話題モノが運べなくなる時代がやってくる。トラック運転手の過酷な労働によって成り立つ物流サービスはもはや限界であり、物流サービスの価値観も大きく変わっていくのではないだろうか。ただスピードや低価格だけではなく、「丁寧」「安心・安全」を極めた運び方に物流サービスの価値を求める、そんなニーズも出てくるに違いない。物流の行程では、輸送中のものが「見えなくなる」過程が生じがちだが、IoTデバイスの活用で、運送下のものも可視化できるなど、運び方に付加価値を与えようという取り組みも進むのではないか。
日本ガイシが開発した超薄型・小型のリチウムイオン二次電池「EnerCera」(エナセラ)は、使い捨て型の一次電池や既存のリチウムイオン二次電池にはない特性を備え、運送状況の見える化に役立つIoTデバイスやセンサーに必要な電力を供給できる電源として、これからの物流分野での活用が期待される。
物流との相性ピッタリ、「超薄型軽量」「高出力」「長寿命」「大容量」
「エナセラが物流領域と相性が良いと考えるまず最初のポイントは、超薄型・超軽量であること」とNV推進本部ビジネスクリエーションバッテリーソリューションの高松愛子氏は語る。厚さわずか0.45mmの切手型「EnerCera Pouch」(エナセラパウチ)と、直径12.5mmと20mmの2サイズを用意するコイン型「EnerCera Coin」(エナセラコイン)という2つのタイプで用意されたデバイスは、1円玉よりも軽量で運搬の負荷とならない。
また、市販のリチウムイオン二次電池に比べて「高出力」「長寿命」「大容量」であるエナセラの特長も、物流領域で有利に作用する。独自の「結晶配向セラミックス板」を電極に採用した低抵抗な特質を持つ半固体電池であり、同サイズの市販電池に比べて半分以下の抵抗で大電力を出力できる。
同部門のマネージャー、鈴木千織氏は、「無線通信やセンサー駆動に必要な大電力を必要な時に放電でき、IoT、遠隔監視など連携するデバイスにとっての安全な電源となります」と言う。自己放電量も小さく、微小な電力を蓄えながら必要な時に大電力を供給できるので、環境発電やワイヤレス電力伝送など微弱な電力をコツコツと蓄える給電技術と組み合わせれば、電池交換などのメンテナンスフリーで、半永久的というレベルでの長期間使用も可能となる。
このようにエナセラは、運送中や、頻繁な移動など、電源が使えない環境での使用がともなう「動くモノを対象とした物流」との相性が良いことがわかるだろう。既存のリチウムイオン二次電池では併存が難しかった薄型軽量、高容量、高出力、高耐熱、長寿命といったIoTデバイス用電源に求められる特性を生かした、位置情報管理、庫内人流解析、配線レス電子棚札などでの活用を、既存の類似システムと比較検証してみる機会も必要ではないだろうか。
「曲げ耐性」「耐環境性能」「安全性の高さ」生かした物流アイデア広がる
さらに、パウチタイプは曲げ耐性があり湾曲面にも対応可能。摂氏マイナス40度の超低温から70度(コインタイプの一部は105度)の高温までに対応できる耐環境性能や、発熱・発火・爆発の可能性が極めて低いすぐれた安全性能なども「既存のリチウムイオン二次電池にはない特長であり、物流業界での運用における親和性の高さがあるのではと考えています」(高松氏)
実際に、湾曲面にも貼付できるという特長を生かした物流管理サービスでの実証も進められている。同社では付加価値のある物流サービスとして、ワインの輸送・保管の温湿度管理サービスにエナセラを組み込む。トレーサビリティー(生産流通履歴)確保の観点から輸送中の品質管理への関心も高まり、特にその品質管理環境自体が商品価値に直結する高級ワインでは、輸送時の異常をリアルタイムに検出できる物流管理システムが必要となる。モニタリング用の温湿度ロガーと、その電源としてエナセラとを組み合わせることで、ワイナリーの出荷から納入、保管、輸送、販売までの品質を可視化し、高品質な商品供給に貢献する。
