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補助なしなら軽油308円、ホルムズ3週目

2026年3月16日 (月)

国際ホルムズ危機は3週目に入った。ドナルド・トランプ米大統領は15日、カーグ島を「お楽しみでもう何回か叩くかもしれない」と言い、イランのアッバース・アラグチ外相は「停戦を求めたことも交渉を求めたこともない」と返した。17日目にして双方が交渉を拒む構図が固まり、原油100ドル超の長期化はもはや前提になりつつある。政府は19日から軽油を含む緊急補助金を再開し、店頭価格を抑える構えだが、財源は2か月持つかどうか。補助金で価格が見えにくくなっている今のうちに、物流事業者が動けるかどうかが分かれ目になる。(編集長・赤澤裕介)

▲ホルムズ危機3週目の主要動向(3月中旬時点、クリックで拡大)

小見出し

3つの原油指標を並べる。14日終値でブレント103.14ドル、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)98.71ドル。16日の先物ではブレントが104-106ドル台に上がった。開戦前の73ドルから40%超の上昇だ。

ここで見落としてはならないのがドバイ原油の動きだ。日本が輸入する原油の9割は中東産で、取引の基準になるのはブレントではなくドバイ原油になる。そのドバイ原油のプラッツ先物が127ドル台に跳ね上がっている。ブレントとの差は24ドル以上。通常は数ドルしか開かない差が5倍以上に広がった。ホルムズ封鎖でアジア向けの中東原油が物理的に届かなくなり、スポット市場で残った供給の奪い合いが起きている。日本の実際の輸入コストは、ブレント103ドルではなくドバイ127ドルに連動する。

為替も効いている。円は14日に一時159.7円と2024年7月以来の安値をつけた。日銀の植田和男総裁は円安が輸入インフレを加速させると言及し、片山さつき財務相も為替介入の可能性を排除していない。ドバイ原油127ドルと円159円が重なった結果、円建ての原油調達コストは危機前の2倍を超えた。

本誌の軽油シミュレーション計算式で理論値を出す。あくまで原油価格と為替から機械的に算出した数字であり、精製マージン、在庫のタイムラグ、流通段階での吸収、補助金は織り込んでいない。実際の店頭価格はこの理論値より低くなるが、補助が縮小・終了すれば近づく。起点は危機前の原油65ドル・為替149円・本体115円(軽油小売145円から税を除いた値)。ブレント基準に加え、日本の輸入コストに直結するドバイ原油基準でも試算した。

▲原油・為替から試算した軽油価格の理論値(クリックで拡大)

ブレント基準の253円でも危機前の1.7倍だが、ドバイ基準では308円に達する。全日本トラック協会の試算では軽油1円増で業界全体に160億-170億円のコスト増が生じる。ドバイ基準308円は危機前から163円の上昇で、2兆6000億円規模のインパクトになる。

もちろん、この数字がそのまま店頭に出るわけではない。政府は3月19日出荷分から緊急的激変緩和措置を再開する。資源エネルギー庁の説明資料(3月11日付)によると、ガソリンの全国平均小売価格が170円程度を超える見込みとなった場合、超過分を全額補助する。軽油に独自の170円基準があるわけではない。ガソリン価格を基準に決まる補助額が、軽油にも1リットルあたり同額で上乗せされる仕組みだ。軽油価格を170円に抑える制度ではなく、ガソリン補助額が横滑りで軽油にも適用される。軽油は4月1日の暫定税率廃止まで、既存の定額補助17.1円に加えて緊急補助が追加支給される。

仮にガソリンの緊急補助が1リットルあたり30円であれば、軽油にも同じ30円がつく。3月中は既存の17.1円も残るため、軽油はガソリンより手厚い補助になる。4月1日に暫定税率17.1円が廃止されると、同額の定額補助も終了する。差し引きゼロで、4月の廃止による追加の値下げ効果はない。緊急措置分だけが残る。

