ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

高齢化と需要変化で揺れる花き産業、物流現場の模索

2025年9月22日 (月)

ロジスティクス宮城県気仙沼市に本社を置き、現在は仙台を拠点に花き物流を展開する気仙沼緑化サービス。母の日や年末に向けた鉢物、盆や彼岸の切り花など、四季折々の需要に応じて全国へ花を運んできた。同社の小野寺敦志社長は「市場の取引構造や生産者の高齢化が進むなか、物流の持続可能性が問われている」と語る。

取引の中心は仙台市場から関東の大市場、さらに愛知県豊明市にまで及ぶ。東北域内にも配送しているが、青森までは距離と運賃の問題から運行が難しく、宮城・福島・山形・秋田といった地域が主なエリアとなっている。小野寺氏は「運ぶことができなければ生産者も花を作らなくなってしまう。できるだけ運べる花は運びたいが、限界がある」と苦しい胸の内を語る。

▲気仙沼緑化サービスの小野寺敦志社長

同社が取り扱うのは鉢物と切り花。かつては鉢物中心だったが、いまは切り花の割合が増している。「鉢物は生産者も減り、価格も上がりにくい。切り花のほうが需要が安定し、葬祭需要も一定数あるため強い」と小野寺氏は説明する。また、小野寺氏によると「近年は市場は通すものの、競りを経ないで取引される相対取引が増加。これにより、市場が開く前日には確実に荷物を届けてほしいというニーズも増加しており、輸送の迅速性がより求められるようになっているという側面もある」という。

花きは需要の季節変動が極端だ。母の日や年末、お盆といった繁忙期には輸送量が急増し、1月・2月や7月・8月には閑散期となる。市場卸に加えて大手小売やホームセンターへの直納も増えており、物流の柔軟性が求められている。

花き輸送は冷蔵設備が必須であり、積載効率の低下が避けられない。箱やバケツなど出荷形態が統一されていないため、積み込みに時間がかかる。加えて、市場の運営がアナログであることも拘束時間の長期化につながっている。「紙伝票による手作業が残っており、荷待ち時間も発生する。これが2024年問題で一層ネックになっている」と小野寺氏は指摘する。

実際、繁忙期には関東の市場を巡回して複数の荷を積み下ろすことも多く、運行時間はどうしても長くなる。「拘束時間を短くすることが最大の課題」と小野寺氏は強調する。

またしばしば、仙台から東京の市場まで運んだ荷物が最終的に仙台近郊の販売店に納入されるというようなことも発生している。小野寺氏は「荷物とニーズのマッチングを効率的に行うことができれば、花きの物流はもっと効率的になる」と語った。

さらに深刻なのが生産者の減少だ。東北ではシクラメンやシンビジウムなど、かつて盛んに生産されていた花が少なくなり、中には姿を消すものもある。高齢化が進み、後継者が育たないためである。「10年後に誰が花を作っているか見通せない。自分の世代で終わりにするという声も多い」と小野寺氏は吐露する。

需要の変化も生産を揺さぶる。母の日の贈答花はカーネーションからアジサイへとシフトし、クリスマスローズは一時的なブームで終わった。また、クリスマスシーズンのポインセチアのように、東北ではほとんど生産されなくなったものもある。小野寺氏はこうした状況を前に、「消費者の嗜好が短期間で変わるため、生産者が対応しきれない現実があるのではないか」と分析する。

こうしたなかで、物流現場では効率化を模索している。仙台をハブに関東便と集荷便を組み合わせる運行や、同業他社との荷物の分け合い、中継などが行われている。ただし標準化やシステム化は遅れており、予約システムやオンライン競りが導入されても効果は限定的だ。

「例えば同じ花でも、茎の長さが違えば箱のサイズも異なる。完全な統一は不可能に近い。積載効率を高めるための工夫は続けているが、限界もある」と小野寺氏は語る。新潟はチューリップ切り花の一大産地だが、箱サイズを統一する実証実験はこの冬にやっとスタートする。大産地にしてこのスピード感では、そのほかの品目の標準化はまだまだ遠い道のりと言わざるを得ない。

同社は花きに限らず、肥料や引っ越し貨物、大手宅配業者の拠点間輸送なども担うようになっている。小野寺氏は「花き一本ではなかなかやっていけない。花き物流は続けつつも、一般貨物との並行が不可欠だと考えている」と実情を明かす。

それでも小野寺氏は「もっと花のある生活を広げたい」と語る。コロナ禍では園芸需要が一時的に拡大し、家庭菜園や庭先で花を育てる人も増えた。物価高の中で野菜栽培を始める人もおり、そこから花に親しむケースも見られるという。

また、気候変動が新たな可能性をもたらすと見る。「気温上昇で、これまで東北では育てられなかった花や観葉植物が作れるようになるかもしれない。そうした変化に対応できるよう、抜かりなく情報の収集を続けたい」と展望を語った。

■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。

※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。

LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com

LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。

ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。