話題ギフト市場が活況を呈している。2023年のギフト市場規模は前年比2.7%増の10兆8190億円(矢野経済研究所調べ)と、コロナ禍を経て過去最高水準を記録した。儀礼的なフォーマルギフトは縮小傾向にある一方、カジュアルギフトを贈る行為は、親密な間柄同士のコミュニケーションの手段として見直されているという。
そんななか、ギフト専門のEC(電子商取引)事業を展開するタンプ(東京都品川区)は贈り物文化に商機を見出した。2017年の設立以来、右肩上がりに成長を続けている。19年8月には5億円の資金を調達し、400%の年次売上成長率を達成。24年8月に商号を現社名に変更、さらに24年9月に総額10億円の資金調達を実施し、法人向け新規事業としてデジタルカタログギフト「TANP Ticket」や3PL事業を開始するなど、サービスの拡充を進めている。
快進撃を続ける同社の原動力は何なのか。同社取締役CTO(最高技術責任者)の林拓海氏に話を聞いた。
1万1000以上の商品数とカスタマイズ可能なギフトサービス
同社が運営するのは日本最大級のギフト専門通販サイト「タンプ」。その名は贈り物の中でも最も馴染み深い誕生日プレゼント、すなわち“誕プレ”から着想を得た。誕生日に手渡す贈り物のように身近な存在となり、ギフトサービスとして気軽に利用してほしい。そんな願いを込めた。

▲手作業によるラッピング・装飾が施されたTANPギフトサービス
タンプの主な特徴は1万1000点以上もの豊富な商品ラインアップとカスタマイズ可能なギフトサービスだ。誕生日や結婚や出産の祝いなど、記念の日にふさわしいカジュアルギフトや、贈答品、返礼品の品々をシーン別に用意。ほかの通販サイトでは入手困難な独自のギフトや限定商品も多くそろえている。ユーザーは数ある選択肢の中から、相手の趣味嗜好に合わせたギフトを選び、贈ることができる。手作業によるラッピングや名入れ、花を付けたりとオプションも充実させた。
相手の住所を知らなくても送れるeギフトサービス
さらに、新たなギフト文化を育む画期的機能として、贈り手が相手の住所を知らなくても、SNSやメールを通じて贈り物できるeギフトサービスが注目を集めている。商品の購入手続きに進む際に「eギフト」を選ぶと、ギフト受け取り用のURLが発行され、相手のSNSやメールに送信できる。URLを受け取った相手は、指定されたウェブページで自身の好みに合わせて色や香りなどが選べる。面倒な配送手配がなく、遠方にいる友人や知人、推し活中の“推し”にも簡単にプレゼントが可能。受け取った側のギフトへの満足度を上げることができる。
ロジスティクステクノロジーとデータサイエンスを駆使し、効率的な運営を実現している。顧客のニーズを迅速に把握し、最適な商品の提供を可能にした。データ分析を通じて、マーケティング戦略や在庫管理の最適化を図り、業務の効率化を進めている。これらの取り組みは、顧客満足度の向上に寄与しているという。
「今から7、8年前、まだギフトを本格的に扱うECが少なかったが、ギフト市場は今後さらに大きくなるだろうと見込み、創業を考えた」と同社取締役CTOの林拓海氏は振り返る。さらに、同社代表取締役CEO(最高経営責任者)の斎藤拓泰氏のある経験が反面教師となり、潮目が変わったという。
不毛のギフトECを痛感し、起業を決意

