話題午前中の配送も、正午までに完了できるめどが立った。最後の配送先へ出発した時点で、時刻は午前11時半。4分で到着できる距離にあることから、ルートを誤らなければ時間内に配れるとの算段だった。
午前中の最後の配送先は、代引きを求めている。つまり現金決済だ。近年はクレジットカードでの決済が広がり、代引きを希望する顧客はほとんどないという。今回の配送でも、代引きによる決済を選択している顧客は1人だけだった。
とはいえ、現金による支払いに安心感を抱く顧客が一定数、存在していることも事実だ。こうした顧客への丁寧な対応も、配送業務における重要なポイントとなる。
予定通りに4分で到着した配送先で、呼び鈴を鳴らす。「はい」。在宅していることが確認できた。「お水の配達でございます。代引きでのお支払いと承っております」
しばらくして、家人の女性が姿を見せる。「代引きやね、悪いけど次にしてくれる?」
顧客にも何らかの都合があるのだろう。この日は飲料水の箱を持ち帰ることになる。顧客に改めて指定してもらう再配達の日時に、再び配達する対応となる。私が玄関を辞する際に、女性が「本当にごめんなさいね」と丁重に声をかけてくれた。
さまざまな事情に柔軟に対応するのも、配送員の「スキル」なのだ。こうした学びは、実務体験でしか分からない領域なのかもしれない。
後日に聞いた話だが、この顧客は4日後の再配達で無事に飲料水を受け取ることができたという。私が訪問した日の事情をあれこれ想像するのではなく、むしろ飲料水が届けられたことに胸をなでおろした。配送員という仕事を続ける中で、こうした顧客の事情を察してしまう場面もあるだろう。しかし、ここは配送員の本分である「正確に荷物を届ける」姿勢に徹することで、顧客の信頼を得ることが大切であることを、改めて認識する機会としたい。(つづく)
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