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LT Special Report

現場感性に響くデータ活用、大和物流の拠点運営DX

2023年11月20日 (月)

話題筆者は本物の物流DX(デジタルトランスフォーメーション)を見せつけられた気がした。物流現場におけるデータ活用の取り組みが、持続的成長のカギを握る優秀な現場リーダーを育成し、拠点運営を強靭化、ひいては物流会社の事業拡大につながっていること。そして、この取り組みが、社内の限られた人のものではなく、すべての従業員に開かれた「データの民主化」を実現していることに驚きを覚えたからだ。

今回取材した大和物流は、クラウド型データ活用プラットフォームを用いることで、現場で働く倉庫作業員から営業所の所長、経営層レベルまで、等しく「データをもとに会話する」社内文化を創り上げた。その秘訣は、「感性に響くデータを創り上げること」という一言に集約されている──。(物流ジャーナリスト・坂田良平)

物流における効率化や自動化が、物流事業者に与えるジレンマ

大和物流は、大和ハウスグループの物流子会社である。と言っても、グループ内物流の割合は、3割強。従業員数1423人、売上高629億円(2023年3月期)という企業規模は、物流業界では準大手のポジションだ。なぜデータ活用を必要とし、その取り組みに踏み切ったのか──。

▲大和物流 経営企画部長兼情報システム部長の岡貴弘氏

「コロナ禍や地政学など外部環境の変化が不透明な『VUCA時代の成長戦略』をどう描くか、というのはとても悩ましい課題です」

経営企画部長兼情報システム部長の岡貴弘氏は、このように背景を語る。2024年問題をはじめとする物流クライシスのリスクを抱える物流業界(あるいは物流ビジネス)は、大きな変革期を迎えている。

例えば、政府が推し進める「物流革新における政策パッケージ」では、「トラックドライバーには、原則として運転以外の業務をさせるべきではない」という方針を打ち出している。だが、もし車上渡しがトラック輸送における標準となってしまったら、運送会社としては差別化の手段を1つ失うことにもなりかねない。また、倉庫ビジネスにおいては、自動化が進んだ結果、ともすれば規模、あるいは自動化機器の優劣が、イコール倉庫の優劣にもなりかねない。

では、世の物流事業者は、どうやってこのジレンマを乗り越え、物流事業を維持・拡大していけばいいのだろうか?

優秀な倉庫作業員が「持続的成長」のカギとなる

こうした問いに対し、大和物流が選択した取り組みの1つが、データ活用だった。だが、物流事業者において、データ活用を推進することは、容易ではない。課題となるのは、IT活用の経験値とモチベーション(動機)である。

(イメージ)

あくまで一般論だが、物流従事者の多くは、IT機器やシステムを操作することには慣れているものの、そこから何かを生み出すことには慣れていない。なぜなら、長らくコスト部門と考えられていた物流現場では、新たな投資を伴う現場発の提案を通すのが難しく、結果として「限られたリソース(裁量権)の中で如何に捌くか」に焦点が当てられてきたからだ。また、手の届く範囲の創意工夫で現場をまわしてきた自負もある。ゆえに、日頃から新たな技術に触れている情報システム部門や企画営業職のような職種を除き、現場職に近づくほど、IT技術を用いて何かを生み出すことに苦手意識を持つ人が多くなる。

苦手意識のあることに対し、人はモチベーションを維持できない。慣れていないうえに、効果を体感できないものであれば、なおさらだ。結果、「当社は物流DXを実現しました!」と喧伝している物流事業者でも、実際にデジタルツールを日常的に利用しているのは、一部の人間だけであるケースも少なくない。

▲大和物流 東関東地区リーダー兼千葉支店長の神先譲氏

ところが、大和物流の場合、このような社内における情報の非対称性を起こすことなく、全社員が日常的にデータ活用を行うことができる「データの民主化」を実現した。 しかも、日常業務におけるデータ活用の利用頻度は、倉庫作業員などの現場職のほうが多いケースもあるという。

実際に倉庫現場の指揮を執る、東関東地区リーダー兼千葉支店長の神先譲氏は、「人や担当する業務によって異なりますが、倉庫業務担当のリーダークラスだと、一日に何度も『Domo』(ドーモ)のプラットフォームでデータを確認しています」と証言する。Domoとは、大和物流が採用したクラウド型データ活用プラットフォームである。

▲大和物流の社内ネットワークからアクセス可能なイントラサイトのトップページ。ここから、従業員らは各支店のデータにアクセスすることができる(この先のダッシュボードは記事中盤以降で紹介する)

なぜそんなに頻繁に、しかも現場担当者がデータを確認する必要があるのだろうか。ポイントは、千葉支店の業務内容にあった。