話題午前中の3時間半に17か所の顧客へ飲料水の箱を届ける。これが、ドライバーとしての初仕事となった。宅配業務である程度の経験があるならば、決して難しい仕事ではないのかもしれない。しかし、初めて荷物を配送するプロとして挑むにはハードルの高いミッションであることも確かだろう。
2つの市にまたがる17か所について、スマートフォンの地図アプリケーションで改めて確認してみる。するとどうだろう。配送の出発点でありゴールでもある物流センターを取り巻くように半円状の分布が浮かび上がってきた。ところが1か所だけ、まるで飛び地のように円弧から離れたポイントが存在していることも分かった。
「半円を時計回りに巡るルートがスムーズだ。ところで、飛び地の1か所をどうするか」。最初に飛び地を回ってから半円をたどるか。あるいは、半円をクリアしてから飛び地を押さえるか。ここは先輩の意見を聞いてみようと思い立ち、忙しそうな姿を追いかけることに。親切にも足を止めてくれた若手のベテランの答えは明快だった。「センターから遠い『飛び地』から行くべきです。ファイナルアンサー!」
そうか。配送業務におけるルート選定について、「ルートは一筆書きがベスト」という鉄則が存在するのは、以前から知っていた。今回ほど、その原則を忠実に守るべきチャンスはないのではないか。それがいざ実業となると、すっかり忘れ去って頭に浮かんでこないとは。
「これだから実務を知らない評論家が『机上の空論』をもてあそんでばかりいると言われるのだ」。そんな声が聞こえてきそうだ。でも事実だから仕方がない。それを克服するために、ドライバーズライターを目指すのではないか。あくまで前向きに解釈して突き進む、それは初心者に与えられた特権なのだ。
ルートは決まった。さあ、新たな人生のスタートだ。時刻は午前7時55分、8時半に始まる午前中の配送に向けて、軽バンのアクセルを踏み込んだ。(つづく)
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