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サントリーが明かす異業種共同輸送の成功法則

2025年12月15日 (月)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「ユニ・チャームとサントリー、共同で鉄道往復輸送」(10月30日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクスサントリーとユニ・チャームが11月から始めた関東・四国間の鉄道コンテナ往復輸送は、行きも帰りも無駄を省いた見事な連携プレーだ。関東から四国へは酒類・清涼飲料を、四国から関東へは衛生用品を運ぶ。トラックから鉄道への切り替えで年間200台を削減し、CO2排出量も180トン減らせる試算だ。両者はすでに、同区間でトラックによるリレー形式のラウンド輸送をしており、2024年12月には「令和6年度物流パートナーシップ優良事業者表彰」で「グリーン物流パートナーシップ会議 特別賞」を受賞している。飲料と紙おむつ、一見接点のない異業種が手を組んだ成果は見事な物流の妙手と言えるだろう。

サントリーホールディングスおよびサントリーロジスティクスの担当者が、その舞台裏を明かしてくれた。

▲鉄道コンテナ輸送に切り替えることで、両グループで年間、運行するトラックを200台減らせる見込み(出所:サントリー)

 

「夏型」飲料メーカーが抱える構造的課題

サントリーとユニ・チャームとの縁は、実のところ以前から続いていた。同社の扱う商材は冬場に動く。つまり、サントリーとは真逆の波動を描く。しかも長距離輸送が多いという特性がある。そこで両社は知恵を絞った。環境負荷を減らすモーダルシフトを本格化させようと。31フィートコンテナによる往復輸送が、異業種連携の扉を開く鍵となった。

飲料と紙おむつ、一見水と油のような両者が手を結んだ背景には、サントリーが長年抱えてきた3つの構造的ジレンマがあった。

第1に、飲料は物量が多いという特性だ。「その中でも我々は酒と飲料を扱っているので、飲料業界の中でも圧倒的な物量」と担当者は語る。この豊富な物量は諸刃の剣だ。市場での存在感を示す一方、効率的な輸送という難題を突きつける。

第2に、夏場に需要が集中する季節波動という宿命がある。サントリーは完全な夏型の商材を扱っている。夏と冬で物量の差が大きい。潮の満ち引きのように、夏場は車両が枯渇し、冬場は余剰が生じる。この波動をいかに平準化するか。それこそが、物流効率化の鍵なのだという。

第3に、工場立地の地理的偏在だ。同社は東日本、とりわけ首都圏や関東に工場が密集している。そこを起点に全国の消費地へと荷を運ぶ。首都圏・関東から関西へ、関西から九州へ、首都圏から東北方面へといった具合だ。この一極集中が、効率的な往復輸送を難しくしている。

この三重苦は飲料業界に共通する課題といえる。同業者同士では互いに似た悩みを抱えているため、手を組む相手が見つからない。だからこそ、サントリーは業種の垣根を越えた連携に一筋の光明を見出したのである。

▲関東・四国間の鉄道コンテナ往復輸送の概略図(クリックで拡大、出所:サントリー)

冬型×軽量×逆ルート──理想の相手を探す3つの条件

ユニ・チャームとの出会いは、サントリー側からの一本の電話が発端だった。担当者は「7年前、ユニ・チャームこそ理想のパートナーではないかと直感が働いた」と当時を振り返る。以来、両社の関係は着実に深まっていく。ユニ・チャームが最適な相手となったのは、3つの条件が絶妙に噛み合ったからに他ならない。

第1に季節波動が見事に逆さまを描くという点。サントリーが夏場に飲料を大量出荷して多忙を極める一方、ユニ・チャームは冬場に出荷のピークを迎える。

両社の繁閑が見事に逆転する。この波動の妙技こそが、通年輸送の道を拓いた。「1年を通したときに山型の我々の商材と谷型の商材が合う。オンとオフがガチッと組み合わされるようなイメージ」(担当者)だという。まるで季節の歯車が噛み合うように、両社の輸送需要は絶妙な補完関係を描くのだ。

第2の条件は、軽量貨物という点だ。飲料は水分を含むがゆえに重い。トラックは重量制限に先に達し、荷台には空きスペースが残る。一方、ユニ・チャームの紙おむつは軽い。「これがまた好都合だった」と担当者は語る。重い飲料と軽い紙おむつ。この組み合わせは絶妙な相互補完関係となり、積載効率を高めることになった。

第3の条件は、工場立地と納品先の相性だ。「うまく一筆書きを描けるラウンドが一番理想でしょう。ユニ・チャームさんがやっぱりピタッとハマったという感じですか」という問いに、担当者は力強く頷いた。

空車回送の距離をいかに短くするか──。物流効率化の要諦は、この一点に集約できる。「工場と荷下ろし場所、そして次の積み込み場所。この3点が限りなく近接していることが、今回のユニ・チャームとの連携を成功に導いた最大の鍵だった」と担当者は笑顔を見せる。無駄な空走を削ぎ落とし、効率の妙を極める。物流の本質がここに凝縮されている。