ただし、補助金は石油元売りに支給される。元売りから卸、スタンドを経て運送事業者に届くまでの流通過程で、補助が全額転嫁される保証はない。地域差も残る。

財源にも限界がある。基金残高は報道で2800億-4000億円とされ、野村総合研究所(NRI)はWTI87ドル前提でこの基金が68.6日分と試算した。現在のWTIは99ドル、ドバイは127ドルだ。現在の原油価格水準では、2か月持たない可能性がある。政府は「事態が長期化した場合には支援の在り方を柔軟に検討する」としているが、追加財源は示されていない。

いま運送事業者が見ている店頭価格は、市場価格そのものではなく補助金で加工された数字だ。補助金は「時間を買う措置」にすぎない。この猶予期間のうちに荷主との燃料サーチャージ交渉を終えられるかが勝負になる。補助が剥がれた瞬間に交渉を始めても遅い。

情勢に目を戻す。既報の通り米軍は14日にカーグ島の軍事目標90か所を攻撃し、石油インフラは温存した。トランプ大統領は米テレビインタビューでカーグ島への追加攻撃を示唆し、「イランは取引したがっているが、条件がまだ十分ではない」と述べた。アラグチ外相は別の米テレビ番組で「米国との対話に良い経験はない」と返した。双方とも交渉の開始時期には触れていない。

停戦交渉はまだ始まっていない。戦場は湾岸全域に広がった。15日だけでUAE国防省は弾道ミサイル9発と無人機33機を迎撃した。サウジアラビアはリヤドと東部で無人機7機、カタールは弾道ミサイル4発と複数の無人機を迎撃。クウェートのアフマド・アルジャベール空軍基地周辺にも物的被害が出た。アラグチ外相は米軍がUAEのラアス・アル・ハイマとドバイ近郊からカーグ島攻撃を発進させたと主張し、「エネルギー施設が攻撃されれば地域の米企業関連施設を報復対象にする」と警告した。既報のドゥクム港とサラーラ港(いずれもオマーン)に続き、フジャイラ港も戦争リスク区域に入った。ホルムズを迂回するためのオマーン側港湾がすべてリスク下に置かれた。

トランプ大統領は15日、中国・フランス・日本・韓国・英国にホルムズ海峡への軍艦派遣を要請した。「米国は沿岸への爆撃とイラン艦艇の撃沈を続ける。海峡の安全確保は各国がやるべきだ」と投稿し、攻撃と護衛の役割分担を鮮明にした。16日時点で参加を表明した国はない。日本政府は「紛争継続下では極めて慎重な検討が必要」との見解にとどまり、英国のエド・ミリバンド・エネルギー長官は「集中的に検討している」と述べた。中国は「敵対行為の停止」を求めた。

代替ルートは「あるが足りない」。サウジアラビアは東西パイプライン(ペトロライン、最大能力日量700万バレル)で紅海側のヤンブー港に原油を送り、タンカーに積み替えている。3月にはヤンブーでのVLCC(超大型タンカー)積み込みが2月の3隻から7隻に倍増した。UAEもハブシャン・フジャイラ・パイプライン(日量150万バレル)で迂回輸出を進めている。だがパイプラインの合計能力は日量850万バレル。ホルムズ経由の日量2000万バレルの半分にも届かず、構造的な供給不足は解消されない。紅海側はフーシ派が2月28日に商船攻撃の再開を宣言しており、代替ルートとしての安定性を欠く。

今回の危機で止まっているのは生産ではなく輸送だ。原油は湾岸の地下にある。サウジアラビアもUAEも生産能力は残している。海峡が閉じ、保険が消え、船が動かないから原油が市場に届かない。IEA(国際エネルギー機関)の3月報告はこれを「世界石油市場史上最大の供給途絶」と位置づけた。タンカーの船隊は世界規模で再配置が進んでおり、復旧には海峡の安全確認と保険市場の正常化が必要になる。15日時点で、そのどちらも実現していない。

EIAは下半期にブレント80ドル未満に低下するシナリオを描いているが、海峡通航の段階的再開が前提だ。停戦交渉すら始まっていない以上、100ドル超の原油と150-160円台の円が数か月続く事態を想定すべきだ。補助金で店頭価格が抑えられている今のうちに、荷主との燃料サーチャージ交渉を完了させること。補助金が縮小してからでは遅い。

海峡再開遠く、物流を止める3つの壁

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