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JILSが見つめる物流危機と、ロジスティクス改革

2023年8月24日 (木)

話題ことしの「国際物流総合展2023 INNOVATION EXPO」は、ドライバーの時間外労働の上限規制が施行される、24年4月1日へ向けて最後の開催となり、それだけに展示される技術やソリューションへの注目度、期待度も高い。

▲JILS総合研究所所長、北條英氏

同イベントの事務局を務めるのは、日本のロジスティクスの高度化などで業界改革に取り組み、調査研究、政策提言、経営指導、人材育成などを展開する日本ロジスティクスシステム協会(JILS)。「2024年問題」をテーマとする対応が早急に必要とされるこのタイミング、改めてイベント事務局でもあるJILSとしての物流危機に対する現状認識や、開催意義、各ブースを効率的に体験する歩き方など、同協会の理事であり、今回のイベント事務局次長を務める、JILS総合研究所所長、北條英氏にインタビューした。

物流業界の「失われた30年」、変わらぬ多重下請け構造

──まず最初に、北條さんは「2024年問題」を、どのように捉えていらっしゃいますか?

私は2024年問題を、「内なる貧困と、職業差別が顕在化したもの」と捉えています。トラックドライバーの時給は、さまざまな業界の中でも最低レベル、労働時間については最長レベルという状況。安い賃金で長い労働時間、物流の現場を支えてきたドライバーたちが、ついに悲鳴を上げ始めたということではないでしょうか。

──かつてはトラックドライバーは稼げる仕事だったはずです。

高卒男子にとっては魅力的な職場で、がんばれば稼げる、そんな時代があったのですが、やはり90年の物流二法の施工から変わってしまいました。参入規制が緩和されて、運送事業者が一挙に増えた。でも、荷物はそんなに増えたわけではなく、貨物の奪い合いが起こる状況が生じ、まさにそれを契機に、運送事業者の賃金指数が下がり続け、業者間の過当競争の原資に、ドライバーの賃金が当てられる状況になってしまいました。

──規制緩和があった90年からだと30年が経過したわけですが、その30年間でわれわれはどんな対策をしてきたのか、そんな課題も浮き上がります。

物流業界にとっては、まさに「失われた30年」となってしまったわけで、物流ドライバーの低賃金、長時間労働をベースにした産業構造になってしまった。売上高物流コスト比率と運送事業者の時間あたり収入の相関関係を見てみると、荷主が払った物流コストが、運送業界全体へ還元されない状況になっていったのが見て取れます。特に小規模事業者の伸び率は横ばいどころかマイナスになっており、業界全体での収入の伸び率を押し下げる結果になっています。

──この30年間といえば3PL事業の日本での誕生から発展とも時期が被るわけですが、結果としては、業界全体として物流危機に直面してしまっている。3PL業者が、効率化やコスト重視のなかで自社の配車機能などを切り捨ててしまったことも、丸投げや多重構造化に拍車をかけているように思えてなりません。

全国6万社を超える運送事業者のうち、保有車両50台以下の企業が9割以上、10台以下の小規模企業が半数以上で、これらほとんどの運送業者は多重構造の下請けとして厳しい経営環境が常態化しています。運賃の適正化などに業界一丸で取り組まねばならないのですが、利用運送事業者なども取り込まれて、より複雑化して見えにくくなっているのではないでしょうか。

▲保有車両ごとの企業の比率

ロードファクター良化など、これからの荷主の使命

──運送業の大部分を占める小規模事業者が、運送システムを維持するための多重構造の中で儲からない仕組みが出来上がってしまった。さらに、北條さんは、貨物輸送におけるKPIとも言えるロードファクターの悪化を指摘されていますね。

多重下請け構造と、ロードファクターの低下は、物流危機の根幹です。営業トラックのロードファクターは出荷の小ロット化を反映して下がり続け、40%に満たない状況が続いています。トラックの稼働率や積載率を見直してロードファクターを良化するには、運送業者だけでは無理で、荷主とともに商流自体を変えないと不可能なんです。出荷ロットを大きくすることで、ロードファクターは回復するのですから、発注の仕方など物流の構造を、商流とセットにして変える、つまり、荷主企業の意識改革も含めた、まさに戦略としての「ロジスティクス」の発想が大切だと思います。

──「物流革新に向けた政策パッケージ」の中では、荷主企業の役員クラスに物流管理の責任者、欧米で言うCLO(Chief Logistics Officer)の配置義務化について言及されています。

物流関係責任者の義務付け、CLOの設置というのは、まさに荷主の意識改革を促し、責任の所在を明確にする仕組み。ただそのための人材育成には時間がかかりそう。本来、物流自体が企業戦略として捉えられるべきもので、物流担当者だけではなく経営レベルにおいて、コスト比率などを把握するためにも積極的に取り組むべきこと。不合理な発注、丸投げではなく、ロードファクターを良くすることで物流システムを最適化し、経営戦略として何ができるか再検討することも、荷主の重要な責任であり、その判断の指針となるデータベースを、業界全体で構築することが大切です。

