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ドローン物流補完による我が国サプライチェーンの強靭化/Professional TALKS

【後編】大型ドローン物流の社会実装に向けて

2023年12月21日 (木)

話題あらゆる分野の専門家が、多角的な視点から物流を捉えた分析記事をお届けするProfessional TALKS。今回は「次世代空モビ」産業創出に向け尽力されている田邊敏憲氏が、「ドローン物流補完による我が国サプライチェーンの強靭化」というテーマで分析。後編では、3次元空モビが普及することによる国内産業の展望と、その実現に向けた具体的な動向、事業化に際しての融資活用事例についても解説していただきました。

▶【前編】各種物流革新案を補完するドローン物流

空モビ物流サービスの早期実現には?

最初に実現する空モビ物流サービスは、2024~26年にかけて耐空証明取得予定の海外エアタクシー導入による「人貨輸送サービス」でしょう。ただエアタクシー導入予定先は、空港と都心とを結ぶ航空会社の付帯サービス、あるいはインバウンド富裕層の近距離観光地への輸送、すなわち新幹線のある日本ではなかなか難しいとみていたホンダジェットが、最近国内市場向けとして導入予定とされるサービスです。

▲ホンダジェット(出所:本田技研工業)

ただ、この限られた旅客輸送市場では採算確保が難しいのではとの声もあります。これが、旅客ではなくパイロット操縦による物流サービスとなると、さらに採算確保が難しく、持続可能性に疑問を投げかける声も多く存在します。

加えて、導入予定のエアタクシーは全てバッテリー動力であるため、急速充電器を装備したVertiportのみならず、航空機と同等の運航機能やMRO(Maintenance、Repairはもとより、高度なOverhaul機能が必須)インフラを備える必要があり、列島縦断新幹線を擁する日本では、エアタクシー「人貨輸送サービス」の実現までには多くの検討課題があると思われます。

残された技術的課題はパワー半導体回路

他方、前編で述べたように人口減少下での日本国土の特性にマッチした「高重量物資の長時間・長距離輸送」大型ドローンの技術開発はあと一歩です。200キロワットタービンエンジン駆動発電機と小型バッテリーを組み合わせたハイブリッド動力システム(HPS)を搭載し、ハイブリッド機体(垂直離着陸機能+固定翼水平飛行機能)での「100キログラム荷物×1時間150キロメートル飛行」が可能なドローンの国産化が可能となっています。大型ドローンは機体安全性検査基準(型式認定)がエアタクシーで必須の耐空証明ではなくクリアできる上、民生物流だけでなく、公的な防災・緊急時人命救助・防衛など含めたフェーズフリー輸送の「DaaS」(Drone as a Service)として高稼働利用が可能です。これによって、持続可能な3次元空モビ物流システムが成立します。

▲ガスタービンドローン

ただ、残された技術的課題が1点あります。世界的な車メーカーのEV(電気自動車)開発ラッシュに伴い、大型ドローン軽量化の高電圧パワートレインに必須の米国社製パワー半導体回路(DC/DCコンバーター)が入手できない事態になっています。ただ幸いにも、産総研では10年前から同社製のシリコンベースパワー半導体に比べ優れるSiC(シリコン+炭素化合物)ベースのパワー半導体開発を進め、回路の製品化が可能な局面を迎えており、継続的量産関係を築ける民間ファウンドリーも登場しています。SiCの原料は、日本企業が開発した航空機素材CFRP同様に国内にも豊富な資源ゆえ、強靭なサプライチェーン構築に寄与します。

換言すると、我が国電動空モビモノづくりの拡大は、日本のパワー半導体回路開発の発展、関連素材のサプライチェーンを支える物流の増大、半導体立国復活という好循環産業構造を引き出します。空モビモノづくり産業が電動時代のマザーインダストリーになり得るわけです。

空モビサービス産業づくりの動き

一方の空モビサービス産業づくりでは、持続的な「空モビ物流システム」に向けた経営環境整備が重要です。2次元物流だけでは難しかったフェーズフリー物流(民生サービス+公的サービス)の担い手たる物流業者などのエコノミクスが成り立つ「対象貨物および空域圏」の明確化が何よりもまず求められます。「最適空域圏」に関与する地方自治体を軸に、Vertiportの最適配置や既存地上網との競合解析などを行うシミュレーションソフトなどを利用できる大学の参加に加えて、2次元物流の担い手、あるいは本業の生産性を上げ得るインフラ企業、航空宇宙関連モノづくり企業などの参加も期待されます。産学官連携の「地域創生」チームの出現です。

▲Vertiportイメージ図

前編でもふれた「瀬戸内九州沖縄空モビ(AAM)産業社会実装構想(仮称)」について紹介しましょう。広島県では、広島大学や14年5月設立の航空コンソーシアム「エアクラフトひろしま」参加企業などを結集し、「空モビ空域圏設定」「空モビモノづくり」を2本柱とする研究会を立ち上げる予定です。ちなみに「エアクラフトひろしま」参加企業は、航空部品製造では不可欠のJISQ9100認証企業13社、Nadcap認証企業8社という高いモノづくり能力を備えています。環瀬戸内の広域エリアでは、ヤマト国際貨物便の国内拠点空港の一つ、北九州空港の「24時間Vertiportハブ化」を目指す北九州市との連携も期待されています。

参加プレイヤーと政策予算

3次元空モビ物流の参加プレイヤーは、重量物・長時間輸送ドローン物流を「DaaS」として高稼働での採算確保を目指すことになります。対象貨物としては、高圧鉄塔電線や通信線、鉄道あるいはタンクなどのメンテナンスに伴う大量の資機材・塗料などが新たに加わり、インフラや製鉄・石油化学プラント関連企業などの参入の動きも出てきています。

特にヘリなどの接近が禁止されている高圧鉄塔電線や線路上空の空間は電力・鉄道の地表インフラ所有権を生かした「空モビハイウエー」にもつながるとして、参入インセンティブが働きます。現に、東京湾岸工業地帯などと並び、製鉄所や石油化学プラント、タンクが林立する瀬戸内沿岸地域では、プラントなどの高コスト塗装メンテナンスなどでの無人機ドローン運用に大きな期待が寄せられています。

かかる構想実現のための資金として、国の「地域創生」政策予算や企業向け融資減少の地域金融機関資金の活用事例を紹介します。宮崎県延岡市では「デジタル田園都市交付金」による救急医療用「ドクター空モビ」サービスを実施します。AI・ロボット=デジタルの象徴である「空モビ」は本交付金の対象との発想でしょう。また防災・減災を目的とした「ドローンコンソーシアム」構築に向けて、広島県神石高原町では総務省「地域経済循環創造事業交付金」を活用すべく研究中です。産官学金連携による「公的交付金+無担保・無保証の地域金融機関融資」での事業推進モデルです。地域金融機関の事業審査力・アドバイス力に期待した制度ですが、物流業者などの「原価計算」が成り立つ「対象貨物および空域圏」の明確化は地域金融機関の審査をもサポートし、文字通りモノ・カネ両面での好循環が実現します。是非、皆様と我が国サプライチェーン強靭化に向け共に走りたいと願っています。

■田邊敏憲氏 略歴
京都大学法学部卒。25年間の日銀勤務を長崎支店長で終え、シンクタンク主席研究員、企業役員、大学学長等を歴任。2018年にADJを設立、純国産のAAM(次世代空モビ)モノづくり産業及びDaaS(Drone as a Service)産業創出に向けて注力中。