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物流危機解決のためのサプライチェーン効率化へ向けて/Professional TALKS

「物流データ標準化」へ、その道のりの考察【後編】

2023年12月22日 (金)

話題あらゆる分野の専門家が、多角的な視点から物流を捉えた分析記事をお届けするProfessional TALKS。今回はデータ活用とDX化による物流効率化を目指すシマントの和田怜社長に、「物流危機解決のためのサプライチェーン効率化へ向けて」というテーマで、前後編にわたって解説していただきました。後編では、データフォーマット統一への3つのアプローチ方法を提示、それぞれの特徴、課題とは──。

▶【前編】

本コラム前編では、物流現場でDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進まない現状と、物流改革を加速する上での喫緊の課題である「データフォーマットの統一」の重要性について説明しました。

現状では、荷主側の基幹システムが異なるため、データの受け取り側の物流事業者はそれらのデータフォーマットの違いを吸収しながら非生産的な工程を強いられていること、データフォーマットの違いから、現場レベルで統一的な配送リソースを把握することが難しく、エクセルなどの転記リレーも配送リソースデータのサイロ化を助長している状況。これでは、「モーダルシフト」や「中継輸送」といった物流改革アプローチにつなげることができません。

まずはデータフォーマットの違いを克服することが、改革のスタートであり、ハードルとなるのです。

データフォーマット統一への3つのアプローチ

これらのデータフォーマットの違いを解決するために、次の3つの主要なアプローチが存在します。

・デジュールスタンダード
・フォーラムスタンダード
・デファクトスタンダード

デジュールスタンダードは、公的機関や標準化機関によって技術や製品の仕様が定められるトップダウンアプローチであり、フォーラムスタンダードは、公的機関ではなく、業界団体や専門家などが仕様を決めるアプローチです。一方、デファクトスタンダードは市場競争や自然淘汰によって、ボトムアップ的に事実上のスタンダードが形成されるアプローチです。

▲アプローチ方法概要(クリックで拡大)

では、現実的な物流データの標準化へ向けては、どのアプローチを進めていくべきなのでしょう。

デジュールスタンダードへの取り組みと課題

現在国内では、業界団体、経済産業省、国交省などがそれぞれの立場で、フォーラムスタンダードを確立しようとしています。

また、府省の枠や旧来の分野を超えて国家プロジェクトとして総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が主体となって取り組む、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)もあります。ここでは、物流・商流データ基盤を構築するなかでデジュールスタンダードを擁する動きもあるようです。

こういった取り組みは、デジュール、フォーラムスタンダード確立に向けた王道アプローチながら、個人的には日本固有の構造的な問題に起因した課題として不安に感じているポイントがあります。それは、固有の業界・業務慣習が多いと言われる日本において、デジュールスタンダードの基本路線である「標準フォーマットに準拠した業務切り替え」を、サプライチェーン上の全ステークホルダーに対して一斉に行う実行計画を、実現可能性が高いものとして担保できるか?という点です。

一般的に、多重下請け構造で構成される国内サプライチェーンでは、隣接するプレーヤーとはコミュニケーションが図れるものの、一工程以上スキップした先のプレーヤーとはコミュニケーションが図られることは、滅多にありません。(例えば、荷主と1次元請けとはコミュニケーションパスはあるものの、その先の2次請け以下にはコミュニケーションパスがない、など)

このため、網羅的にサプライチェーンを通じた調整役が不在となり、利害関係者の関与が複雑になり、標準化の仕様に対するコンセンサスを得る際のハードルを超えるのに苦労することが想定されます。

また、多くの国内企業は既存の業務を変えたり捨てたりすることが苦手です。その結果、標準フォーマットへの業務適用が一部では進み、一部では残る、ということであれば、それはもはや“標準フォーマット”ではなく、新たな業務フォーマットが1つ増え、より業務を複雑にしただけになります。

また、現実的には業務仕様の変更にはコストが伴うため
、荷主や元請けサイドでは、標準化に伴う「基幹システムの改修」にかかる多額のコスト負担を社内でオーソライズできるか、2次請以下の物流事業者については、投資余力が限られるため、そもそものコスト負担が企業体力的にできるか、
という問題があります。

デファクトスタンダードへの取り組みと課題

では、特定の企業が強力なイニシアチブを持ってデファクトスタンダードアプローチを採用し、業界の標準化を進める方法はどうでしょうか?

物流の世界でデファクトスタンダード化が成功したB2C領域の宅配便でも、全体流通量のシェアではわずか数パーセントに過ぎません。
全体の物流量の8割を占め、荷主となる中小企業の数が多いと言われるB2B物流領域では、特定のナショナルブランドメーカーの影響力を強く利かせられる領域が少なく、そのままデファクトスタンダードが出現する余地は少ないと思われます。

ソリューション・提言/デジュールとデファクトのハイブリッド

国内で現実的に有効な物流業務標準化の第一歩は、デジュールとデファクトのハイブリッド型アプローチではないでしょうか。

つまり、物流市場自体を特定の企業が十分に影響力を利かせられる(デファクトとなり得る)大きさまで、業界業種の市場を細分化して定義し、そのかたまりごとに連携を利かせて、その業界のデジュールを構成するやり方です。

物流と一口に言っても、例えば温度帯管理が必要な冷凍食品と家電製品を同じトラックで運ぶわけではないので、運ぶ形態ごとや荷姿が同じ商品群ごとにグルーピングして、その単位で強力なマーケットリーダーが中心となって標準化を行うことで、現実的なレベルでの落としどころを探ることが可能だと考えます。

またマーケットリーダーは市場によって、発荷主側であるメーカーであったり、中間の着荷主側である物流の元請けや卸売側であったりと、市場特性による柔軟な体制構築も可能です。

データマネジメントの分野では一般的な手法ですが、ある程度の元データを抽出し、データ群ごとにETLなどのツールを使用してデータ加工工程を一階層、別に切り出すことで、業務のまとまりを作成できます。

社会の環境が変わった場合でも、このアプローチではデータ加工工程だけを改修したり入れ替えたりするなど、部分的な調整で状況に合わせたアップデートが可能です。さらに、このアプローチでは、全社的なアクションに先立ち、小規模な事業所単位の連携を通じて成功体験を積み重ねながらプロジェクトを進めることも可能です。

DXの世界でも、アジャイルでfast eat slowのアプローチが重要視されており、携わるステークホルダーに変革の実感を届けることもできる取り組みとなります。

先導する開発者の努力が、企業利益と、物流業界利益の両輪で活用される、そんな取り組みこそが、より良いソリューションの誕生、より最適化された連携を促すのだと考えられます。企業ごとのたゆまぬイノベーションと、それを正しく評価してまとめる上位機関のリーダーシップが、これからの物流データ標準化への重要なカギとなるのではないでしょうか。

■和田怜氏 略歴
シマント代表取締役社長CEO。早稲田大学卒業後、みずほ銀行に1期生として入行。本部の企画業務担当時代に、部門間で異なる仕様の書式、膨大な量の紙の書類など、巨大組織でのシステム導入を阻む壁を身をもって経験する。同時に、日本の大企業は生産性を高めるために、データ活用とDX化を強力に推進すべきことを痛感。このときの経験をきっかけに、データ活用とDX化で物流の効率化を目指すシマントを起業。

シマント概要
本社:東京都文京区小石川一丁目28番3号
代表取締役社長CEO:和田 怜(わだ さとし)
事業内容:データ活用システムの開発、データコンサルティング、DXコンサルティング
URL:http://simount.com/