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物流企業の広報はリーダーが矢面に立つべき経営課題

2025年12月16日 (火)

ロジスティクスLOGISTICS TODAYが主催する、物流業界の「広報力」向上を目指すイベント「第2回物流広報連絡会議」が16日に開催された。同会議は、物流・運送事業者の広報力を高めることで、各事業者の採用に役立てたり、企業価値の向上を目指すもの。

▲カワキタエクスプレスの川北辰実氏社長

第2回の今回はカワキタエクスプレス(三重県亀山市)の川北辰実氏社長、東京海上スマートモビリティ・ロジスティクス事業部長の上野雄羽氏が登壇。モデレーターはLOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長が務めた。

イベント冒頭で赤澤編集長は、「物流業界は2024年問題を契機に大きな転換点を迎えている。30兆円規模の産業でありながら、中小・零細事業者が多く、個々の企業の発信力は弱い」と現状を説明。「採用難が進む一方で、専任の広報担当者を置けない会社も少なくないが、それでも広報は後回しにできない」と広報の重要性を強調し、「企業単体ではなく、横につながりながら発信力を高めていこう」と企業間で強調して発信していくことを呼びかけた。

▲LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長

セッション1では、カワキタエクスプレスの川北社長が登壇。SNSを活用した採用の取り組みを紹介した。

同社では、求人サービスに月30万円を投じても半年間応募ゼロという厳しい状況が続いていた。転機となったのは、2022年3月に始めたTikTok(ティックトック)だった。翌4月末には動画が拡散し、以降は半年ほど毎月500人規模でフォロワーが増加。月16件ほどの問い合わせが入り、実質的な応募は5人前後にまで伸びたという。

大きな変化は応募エリアだ。それまで通勤圏に限られていた採用が、SNS発信をきっかけに全国へと広がり、北は秋田、南は北九州からも若年層が集まるようになった。初期はダンス動画で注目を集めたが、現在は会社行事や業務風景など、自然体の発信を重視している。

SNS運用ではリスク管理も欠かせない。コメントへの返信はすべて川北社長自身が行い、安全面への指摘も現場改善に生かしている。取引先や荷主からは「動画を見た」「頑張っているね」と肯定的な声が多く、結果的にドライバーの意識向上にもつながったという。

川北社長は「10代・20代は検索サイトではなくSNSで情報を探す。そこに求人がなければ存在しないのと同じ」と指摘。一方で、離職者が多く出た年もあったと率直に語り、「採用は一度成功すれば終わりではない。発信を続けることで、業界全体のイメージを変えていきたい」と述べ、セッションを締めくくった。

▲東京海上スマートモビリティ・ロジスティクス事業部長の上野雄羽氏

セッション2では、東京海上スマートモビリティの上野氏が登壇し、企業横断型の物流連携プロジェクト「baton」(バトン)の広報を通じ、その価値をどう社会に伝えてきたかを語った。batonは、複数の物流企業などが参画し、物流課題に取り組みコンソーシアム。直近では来年2月に路線会社4社が幹線輸送の共同配送実証実験プロジェクトが行われる。

上野氏はプロジェクトを「どう語るか」「誰が語るか」を重視してきたと強調する。構想段階から一貫して社会課題とコンソーシアムの目的を明確にし、「なぜこのプロジェクトが必要なのか」「なぜ企業連携でなければならないのか」という軸をぶらさず発信することに注力。

共同記者会見に向けては、参画各社のトップが自らの言葉で語れるよう、ストーリー設計に時間をかけた。想定問答集は80問以上に及び、最終的には各社各様の表現で伝えてもらうことを前提に、基本となるメッセージの方向性の設定などを行った。また、記者発表は夕方のニュースと翌日紙面の双方を意識した構成・時間設定など、発信の「見せ方」も含めて広報を設計したという。

上野氏は、こうした取り組みを振り返り、「広報は後から付け足すものではなく、プロジェクトそのものの一部。責任者がどこまで腹をくくって関与できるかが成否を分ける」と述べ、広報を“実務”ではなく“経営の仕事”として捉える重要性を示した。

▲懇親会の様子

全体の締めくくりとして、川北社長は「広報担当者に任せきりではうまくいかない。中小企業の経営者は、自ら体を張って広報に取り組むべきだ」と語り、上野氏も「リーダーが矢面に立つ覚悟がなければ、組織もプロジェクトも動かない」と応じた。

両氏の発言に共通していたのは、発信の巧拙以前に、意思決定と責任を担う立場の人間が、広報を“自分の仕事”として引き受けられるかどうかが問われているという点だった。変革期にある物流業界において、その覚悟こそが、広報を単なる情報発信から経営を動かす力へと変えていく──イベントは、そんなメッセージを残して幕を閉じた。

閉会後には会場内で懇親会が行われ、物流企業や3PL、運送会社、物流機器メーカー、システムベンダーなど、各社の広報担当者が交流した。業界や企業の枠を超えた意見交換が行われた。

■「物流広報連絡会議」詳細・会員登録ページ
https://www.logi-today.com/791085

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