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いすゞがエルフのEV発表、24年問題解決にも貢献

2023年3月7日 (火)

荷主いすゞ自動車は7日、主力車種の小型トラック「エルフ」と中型トラック「フォワード」をフルモデルチェンジしたと発表した。同社初のEV(電気自動車)をエルフに設定したのが目玉で、物流過程での脱炭素化を迫られている運送各社のニーズに応える。安全性や居住性も向上させ、「物流の2024年問題」によるドライバー不足をクルマの魅力向上で解消することにも挑む。

多様な車型を用意

いすゞはこの日、横浜市のパシフィコ横浜で両車種の新モデル発表会を開き、片山正則社長が開発のコンセプトや今後の販売戦略などを説明した。電気自動車の「ELF EV」(エルフEV)はバッテリー搭載型のBEVで、これまで2000種もの車型を必要とされていたエルフのユーザーの多様性に対応できるようEVでも車型の選択肢を複数用意した。操作系やレイアウトをディーゼル車と可能な限り共通化し、これまでディーゼル車で使っていたさまざまな架装にも対応する。

▲ELF EV

重要要素のバッテリーパック(充電池)はコンパクトなもの(1個当たり20キロワット時)を開発し、使われ方に応じて搭載個数を2パック(40キロワット時)から5パック(100キロワット時)まで変えられる。普通充電と急速充電に対応し、外部への電力供給もできる。2024年度には塵芥車や高所作業車向けの特殊架装向けシャシーや、荷室への移動が可能なウォークスルーバンも発売する。

「使う人への思いやり」随所に

新しいエルフのディーゼル車も新型トランスミッション「ISIM」の開発などで燃費性能を向上させ、EVと並んでCO2排出削減に貢献する。ISIMは9速に多段化したことで、エンジン回転数の上昇を抑えられ、誰でも省燃費運転がしやすくなった。新型エルフは全タイプで2025年度燃費基準(JH25モード重量車燃費基準)をクリアし、中でもISIMを搭載した2トン積車は同基準プラス15%の燃費を実現した。

新型エルフはこれまでの商用車にはあまりなかった「使う人への思いやり」を随所で具体化した。トランスミッションの低騒音化による運転疲労の軽減や、トラックのイメージを塗り替える運転心地の良さを実現。運転席ではドライバーの上方・前方・側方のクリアランスを拡大して快適で疲れにくいキャブ空間にした。ハンドルの小径化やシートの材質改善も行い、物流業界の課題であるドライバーの労働環境改善に対して、メーカーの立場から「こたえ」を示した。

3年間温め「満を持して投入」

▲発表会に臨むいすゞの片山正則社長

発表会での報道関係者との質疑応答では、ELF EVに質問が集中した。国内の小型EVトラック市場では三菱ふそうトラック・バス(川崎市中原区)が2017年に「eキャンター」を投入して先行、日野自動車も22年6月に「デュトロZ(ズィー)EV」を発売して追走している。人気車種エルフのEVは「満を持して投入する」格好になった。片山社長によると、ELF EVの車両自体は3年前に完成していたが、あえてすぐに発売せず、3年間、モニター車として複数の顧客に使ってもらい、そこで得た知見を車両や周辺サービスに取り込んできたという。その経験を元に片山社長は「物流の仕事の仕方もEVの導入に応じて変えていただきたい部分がある」と話した。充電スタンドなどのインフラ整備も含め、まだまだ発展途上にある商用EVの将来の姿を、物流企業などのユーザーとメーカーが手を取り合って実現していこうという考え方を強調した。

また片山社長は、他の次世代自動車である燃料電池車(FCEV)や水素エンジン車、合成燃料車についても今後の技術進化によって一気に主役となる可能性があるとした。いすゞとしても「まだ選択肢を残していきたい」と述べ、さまざまな企業との提携も生かして柔軟な開発・販売戦略を行う考えを示した。

新型エルフは標準的なタイプで648万1200円(東京地区希望小売価格、税込)。ELF EVは当面リース販売のみとなる。エルフシリーズ全体の国内販売目標は年4万台に設定した。一方、中型車のフォワードも共通する考え方に基づき、内外装の全面刷新や各種快適装備・安全支援機能の大幅拡充を行う。新型フォワードはことし夏ごろの発売を予定している。

EVの本格的な普及を促すいすゞ自動車の覚悟を示す「トータルソリューションプログラム」

いすゞ自動車が、商用EVの市場展開に向けた動きを本格化させることになった。車両の投入とともに、普及を促すインフラ整備と環境対応の訴求をセットにした市場展開を目指す戦略が、その「覚悟」を示していると言える。裏を返せば、国内におけるEVの市場展開は、充電設備などのインフラが整備されない限り進まないという現実も浮き彫りにしている。

いわゆるEV(電気自動車)の商用における普及については、これまで決して順調に進んできたとは言い難い状況が続いてきた。もちろんモデルの進化も背景にあるだろうが、最大のハードルは航続距離などEVの機能面における課題だった。

輸送用車両は、その稼働エリアを問わず長距離走行が前提となっている。そこで欠かせないのが充電設備だ。大都市圏ではようやく充電機器を備えたスタンドが見られるようになってきたものの、地方部では未だほとんど敷設されていないのが実態だ。ガソリンスタンド並みとは言わないまでも、自社の事業所を含めて給電できる機能が一定程度そろわない限り、まとまった水準での普及は難しいだろう。

物流業界では、EVの本格導入を見据えた実証実験が官民含めて広く進められている。とはいえ、それは極度に狭いエリアであるなど限られた条件下で実証が得られているに過ぎず、普及までにはまだまだ解決すべき課題も多い。

いすゞ自動車がこのたび発表したBEVの市場投入に合わせたトータルソリューションプログラムは、こうしたEVの本格的な普及を阻む壁を取り払う取り組みを車両販売と組み合わせたところに意義がある。

EVの領域において完成車メーカーが社会に提供できる最大のサービスは、もはや車両のスペックを競うことでも販売台数を積み増すことでもない。EVを活用できる環境整備の一翼を担うことなのだ。

本格的なEV社会を創造するためにそれぞれの産業領域で取り組むべきことは何か。こうした能動的な動きが、いよいよ顕在化してきた。いすゞ自動車の取り組みはそれを象徴している。(編集部・清水直樹)

いすゞ自動車に見る商用車メーカーのクラウド戦略

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