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物流施設特集-厚木編-/前編

集中と拡張、厚木が繋げる物流インフラ網

2023年5月22日 (月)

話題神奈川県の中央に位置し、相模川など多くの河川に恵まれ、西部には丹沢山系の豊かな自然環境が広がる厚木市。都心からの距離は46キロ、横浜から32キロに位置し、東名高速道路、新東名高速道路、圏央道(さがみ縦貫道路)、小田原厚木道路などの高速道路網の結節点として交通インフラ整備が進む。物流施設の立地エリアとしては従来から高いポテンシャルが認識されていた厚木だが、新東名の整備状況に合わせて、さらにその動きが加速してきた。首都圏を代表する物流施設の集積地となった「厚木」のポテンシャルはいかほどか。

既存物件に加え新規開発も相次ぐ「物流の要衝」

神奈川県厚木市は、首都圏に位置し、古くから多くの物流企業が進出しているエリアの1つだ。国道129号線や厚木愛甲線などの交通インフラが整備されており、関東地方の物流拠点として重要な役割を果たしている。特に東名高速や新東名高速道路などの高速道路のインターチェンジ沿いや内陸工業団地、尼寺工業団地には多くの物流施設が立地する。

実際、CBREの不動産サービスサイトを見ると、東名高速の厚木ICエリアには、GLP、CRE、センターポイント・ディベロップメント(CPD)など164件もの物流施設が登録されており、集積の高さがうかがえる。

また、不動産投資信託の「REIT」の日本版「J-REIT」で運用されている厚木市の物流施設も15件ある(編集部調べ)。具体的な投資対象物件としては「ロジクロス厚木II」「ロジクロス厚木」「MJロジパーク厚木1」(投資法人:三菱地所物流リート)、「MFLP厚木」(同:三井不動産ロジスティクスパーク)「Landport厚木」「厚木南ロジスティクスセンターB棟」「厚木南ロジスティクスセンターA棟」(同:野村不動産マスターファンド)、「アイミッションズパーク厚木」(同:アドバンス・ロジスティクス)といった顔ぶれが並ぶ。

今後の新規物件の開発も相次ぐ。2024年には「(仮称)LOGIFRONT厚木」(日鉄興和不動産 竣工予定日:春)、「(仮称)SOSiLA厚木金田」(住友商事、5月末)、「ロジスクエア厚木II」(CRE、同:夏頃)、「LOGI FLAG厚木I」(霞ヶ関キャピタル、同:9月)といった施設が完成を予定する。2025年にも「SOSiLA 厚木上依知(住友商事、同:11月末)、「DPL厚木森の里II(大和ハウス工業、同:25年度中)などがオープンする見込みだ(編集部調べ)。

これまでも高速道路網で首都圏をはじめ各地につながることができる条件の良さから、物流施設が集積していた厚木エリアだが、今後も開発の動向から目が離せない。



「巨艦級」物流施設、群抜く汎用性(オリックス不動産)


「SOSiLA」ブランドで新発想の物流拠点を展開(住友商事)


事業展望を具現化して保管型施設で顧客ニーズに応える(CRE)


内陸工業団地中央に汎用性高い新施設(三菱地所)

現地事業者に聞く、物流拠点としての厚木の価値

近年さらに、物流拠点としての重要性を増す厚木エリア。圏央道沿線を中心とした周辺エリアも含めて大型基地の進出も続く。今回編集部では、1970年代から厚木市内に物流センターを構え、同地で長年に渡り多品種商材の3PL事業を展開している企業の責任者に、現地の物流事情について話を伺うことができた。

-御社は1970年代の創業ということで、厚木エリアに拠点を構える多くの物流業者の中でも先駆者的な位置付けになるのでしょうか?

創業当時は、全国各地に拠点が点在していた時代だったと聞いています。時代を経て各拠点が整理・淘汰されていく中で最終的にこの厚木に根付いたと言うニュアンスが正しいかも知れません。

-近年、物流業者の厚木エリアへの進出が増えています。

やはり圏央道インターチェンジの開設が大きなエポックとなりました。2010年代から圏央道沿線に拠点を構える事業者が急増したのも、このあたりをきっかけにという印象です。

-物流拠点としての厚木のバリューが確立したわけですね。

東名との接続による西へのアクセスはもちろん、東北・日本海方面へのアクセスの利便性も向上したことで、物流の拠点としての存在感が確立しました。「物流の要衝」としての位置付けは、これからも物流業者自体が集中する状況も相まって、ますます強くなっていくと思います。

-厚木市は神奈川県のほぼ中央に位置するということも、施設運営上の大きなメリットですね。

厚木市自体が22万人超の人口を誇るのに加え、神奈川県内近隣の各エリアの方々が集まりやすい県央に位置していることが大きいですね。こちらで働く方々もほとんどが市内と近郊の方々です。物流に適した土地柄は、スタッフのアクセス面でも好条件ですからね。

-厚木エリア全体での物流市場の将来的な展望は、どのように捉えていらっしゃいますか?

