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チップ型セラミックス二次電池「エナセラ」を関西物流展で訴求へ

日本ガイシ、「充電池」で物流インフラ最適化に挑む

2022年5月30日 (月)

話題ワイナリーの貯蔵庫に並ぶワインボトル。重厚なラベルの脇に、まばゆく光るシートが貼られている。高級ブランドのワインボトルにおよそ似つかわしくないようにも映るこのシート、実はワインを最適な状態で顧客に届けるために欠かせない、低温輸送モニタリング用の温度・湿度センサなのだ。

▲ワインボトルに装着された低温輸送モニタリング用の温度・湿度センサータグ。その電源の役割を果たすのが「エナセラ」(EnerCera)だ

このセンサに内蔵される電源を開発したのは、送電用がいしを祖業とする日本ガイシだ。こうした高級ワインなど繊細な温度・湿度管理を求められる輸送に貢献しているというこの技術。日本ガイシは、6月22日から24日までの3日間、大阪市住之江区のインテックス大阪で開催される「第3回関西物流展」に出品し、物流業界に強く訴求するという。

日本ガイシが物流にビジネスチャンスを見出す狙いは何か。そこには、絶縁体である陶器(セラミックス)の製造を通して、電力の安定供給を支えてきた日本ガイシだからこそ訴求できる技術があった。

次世代電源デバイス「エナセラ」、訴求分野は「物流」だ

日本ガイシが独自に開発した次世代電源デバイスである、チップ型セラミックス二次電池「エナセラ」(EnerCera)。「物流現場のDX化を支援する製品として訴求していきたいと考えています」。日本ガイシNV推進本部ビジネスクリエーションの大和田巌・執行役員は、このエナセラを物流現場に浸透させることで業務最適化に貢献していく戦略を明かす。

▲「物流現場のDX化を支援する製品として訴求していきたい」と話す、日本ガイシNV推進本部ビジネスクリエーションの大和田巌・執行役員

そもそもエナセラは、どんな機能を備えた電源デバイスなのか。まずは、日本ガイシの事業拡大の歴史を振り返る。

1919年設立の日本ガイシは、2003年に電池ビジネスへ参入。電力を「送る」だけでなく「蓄える」技術の開発も加速していく。メガワット級の電力貯蔵システムを世界で初めて実用化した後、非常用電源用に屋内設置が可能で発火のリスクがない亜鉛二次電池や小型・薄型でエネルギー密度の高いセラミックス二次電池の開発に注力。こうして19年に事業化したのが、エナセラシリーズだった。ちなみに二次電池は、充電により繰り返し使用できる電池を指す。用途に応じて、「パウチタイプ」(シート状)と「コインタイプ」の2種類を開発した。

▲「エナセラ」シリーズ。超小型で薄型ながら効率的に蓄電・出力できる二次電池だ

「独自技術である『結晶配向セラミックス電極板』を使用した半固体電池です。正極活物質の結晶の向きをそろえて焼結したセラミック材料を含む固体の積層電池部材に少量の電解液をしみ込ませることで、超小型・薄型ながら効率的に蓄電・出力できる二次電池の開発に成功したのです」。大和田氏は、小型で薄型の二次電池であれば、産業界でより広い領域で電源として活用できると考えた。なかでも特に注力分野に位置付けたのが、物流だった。

高度化する物流を「小型・薄型」「交換不要な電池」で支援

大和田氏をはじめとするエナセラ事業メンバーは、エナセラの訴求領域について検討を進めてきた。大和田氏は、スマートフォンをはじめとするIoT(モノのインターネット)がさらに進化し、「あえて人間が操作しなくても自活的に電力をまかない自動的に動作する」技術の実現を念頭に置いていた。その第一歩としてエナセラを普及させたいと考えたのだ。

「物流に対する社会のニーズは、これまでになく高まっています。ワクチン輸送でクローズアップされましたが、医薬品など細かな輸送・保管管理が必要な商品も増えています。さらに食品輸送における危害要因の分析やその除去に必要な管理が求められるなど、輸送サービスのさらなる高度化を迫られているのです」(大和田氏)。こうした輸送品質の管理業務が質量ともに求められるなかで課題になると考えたのが、「IoTデバイス電源の大型化」と「電池交換の煩雑さ」だった。

日本ガイシは、電源を起点とした物流DX化支援としてこの2点に着目した。生産地から輸送、入出荷、ラストワンマイル配送にいたるまでの過程で導入が進んでいる様々な先進機器・システムへの最適な給電をエナセラで実現。それにより「設備」「人」「モノ」を見える化してロジスティクスの最適化を図るイメージを描いたのだ。

