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物流危機解決のためのサプライチェーン効率化へ向けて/Professional TALKS

「物流データ標準化」へ、その道のりの考察【前編】

2023年12月22日 (金)

話題あらゆる分野の専門家が、多角的な視点から物流を捉えた分析記事をお届けするProfessional TALKS。今回はデータ活用とDX化による物流効率化を目指すシマントの和田怜社長に、「物流危機解決のためのサプライチェーン効率化へ向けて」というテーマで、前後編にわたって解説していただきました。前編では、物流におけるデータ標準化への障壁と、標準化することの重要性を説きます。

最近、メディアで取り上げられている「2024年問題」は、主にラストマイル寄りの側面に焦点を当てられることが多いようです。宅配における再配達などは、一般の人々にもわかりやすい要素ではありますが、物流全体の80〜90%を占めるB2B輸送の改革こそ、より緊急性が高い課題です。労働力が減少し、労働時間も制約されるなかで、これまでのような人海戦術では対処できなくなることで深刻な事態が懸念されるのはB2B輸送の領域であり、今後は、限られた労働時間とリソースで、従来通りの物流量を確保する方法を模索する必要があります。

「B2B物流」、DXへ現状の問題点について

サプライチェーンを担うリーディングカンパニーの経営者たちの発言からも、24年問題対策として掲げるワードは「物流改革」「一括配送」「共同配送」「物流網の再構築」など、いずれも配送に関する領域に課題感を抱えていることがわかります。

配送管理は基本的に、荷主の配送オーダーに対して適切な車両数を用意し、車両積載率を最大化できるような計画を策定することです。このためには、配送オーダーと利用可能なリソースを適切に把握し、最適な割り当てを行う必要があります。しかしながら、B2B輸送の多くは未だアナログ業務に頼っており、リソースの把握が不十分なケースが少なくありません。その結果、同じ組織内でも他の事業所の状況を把握することが難しいこともあります。配送管理の中心である配車計画作成でも、スプレッドシートや手作業がベースとなっているため、情報の共有やデジタル化にたどり着けません。これは配送管理業務における24年問題対策の大きな課題と言えます。

アナログ作業からなぜ脱却できないのか

なぜ、配送管理においてスプレッドシートや紙・手作業が残存しているのでしょうか?

1つの原因は、異なるデータフォーマットの存在です。B2B物流においては、荷主ごとに異なるデータフォーマットを持つことが一般的で、これが問題の遠因になっています。例えば、配送オーダーの伝票情報は、荷主ごとに項目の配置や内容が異なる場合があります。そのため、物流元請けの側では荷主のフォーマットを統一フォーマットに変換する手間が発生します。このため、多くの作業員がデータの変換や修正作業に時間を費やすことになります。

荷主ごとの差異が生じるもう1つの要因は、荷主の基幹システムの違いです。荷主側の出荷オーダーは基幹システムから生成され、多少の加工を経て物流事業者に提供されることが一般的です。また、物流事業者側も荷主の要求に柔軟に対応し、異なる業務フォーマットを受け入れることがあります。これにより、荷主ごとに異なる業務フローが生まれ、管理の難しさが増大します。

物流モードの改革進まぬ弊害。物流改革へ、あるべき配送の理想形は

これらの問題は、24年問題の対策として提案されているモーダルシフトや中継輸送といったアプローチの実現を難しくしています。現場レベルで配送リソースの把握が難しい場合、これらの施策は具体的な作業にまで落とし込まれず、理論的なレベルで終わってしまう可能性があります。

これらの問題を踏まえると、今後向かっていくべき理想的な配送においては、「リソースの共有と把握」「データ統一とデジタル化」が必須だとわかります。全体のリソースを把握することで、配車計画においても個別最適と全体最適を調和させた立案が可能となります。そのためにも異なるデータフォーマットの統一に取り組み、スムーズなデジタル化を推進できる環境の整備を進めなくてはなりません。

しかし、データフォーマットの統一と言っても、簡単ではないことは想像できると思います。さまざまなプレーヤーが、さまざまなソリューションをサプライチェーンの各工程ごとに市場投入している現状では、むしろ標準化こそが一番の難題かも知れません。

それでも、データフォーマットの統一こそが、抜本的な物流改革のスタートであるならば、課題解決に向けた取り組みは急務であり、業界内の知恵を結集させる必要があります。

コラム後編では、

・データフォーマット統一に向けて、取るべきアプローチにはどんなものがあるのか。
・データフォーマット統一に向けた動きのなかで見えている課題と、その解決法とは。

以上について解説しながら、物流事業の理想的な未来像を提言していきたいと思います。

▶【後編】

■和田怜氏 略歴
シマント代表取締役社長CEO。早稲田大学卒業後、みずほ銀行に1期生として入行。本部の企画業務担当時代に、部門間で異なる仕様の書式、膨大な量の紙の書類など、巨大組織でのシステム導入を阻む壁を身をもって経験する。同時に、日本の大企業は生産性を高めるために、データ活用とDX化を強力に推進すべきことを痛感。このときの経験をきっかけに、データ活用とDX化で物流の効率化を目指すシマントを起業。

シマント概要
本社:東京都文京区小石川一丁目28番3号
代表取締役社長CEO:和田 怜(わだ さとし)
事業内容:データ活用システムの開発、データコンサルティング、DXコンサルティング
URL:http://simount.com/