介在し、そこでデータを蓄積・解析したり他のシステムと連携したりすることで、さまざまな新しい機能が登場している。端末はカーナビやデジタコが進化したような車載機と、個々のドライバーが携帯するスマートフォンに大きく分かれ、それぞれ一長一短がある。

おおざっぱに言えば、ソフトウエア事業者などがスマホ用のアプリでこの市場に攻勢をかけ、商用車メーカーが車載機を足掛かりに対抗する構図となっている。商用車メーカーにとって、こうしたサブスク(定額サービス)事業は、車両販売を補完する重要な収入源に成長してきている。

進化したMIMAMORI

▲新型ギガ(出所:いすゞ自動車)

いすゞが10月に全面刷新した「MIMAMORI」(ミマモリ)も車載機を使った運行管理サービスだ。同じタイミングで発売した大型トラックの新型ギガに搭載され、その他の車両にも後付けできる。3段階のサービスプランがあり、利用料は1台につき月額2398~3498円(税込)だ。

いすゞは2004年に他社に先駆けてミマモリのサービスを開始し、顧客の声を反映しながら段階的に改良してきた。今回の改良は、いすゞが富士通などと運用するクラウド型の高度情報基盤「GATEX」(ゲーテックス)と連動させた点が大きな特徴で、機能が従来に比べて飛躍的に進化した。これまでもトラックの現在位置や省エネ運転のための情報をやり取りできたが、24年問題や脱炭素の課題解決への機能が拡充された。

▲カーナビのような見た目のMIMAMORI

主な新機能は、運転日報のカスタマイズ(最大10万通り)▽労務管理帳票の自動管理・集計▽運行指示書と自動連携したスムーズな道案内(商用車ナビ。省エネルートでCO2削減が可能)▽運行管理者がウェブ上で最大6台の車載カメラ映像を確認できる動画ドラレコ――など。点呼機能とアルコールチェッカー連携、気象や災害情報の確認機能なども改良された。運転席の7型液晶ディスプレイは従来品と比べて大きく見やすくなり、タッチパネルで直感的な操作ができる。見た目では、かつてカーステレオがカーナビに置き換わった時のような変化を感じさせる。いすゞ関係者も「フルモデルチェンジと称しているが、新商品と言ってよいほどの進化だ」と話している。

GATEX、データ量と拡張性追求

ミマモリの新たな後ろ盾となったゲーテックスは、富士通が管理するサーバー上で動くクラウドシステムだ。いすゞと富士通、両社合弁のITシステムメーカー、トランストロン(TTI、横浜市港北区)の3社が21年2月から構築を進め、ことし10月に運用を始めた。ミマモリのほか、いすゞのもう一つの情報サービスである車両コンディション管理の「PREISM」(プレイズム)、TTIの運行管理サービスを統一的に運用する。

ゲーテックスの強みの一つは「量」の厚み。全国には130万台の緑ナンバー車両があるが、ゲーテックスにはいすゞとTTIが顧客の運送会社などから預かっている50万台分の情報が蓄積されており、国内の商用車分野で最大規模の情報基盤になるという。データの蓄積量は、アプリサービスを展開するソフトウエア事業者などにとっても生き残りを左右する重要な要素だ。まるでウインドウズパソコンにマイクロソフトのブラウザソフトが標準装備されて市場シェアを獲得したように、いすゞの新車にミマモリが装備され、それに紐づいたゲーテックスにトラックやドライバーの情報がどんどん蓄積されていくことを、競合相手のIT系事業者たちも警戒している。

▲GATEXの概念(クリックで拡大)

3社が「量」とともに追求しているのが「拡張性」だ。今後、ゲーテックスを荷主企業や倉庫会社などの基幹システムやその他の交通インフラともつなぎ、物流に関連するさまざまな課題解決を可能にする戦略だ。ゆくゆくは生産から販売までをシームレスに連携し、サプライチェーン全体を最適化する構想を描く。電気(EV)トラックの普及も見据え、エネルギーマネジメントシステムへの発展も視野に入れる。

販売網生かした顧客サポートも

いすゞは系列販売会社の各地の店に研修などを通じてクラウドに関する知識やノウハウを浸透させている。運送会社の運行管理者たちに、普段から付き合いのある営業マンが操作方法を手厚くサポートするという「アナログ的な」アプローチも整えている。歴史と販売網を持つ商用車メーカーならではのこうした戦術も、新興のIT企業の目には脅威と映っているようだ。

ライバルの商用車メーカーも同様に情報サービスに力を入れている。三菱ふそうトラック・バス(川崎市中原区)は米新興企業のWise Systems(ワイズ・システムズ)と提携し、AI(人工知能)や機械学習を駆使した配送計画システム「ワイズ・システムズ」の搭載を進めている。日野自動車も国内の大手ITベンダーと協力して運行・車両管理サービス「HINO CONECT」(HINOコネクト)を提供しており、加えてHacobu(ハコブ、東京都港区)やドコマップジャパン(同区)と連携した動態管理サービスを展開している。

運送会社の多くは複数メーカーの車両を使っており、いすゞもミマモリを他社製トラックに搭載可能にしている。今後、こうした情報サービスの顧客争奪が商用車メーカー同士でも過熱する可能性がある。(編集部・東直人)