四国と関東を結ぶ鉄道ルートは、理想的な往復輸送を実現した。担当者曰く「香川から関東までは長距離だ。ここでトラックによる輸送を年間あたり200台減らした事実は単なる数字以上の意味を持つ」という。長距離輸送でのトラック削減は、環境やドライバーへの負荷軽減効果が大きい。担当者は効率性と同様、その価値を強調する。

CO2削減と環境負荷低減への取り組み

共同輸送は、単なるコスト削減の手段にとどまらない。環境負荷の低減という、今や企業の生命線ともいえる使命を果たす鍵でもある。担当者は、CO2削減の意義をこう説く。

「夏の盛りに出番を迎える我々の商材と、冬場に活躍する商材が手を組む。かつて2台で運んでいた荷を1台に集約し、双方がCO2を削減する。こうした利点を評価シートに落とし込み、初回商談の糸口とする」

ユニ・チャームとの共同輸送は、既に年間180トンものCO2削減という実績を刻んだ。「CO2削減のためには地産地消による輸送距離短縮が第一だが、モーダルシフトも不可欠」と担当者は明言する。

ただし、モーダルシフトにはコストの課題もある。鉄道や船舶はトラックに比べて単価が高い。「だから100%を鉄道や船舶だけで運ぶのは難しい」(担当者)担当者は、コストと環境負荷のバランスを取りながら輸送手段を選ぶ必要性を強調する。「コストとのバランスを見ながら、まず確実に運びきることが大切だ。そう考えて輸送計画を組み立てている」(担当者)

実現までの道のり──企業文化の違いを乗り越える

だが、その実現までの道のりは決して平坦ではなかった。「トライアルを始めてみて痛感したのは、企業文化の違いだ。『飲料業界ではこういう慣習なんですか』『御社ではそうなさるんですね』と、互いの流儀をすり合わせていく作業が欠かせない。机上では見えなかった想定外のトラブルや、実務レベルでの細かな齟齬が次々と浮上してきた」と担当者は振り返る。

中でも頭を悩ませたのが、稼働日の調整だ。「往復輸送の難しさは休日のタイミングにある。双方の工場が同じリズムで動いているとは限らない。例えば、サントリーにとってお盆は書き入れ時で大量輸送が必要だが、相手方の工場は夏季休暇に入る。そんな食い違いが生じることもある」(担当者)

鉄道輸送特有の課題も立ちはだかる。往復輸送では片方の遅延がもう片方に連鎖する宿命にある。「ラウンド輸送を前提に組んでいるため、サントリーの貨物が1日遅れれば、空コンテナの返却も遅れる。すると、そのコンテナで運ぶはずだったユニ・チャームの貨物も足止めを食らってしまう」(担当者)

こうした遅延リスクへの対処として、サントリーはJR貨物との緊密な連携を図っている。「何とか納期を守れるよう、JR貨物や関連会社と粘り強く調整を重ねている。午前着が午後にずれ込んでも、せめて当日中には届けられるよう、日付をまたがせない努力は怠れない」と担当者の声は力強い。顧客への情報共有も丁寧だ。実務担当者同士が日々、電話やメールで連絡を取り合い、トラブルの芽を早期に摘む地道な努力を積み重ねている。

▲(左から)サントリーロジスティクス営業部部長の蝦名保明氏、サントリーロジスティクス営業部部長の中村博史氏、サントリーホールディングスサプライチェーン本部調達本部物流調達部課長の山下剛氏

10年後、本当に「運べなくなる」リスク

共同輸送の推進は、単なる効率化の話では済まない。物流業界全体の存続に関わる、待ったなしの課題だ。担当者は、10年後の物流業界に並々ならぬ危機感を抱いている。

「やはり、ドライバー不足に尽きる。すべてはここに帰着する。3年、5年なら何とかなるかもしれない。しかし10年後となると、背筋が凍る思いだ。ドライバーの平均年齢は50代。5年、10年後にそのドライバーさんたちが現役を退いたとき、本当に運べなくなる。そのリスクこそが最大の脅威だ」(担当者)

また、担当者は冷徹な現実を語る。「トラックは資金さえあれば調達できる。しかしドライバーさんは一朝一夕には育たない。今でさえ人手不足なのに、10年後はもっと深刻になる。そうなれば、どれほど優れた商品を作っても、お客様の手元に届けられなくなってしまう」

だからこそ、共同輸送による効率化は一刻の猶予も許されない。「我々の輸送にも、往路と復路のバランスが取れていない区間がまだ数多く残っている。これからは片道だけの輸送では、運送会社に引き受けてもらえない時代が来る。往復で荷物を用意して初めて運んでもらえる、いや、もうその時代は来ている。だから必死なパートナー探しが必要だ。これは効率化という次元の話ではなく、生き残りをかけた戦いだ」(担当者)

サントリーの挑戦は、物流業界全体に新たな地平を示している。飲料と紙おむつという一見無縁の組み合わせが成功を収めた背景には、綿密な戦略と地道な調整の積み重ねがあった。しかしそれ以上に、「10年後、本当に運べなくなる」という切迫した危機感こそが、この取り組みを突き動かす原動力となっている。異業種との「共創」は持続可能な物流の未来を切り拓く、唯一無二の鍵と言えるだろう。

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