急がれるデータの共同利用と標準化の取り組み

──荷主の中には物流運送業界を「暗黒大陸」などとと例える方もいますが、一方で「とりあえず運んでくれればいい」という意識の荷主もまだまだ多い。商取引と物流取引の多層化や共有できるデータがないことが、荷主にとっても、物流サービスとそれに伴う負荷を見えにくくしています。フィジカルインターネット、ビッグデータの共同利用など、荷主と運送業者、さらには各種システムベンダーなどの垣根を超えて構築する必要がありますね。

物流システムの改革には、フィジカルインターネットの構築、見える化が大前提となりますが、まだまだ見えない部分が多すぎる。あらゆるビッグデータを見える化することで、何をするべきか考える材料が集められるようになるなど、物流サイドから荷主に対して論理的に明示化することが大切になります。

──物流業界が必要とする人材像も変化していきます。

見える化、ビッグデータのプラットフォーム化で物流を再検討すること、例えば、トラックドライバーが荷役現場でどんな働き方をしているのかのデータ、物流センターでのドライバーの滞留時間のデータなどを集めることができるソリューションがあれば、物流現場の最適化にすぐ利用できるのではないでしょうか。ドライバーが本来業務ではない荷役作業をしている現場、荷待ち時間が無駄に長い現場などがデータ共有できれば、それ自体が物流センターの通信簿として判断基準が生まれます。不合理なものにはノーと言う、廃止する、反対にプライシングできるものは育てるなどの判断基準となるデータを集めて、活用するルール作り、コンセプト、思想作りが大切です。

──問題は、その旗振り役を誰がやるのかということですね。

目標が「標準化」へ向けた基盤作りなので障害は多いですね。荷主は、カスタマイズに走りがちですが、そうではなく、標準化を進めることは、あるべき標準化ルールに、自社のシステムを合わせていく方向へシフトする必要があります。

──JILSによる提言も、業界全体に対しての改革の「旗振り」の一つですね。

業界の従事者が今、持つべきものは、主体性や、健全な批判精神、自立性みたいなものになるのではないでしょうか。データをロジカルに分析し、正しいこと、建設的なことを発言し、リードするロジカルな能力が必要です。従来の商慣行のまま荷主の要求に合わせるというやり方ではなく、データを通した政策提言など、言うべきことは言い続けていくつもりです。

物流業界だけが取り残されている改革

──抜本的な人手不足に対しての対応も急がれます。

倉庫施設では外国人の雇用も一般化しており、ドライバー業務に関しても外国人の雇用も視野に入れるべきタイミングのような気がします。ただ、外国人雇用に関しても、やはり課題となるのは賃金。もはや外国人を安く使う発想の現場は見透かされている状況なので、まずはやはり業界の構造改革自体が進まないと始まりません。

──同じ、いわゆる3Kと言われていた建設業では、下請け構造の適正料金などへの変革も進められ、低賃金、長時間労働などでは、物流業界だけが取り残されている状況ですね。

物流業界は、価格転嫁が起きにくい業界の代表とされており、下請け構造が見えないことで、実際に荷物を届けている下請け、孫請け業者がわからないなんてことも一般化しています。現在、建設業界の取り組みを参考に、運送業界でも「運送体制台帳」作成による多重構造を見える化できるルールを取り入れ、元請け運送者に義務付けするような提案もされています。また、ASN(事前出荷情報)でトラック単位の検品を行うという動きも、運送会社名はもちろん、運んだドライバーの名前などの見える化につながり、多重構造が見えやすくなる。適正料金化や労働環境改善の障害となる商慣行を、データを基に変える方法はまだまだあると思います。

国際物流総合展2023 INNOVATION EXPOの意義

──さて、さまざまなデータを通して、よりリアルな物流危機を実感してしまいました。課題が山積することを再認識しつつ、さて、そんな状況のなかで開催される「国際物流総合展2023 INNOVATION EXPO」となります。改めてどんな意義があると考えていますか?

私たちは、ロジスティクスの思想を、日本の産業界に普及させることを目標とする団体であり、今こそまさに、それを強力に推進するタイミングだと思っています。この大事なタイミングで開催することこそが重要であり、大きな意義があります。物流業界を暗黒大陸などと呼ばせない、光を呼び込む技術がこの国にはたくさんあります、ぜひ探しに来てください。

──今回、主催者企画展示というものを設けていらっしゃいますね。

まさに今回お話しした課題を解決するためのさまざまな技術、サービスを集めて「2024年のその先へ〜フィジカルインターネットによる未来への進化〜」と題した主催者パビリオンを設けました。物流業界の課題解決に向けた「フィジカルインターネット」の実現をテーマにしたソリューション、要素技術を多数展示します。展示会でどのブースを見にいくのか、まずはここを入り口として、各々のプランを組み立てられるようになっていますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

──まずは、主催者パビリオンをハブとして、それぞれの歩き方を決めてはいかが、ということですね。もしも迷子になったら、ここに戻って来なさい、と。

それぞれの課題感を持って来ていただければ、ピタリとハマる展示を見つけられるはずです。出展者、来場者の皆様といっしょに、新たな産業を作り出す場所にできればと思っています。