物流事業者の新規参入は今後も変わらず、「物流の要衝」たる厚木のブランド力を総合的に高めていくことにつながっていくと思います。それに伴って、人材の確保は今現在でもすでに喫緊の課題となっており、今後ますますエリア全体の重要なテーマになってくると思います。それだけに、DX化も含めた労働環境の更なる改善など、各事業者ごとの努力が重要になってくるのではないでしょうか。「物流の要衝」にふさわしい働きやすい環境を提供することが、今後ますます大切になっていくかと思います。

座間、平塚…隣接する地域のポテンシャルは

物流の要衝として今後も物流施設の需給が高まると予想される厚木市だが、2023年の同市の平均地価上昇率は3%と高い水準で推移していることから、厚木エリアに接続しやすい周辺エリアへの進出を画策する企業も少なくないだろう。ここでは、同市に隣接し物流施設が集積するエリアでもある座間市、平塚市の地域特性を挙げ、物流拠点としてのポテンシャルを比較してみる。

厚木市の東部に位置し相模川を市境とする座間市は、面積は17.6平方キロメートルと狭小ながら、人口密度は厚木市の3倍と神奈川県内でも有数の宅地集積地となっている。JR相模線、小田急小田原線が縦断してることからも、労働人口の確保という点では優位性を持つエリアだ。主要道路は圏央道に接続する国道246号が横断しており、広域配送拠点としての適性も持ち合わせている。

▲国道246号線金田陸橋付近の交通案内標識

同市の大規模物流施設の開発は着々と進んでおり、ことし9月には三井不動産、11月には三菱地所によるマルチテナント型施設の完成が見込まれている。物流適地としてのポテンシャルは高いが、宅地開発が進む地域性質から地価はやや高め。国土交通省が公表している2023年の公示地価によれば、座間市の地価平均は、高い地価上昇率を記録する厚木市をやや上回る水準を示した。

県南部に位置し、西部に丘陵地域、南部に海岸が望む平塚市は自然環境が豊かで、子持ち世帯からの人気が高いベッドタウン。一方で6か所の工業団地が点在するなど産業集積地としての側面を持っており、それに伴いかねてから物流拠点の集積も進んでいる。ことしは6月、8月に日本GLPが開発する物流施設が完工する予定だ。

主要道路は新東名高速道路に接続する国道129号や、東名高速に接続する小田原厚木道路が通る。地価平均額は厚木市とほぼ同水準だが、核家族の多い性質から商業的な意味合いの強い都市開発計画が進んでおり、今後もある程度の地価上昇率で推移していくと予想される。

厚木市に比べ座間市、平塚市が優位性を持つ点もあるが、取引先の集積具合など個々の事情を勘案しないとするなら、「物流適地」としての総合評価では厚木市に軍配が上がるとみる。立地面での優位性に加え、今後さらなる新規供給も見込め、進出企業にとって交渉のしやすい厚木市内の物件は魅力的だろう。地価の上昇率は今後も高まると予想されるが、現時点で周辺地域も同程度で推移しているため、決定打にはならないといった印象だ。

厚木をめぐる動脈網、待たれるは新東名全線開通

首都圏と中京圏を結ぶ大動脈となる東名高速道路だが、しばしば渋滞という名の動脈硬化を引き起こし、主要幹線の物流機能をせき止める要因となっている。特に厚木IC・御殿場IC間は頻繁に渋滞が起こる区間の一つだが、これを解決するのが東西のパイプラインとなる新東名高速道路の全線開通である。

新東名は2022年4月に伊勢山大山IC・新秦野IC間の開通工事が完了し、あとは新秦野IC・新御殿場IC間の接続をもって全線開通となる。区間途中の高松トンネルの採掘工事が難航しており、完工時期は当初予定の20年度から23年度に、ことし1月にはさらに4年ずれ込み27年度となる見通しだ。

▲新東名高速道路の開通状況。新秦野IC〜新御殿場ICが未開通区間となっている(出所:NEXCO中日本)

厚木市における新東名の玄関口となる厚木南ICから西隣に東名・新東名の結節点となる伊勢原JCTがあり、新東名が全線開通となれば、伊勢原JCT・御殿場JCT間を東名と新東名の2本の大動脈で接続できるようになる。物流業界においては車両の流れを良くするのはもちろん、長距離ドライバーの労働時間管理の点でも大きい。東名沿線がかつてそうであったように、新東名沿線の産業集積がさらに活発化するのは自明の理で、今後は厚木市内の物流施設の価値がさらに高まっていくと考えられる。

また、新東名の全線開通により、東名における交通車両数も整理されることで、東名沿線においても多大な経済効果をもたらすと考えられる。NEXCO中日本がまとめた資料によれば、1969年に全線開通された東名では、2017年には開通時の3倍もの車両が通るなど利用者は2010年代まで増え続け、GDP(国内総生産)も比例して成長を続けている。新東名がつながることで、頭打ちとなっていたインフラ整備による経済成長効果を再び享受できる体制が整う。

貨物量の動きという点では、東名の全線開通(1969年)から2009年までで東名を通過した貨物量は7倍にまで増加している。さらに12年1月に新東名の御殿場JCT・三ヶ日JCT間が開通すると、15年には東名・新東名を合わせた貨物交通量は1969年の3倍に跳ね上がった。新秦野IC・新御殿場IC間の接続は当然これらの数字をさらに伸長させる。

厚木を縦断する圏央道は、2017年2月に境古河IC・つくば中央IC間が開通したことで、沿線全体の新規増設企業数は13年からの3年間で3倍に膨れた。17年の同沿線には13年比で4倍の大型マルチテナント型物流施設が建設されている。同区間の開通に伴い、東名の厚木IC・秦野中井IC間の交通量も5%増加しているなど、厚木市周辺にまで好影響は及んでいる。

>>後編「物流の要衝・厚木の今を支えるヒトと街づくり」に続く



「巨艦級」物流施設、群抜く汎用性(オリックス不動産)


「SOSiLA」ブランドで新発想の物流拠点を展開(住友商事)


事業展望を具現化して保管型施設で顧客ニーズに応える(CRE)


内陸工業団地中央に汎用性高い新施設(三菱地所)