▲物流分野で「エナセラ」が貢献できる領域は幅広い

エナセラは微弱な電力を効率よく蓄積できる能力があることから、大型の電源でないと難しかった電池の役割を小型でも担える利点を生かすことで、より幅広い領域への導入が可能と判断した。

エナセラで実現したい「配線レス給電」「繰り返し使える電源」

日本ガイシがエナセラで実現したいこと。それは「配線レス給電」「繰り返し使える電源」だ。配線を使わずにマイクロ波や太陽電池などのエネルギーハーベスティングを活用して電力を供給することで、物流現場の従事者が「電源を入れる」作業をしなくても済むようにする。さらに、先進機器・システムの大半の稼働電源である使い捨ての一次電池の代わりに二次電池であるエナセラを活用することで、電池の廃棄物を大幅に削減する。

▲「物流サービス水準の向上と地球環境への対応の両立を図る」と話す大和田氏

「物流DX化支援とともにSDGsへの対応も推進する。エナセラの導入で実現できる取り組みとして、積極的に訴求していきます。物流サービス水準の向上と地球環境への対応の両立を図る狙いです」(大和田氏)

「設備の見える化」については、ワイヤレスセンサ向けの電源モジュールとして、さらにメモリー用バックアップ電源としての活用を想定。「人の見える化」は、現場従事者の健康管理や作業環境モニターへの導入を見据える。微弱な電力でも対応できる通信機能と、薄型で身体への装着に違和感がない利点を生かして、生体情報の取得を支援する。

特に大和田氏がエナセラの強みを生かせると考えているのが、「モノの見える化」だ。商品の輸送状況をリアルタイムで把握する電子タグに交換の不要な二次電池であるエナセラを搭載することで、低消費電力でデータ通信が可能となる。ストックヤードでは無線給電設備を導入すれば、常にエナセラは充電中の状態になることから、センシング設備のバッテリー切れの心配がなくなる。

「センシング機能を温度だけでなく湿度や振動などより幅広く搭載できることで、より最適な輸送品質管理が可能となります。こうした取り組みは、エナセラのような電源機能があって初めて実現できるのです」(大和田氏)。エナセラの活用で超薄型でスマートな電子タグを開発できることから、ワインなど繊細な輸送管理が不可欠な商品にも対応できるというわけだ。

「繰り返し使える」強みを訴求へ

大和田氏は、エナセラを物流現場における電子タグなど先進機器・システムへ導入するために欠かせない発想として「メンテナンスフリーIoT」を挙げる。電源にかかる手間を「減らす」というよりも「なくす」ことが、物流DX化の推進には欠かせないと指摘する。

(クリックで拡大)

使い捨てをしないエナセラは、必ず回収しなければならない。倉庫から出荷した商品に添付したエナセラ内蔵センサは、再び倉庫に戻す必要がある。エナセラ導入にあたってコストを考える場合、エナセラは繰り返し使えば使うほど1回の輸送あたりの電池代はゼロに近づくことから、1回の輸送ごとに廃棄する使い捨て電池代と回収費用を比較検討することになる。

大和田氏は、それでもエナセラのコストパフォーマンスは高いと言い切る。「一次電池の場合、電池代は継続して発生することになります。一方でエナセラの回収費用は、パレットや保冷箱など他の物流資材と同梱すれば新たな費用は発生しません。二次電池ならではの強みは、コスト面でも明らかなのです」

物流DX化に対して、「電源」という切り口からビジネスチャンスを見出そうとしている日本ガイシ。社会インフラである物流の最適化をとおして社会の持続的な発展を支える発想、それはまさにSDGsの理念にも合致する。日本ガイシは無限の可能性を秘めたエナセラの小さな固体に、物流の抱える諸課題の解決を託そうとしている。ここには、大倉和親・初代社長の「営利のためではなく社会への奉仕としてやらなければならない」との精神がある。

日本ガイシは、6月22日から24日までの3日間、大阪市住之江区のインテックス大阪で開催される「第3回関西物流展」に参加。ブースにてエナセラを披露するほか、22日11時からの製品・技術PRセミナーでは、「フレキシブルな超薄型二次電池が拓く物流の未来 ~センサータグを活用したワイン輸送時の温湿度管理サービスを中心に~」のテーマでNV推進本部ビジネスクリエーション・マーケティング3Gの鈴木千織マネージャーが登壇する。

▲NV推進本部ビジネスクリエーション・マーケティング3Gの鈴木千織マネージャーは「第3回関西物流展」で超薄型二次電池の可能性を訴求する