▲取締役CTOの林拓海氏
「東京から福井県にいる親に贈り物をするため、商品を検索していた。ところが、おまとめとしての紹介だったり、商品にAmazonのアフィリエイトリンクが貼ってあるだけとか、どれも簡素で素っ気ない。これらと違い、ネットで簡単に探せて、商品を見つけ購入した時に感じる喜びや興奮も相手に渡せないものかと考えた。オンラインとリアルを結びつけるビジネスモデルを構築したいと思った」(林氏)
会社として飛躍するまで、助走期間があった。最初に打ち立てた仮説がもろくも崩れたと苦笑いする。当初は倉庫を持たず、メーカーに商品を掲載してもらい、発送情報を伝え、発送してもらおうと考えた。創業した当初からeギフトサービスも始めていたが、売上は芳しくなかった。
「やはり、倉庫を持つべきと思った。倉庫を構え、ちゃんと在庫を持ち、商品に対してラッピングや名入れなどオプションを強化すると、売上が伸び始めた。eギフトサービスは、今でこそ、住所が分からなくてもプレゼントできる他社サービスはあるが、当時は世間にあまりにも馴染みが薄すぎた。提供がちょっと早すぎた」(林氏)
ライバーがファンにプレゼントするケースも
eギフトサービスは、その使われ方も多様化している。推し活中の人物が意中の相手にプレゼントを贈るのは一般的となったが、その逆も起きている。配信アプリやサイトを使ってライブ配信するライバーがeギフトサービスを使い、女性ファンに向けてコスメをプレゼントしたという。
「私たちは友達同士がURLひとつで誕生日などの記念日にギフトを贈り合うシーンを想定していた。知らない人同士の利用は全く考えてもみなかった」
当面の課題は売上を伸ばすことと林氏は明言する。そのためには、扱う商品数を増やすことだと考えている。
「タンプはまだまだ小さなサイトだと思っている。取引できてないメーカーもまだまだある。関係性を構築しながら商品数を増やし、売上アップを目指したい」

▲TANPの倉庫内部の様子
世の人気商品は1年遅れでギフト界にやってくる
扱う商品の選定、見極めのために、世の中にある商品情報に対して、SNSをこまめにチェックするなど、絶えず、アンテナを張っている。商品の売れ筋、注目のアイテムなどを情報を営業担当や取引企業からヒアリングしている。
「世の中の売れ筋商品は目まぐるしく移り変わるが、ギフトの場合、それらの流行ったアイテムのラインアップが1年遅れてやってくる。ある商品が一旦人気になり、これはいいものだと多くの人が納得し、安心した商品をギフトとして選ぶ。ちなみに、使用すると、髪がまとまり、つやが出ると評判のブラシが現在人気のギフトだ」
林氏は組織を充実させるため、人材確保にも注力する。採用の際、重視するのが謙虚な心だという。同社が人々の幸せを目指す以上、それと同様に、自社の従業員にも心の満ち足り、安らぎを感じてほしいと語る。
「当社は、バリューとして3つのワードを掲げている。そのうちの一つが謙虚さ・尊敬・信頼だ。こうして明言化することで、互いに認め合う環境が心理的安定を生み、社員一人一人の成長を後押しすると考えている」
商品そのものより、贈る、贈られる体験、付加価値が大事
人々がギフトに何を求めているかの把握が大事だと、林氏は強調する。商品をラッピングして、ギフトとして見栄え良く、ふさわしいものにする。誰に贈っても恥ずかしくないもにすること以上に、大事なものがあると指摘する。
「ギフトは単なる商品ではなく、贈ること・贈られること自体が大きな価値を持つ。SNS上でも、商品レビューより受け取った喜びや感動を綴る投稿が多く、こうした体験価値へのニーズが高まっていると実感している」
自分たちの仕事をどう説明するのかを聞いた。「人の幸せに携わるサービス」という答えが返ってきた。オンラインとオフラインを融合させながらも、オフラインでの、人が幸せに感じる瞬間をより良くしたいという。
「もともと実際に人と一緒に何かをするのが好きだ。今はビジネスや日常生活においてもオンラインが必要不可欠だが、対面で行動することの重要性を常日頃から感じている。こうした実際の人と人のつながりが人間の幸せを作ると思っている。ギフトを実際に受け取って感じる人とのつながりや喜び、幸福感をタンプを通じて生み出していきたい」
一問一答
Q.スタートアップとして、貴社はどのステージにあるとお考えですか?
A. 多分、レイターステージ。100人規模が多い中で、僕らは割と少数でやってるって感じがあります。
Q. 貴社の“出口戦略”、“将来像”についてお聞かせください。
A. 新規上場を目指しています。