「エナセラならば温湿度ロガーと合わせて、ワインボトルの湾曲面にシールのように貼り付けて、輸送時の品質管理をモニタリングすることが可能となります。実証実験では、8か月間給電なしでの作動実績も残しており、長期間の輸送となる海外へ向けての日本酒輸送などの実証も重ねています」(鈴木氏)。将来的には輸送中の衝撃などの記録も管理できるよう開発を進めることで、ワイン、日本酒以外にも食品やワクチン、医薬品など幅広い領域でのサプライチェーン管理サービスも実現する。これまでの、早さや頻度を競う物流サービスではなく、物流分野のIoT化によって安心・安全・高品質を保証する新時代の物流サービスへとつながる。
運び方自体に付加価値を与える「輸送品質管理ソリューション」の構築において、温度、湿度、衝撃、振動など、さまざまなデータログとの連携でその領域を広げていくことも可能となるが、その中核となるのはエナセラの技術なのである。
冷凍冷蔵倉庫、危険物倉庫など、物流の新潮流にも対応
エナセラと物流との相性の良さという観点では、昨今の物流業界における新しいニーズへの対応でも有効な活用法もありそうだ。
例えば、需要が高まる冷凍冷蔵倉庫やコールドチェーンでの使用はどうだろう。冷凍倉庫内の環境下ではあきらめざるを得なかった取り組みも、すぐれた耐環境性能を持つエナセラを電源にすることで、また新たなアイデアや技術開発へと発展するかも知れない。
また、冷凍冷蔵と同様に需要の高まる、危険物倉庫での活用にも期待できる。コンプライアンスが見直されるなかで、危険物とされる商品ジャンルも広がり、リチウムイオンバッテリーの保管などのニーズも高まる。衝撃にも強いエナセラは、直接くぎを刺しても発火しない安全性の高さを誇り、万が一のデバイス由来の出火・爆発などを心配する必要もほとんどない。まさにエナセラの特長である安心・安全が、物流現場で生きる好事例ではないだろうか。また、物流現場でも導入が広がるウエアラブル端末での使用においても使用者の安全を守る効果は大きい。
繰り返し利用、環境電池利用による環境問題への貢献
エナセラは、繰り返し使用することで、コスト面での効率化も推進する。SDGsへの貢献で、導入企業の社会的価値を高めることにも役立つだろう。また、環境発電からの微量なエネルギーをためてメンテナンスフリーで半永久的な運用ができる機能では、太陽光、室内光、温度差、振動など、さまざまなものをエネルギー源として、物流領域での環境対策に有効利用することにも期待したい。
今後、繰り返し使用の利点を生かすには、回収スキームの構築なども必要となるが、これに関しては物流側からもノウハウを提供できるかもしれない。そういう意味でも、同社の2月の物流展示会「ロジスティクスソリューションフェア2024」への参加は貴重な機会となりそうだ。
高松氏は、「まずは超薄型軽量で、高出力、高容量、長寿命、高耐寒熱、高信頼性を兼ね備えたリチウムイオン二次電池があるということを、物流業界の方々に知ってもらうことから始めなくては」と語り、初日20日の13時からは、「エナセラ搭載薄型・小型デバイスを活用した、輸送品質管理ソリューションのご提案」と題したプレゼンテーションセミナーにも登壇する。「私たちにとっても物流業界の知見をうかがえるチャンス。ぜひ、ご来場いただき、物流業界の生の声をお聞かせください」(高松氏)
会期:2024年2月20日(火)〜21日(水)、10時〜17時
会場:東京ビッグサイト(東京国際展示場)西4ホール
ブース番号:058
来場方法:公式ウェブサイトでの「来場事前登録」が必要(無料)
日時:2月20日(火)13時〜13時30分
会場:展示ホールセミナー会場B
※当日受け付け先着順(定員100人)
https://www.ngk.co.jp/news/20240201_1.html