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ドローン物流補完による我が国サプライチェーンの強靭化/Professional TALKS

【前編】各種物流革新案を補完するドローン物流

2023年12月21日 (木)

話題あらゆる分野の専門家が、多角的な視点から物流を捉えた分析記事をお届けするProfessional TALKS。今回は「次世代空モビ」産業創出に向け尽力されている田邊敏憲氏に、「ドローン物流補完による我が国サプライチェーンの強靭化」というテーマで、前後編にわたって解説していただきました。3次元ドローン物流による「シン・物流」の有効性、またその課題とは──。

物流環境の激変と各種物流革新案

「2024年問題」、ドライバーや船員の高齢化、過疎・都市化の2極化、ゼロエミッション対応など、物流を取り巻く環境は激変しています。加えて、国際的にも米中摩擦問題激化にコロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻の影響、直近では中国の日本海産物全面禁輸などもあり、強固なサプライチェーン(工業製品のみならず食料、エネルギー)構築が各国の喫緊の政策課題となっています。

こうした物流環境の激変、強固なサプライチェーン構築の政策要請に対し、日本国内でも各種物流革新案が提示されています。「モーダルシフト」(鉄道、内航海運)や日本列島大動脈としての「新幹線物流」構想、企業間の共同配送システム構築、積み替えコスト低減に向けたコンテナ容器の標準化、各地域の共同配送センター構築と「中継輸送」案などです。これらは従来の2次元物流での革新構想ですが、本稿では、最近の世界的な新交通手段である3次元空モビ(無人機ドローンおよび「有人空飛ぶクルマ」)物流補完による我が国サプライチェーン強靭化策を提示します。

▲空飛ぶクルマ(出所:スカイドライブ)

日本において、なぜドローン物流が重要なのか?

人口減少下、4島で構成される島しょ列島、山脈縦断列島、震災時の道路寸断リスク大といった日本国土の特性にマッチし、しかも過疎・都市化の2極化が進むなか、各地域に遍在する重い農水産物の物流を担うには、重量物・長距離飛行ドローンが不可欠となります。

空モビ輸送に関し英国の事例研究では最も可能性が少ないと評価されている貨物輸送に関しても、我が国においては例えば東京都島しょから調布空港へ定着している鮮魚・活魚の輸送や、高度部品のジャストインタイム配送などが、新たな物流分野となります。我が国はこれらの利用は陸路で定着していますが、無人機ドローン物流はこれを補完できることになります。特に水産基地東北からの鮮魚・活魚の輸送は東北震災復興の施策となるのではないでしょうか。

災害大国・日本におけるSC強靭化担う「シン・物流」

▲ことし6月末、大雨で地すべりが発生した大分県由布市の孤立世帯へは、ドローンによる緊急物資配送が行われた(出所:大分県)

この3次元ドローン物流で補完されたサプライチェーン強靭化策は、いわば「シン・物流」とも呼べるでしょう。すなわち、日常不可欠な物流を経済合理性を伴って提供できるだけでなく、災害時の道路遮断や大洪水による孤立地域などへの非常時の公的インフラとして、いわば「フェーズフリー型物流システム」へと進展します。これまでも東日本大震災時などに、全日本トラック協会からの主導により、県市町村との間で災害時緊急物流を担い、事後清算するといった措置がとられてきましたが、これを「ドローン物流を組み込んだフェーズフリー型物流業」として制度化する考え方です。いわば消防車や救急車の機能を災害時、道路遮断時には3次元物流事業者が即担える制度づくりです。

さらには、ことし8月のハワイマウイ島山火事によって、地球温暖化による最大災害の一つは山火事との認識が世界的に強く共有されつつあります。(煙に巻かれるリスクを避けるため)「緊急時人命救助用無人機」の必要性がにわかにクローズアップされ、非常時の「人貨輸送無人機」としても重要性が増しています。

3次元ドローンによる「シン・物流」早期実装への課題

3次元ドローン物流の早期実現には、大きくは技術的課題と、物流業者などの「原価計算」が成り立つような経営環境制度構築の2点がポイントとなるでしょう。技術的課題としては、何といっても「高重量物資の長時間・長距離輸送」を可能とする大型ドローン機体の開発が不可欠です。かつ国の機体安全性検査基準取得(型式認定)も必要となります。

▲ガスタービン発電機搭載ドローン

大型ドローン機体開発には既存のリチウムイオンバッテリーでは動力不足ですが、幸いにも代替手段として高回転のタービンエンジン駆動発電機とバッテリーのハイブリッドパワーシステム(HPS)に期待できる状況です。この動力の壁クリアを確認できれば、国としても、離着陸重量150キロ以上のドローン機体製作を試験機にとどめている現在の認可方針を変更する方向とされています。もう一つの大きな技術的壁は、冗長性(2・3重化)の制御装置ですが、飛行制御装置(FC)、バッテリー、モーター&ESC(Electric Speed Controller)各部の開発も進展しています。FC分野では、日本で初めて信頼性をデータで保証したハード装置を開発した企業も登場しています。このほか通信システムの整備も残されていますが、離陸まであと一歩の状況です。こうしたドローン機体は自動車産業での修理や定期点検サービスと同様にMRO(Maintenance、Repair、Overhaul)サービスが必須となりますので、MRO事業は新規事業になると考える大手物流会社も出てきています。

もう一つの課題、経営環境制度の整備に関しては、ドローン機体の運用コストの明確化はもとより、経済効果を極大化できる「最適空域圏」の設定がカギとなります。対象貨物の調査はもとより、都道府県の枠を超えた飛行ルートや既存空港(日本には面積当たり世界最多数の93空港)を含めたVertiport・Vertispotの設定作業が必要となります。従って、制度設計の参加プレイヤーは、物流業だけでなく、公的サービス提供の地方自治体や電力・鉄道・通信などインフラ企業、地元企業、さらには世界で使用されている「空域」設定ソフトを無料で利用できる大学など含めて、「地方創生」にも資する社会制度イノベーションの担い手になるのではないでしょうか。

▲瀬戸内九州空モビ圏

既に、「北九州空港24時間Vertiportハブ化」といった構想を視野に入れている北九州市、あるいは防災・減災を目的とした「神石高原町ドローンコンソーシアム」設立で先行する広島県などを中核とした「瀬戸内九州沖縄空モビ(AAM)産業社会実装構想」(仮称)推進に着手しています。この構想は経済効果極大化に向けた「空モビサービス産業創出」および「空モビモノづくり産業創出」を2本柱としています。こうした国民運動的な作業に、是非とも物流を本業とするプレイヤーにもご参加いただけるよう、後編では実際の現場情報などを含めてより詳細にお伝えします。

▶【後編】大型ドローン物流の社会実装に向けて

■田邊敏憲氏 略歴
京都大学法学部卒。25年間の日銀勤務を長崎支店長で終え、シンクタンク主席研究員、企業役員、大学学長等を歴任。2018年にADJを設立、純国産のAAM(次世代空モビ)モノづくり産業及びDaaS(Drone as a Service)産業創出に向けて注力中。