ロジスティクス2026年4月、特定荷主と呼ばれる大手荷主企業に対しCLO(物流統括管理者)の選任が義務化される。施行まで残り半年となった今、改めて問いたい。この制度の本質は何か。
結論から言えば、CLOとは「誰を置くか」の問題ではない。「自社はサプライチェーン全体に責任を持つ覚悟があるのか」という問いそのものである。(編集長・赤澤裕介)
2024年問題の本質を見誤るな
24年問題について、私たちは繰り返し同じ説明を聞いてきた。ドライバー不足、高齢化、働き方改革の影響。いずれも事実ではある。しかし、こうした説明には決定的な偏りがある。問題の原因がすべて「現場側」に押しつけられているという点だ。
ドライバーが足りないのは現場の努力不足だろうか。倉庫が回らないのは現場の工夫不足だろうか。そうではない。
現場で実際に起きているのは、無理な時間指定、短納期、急な変更、属人対応の常態化である。これらはすべて「誰かが無理を飲み込めば回ってしまっていた」構造の産物だ。そしてその「誰か」は、ほぼ例外なく現場だった。
現場は長年、「仕方ない」「何とかする」「今回は飲もう」と言い続けてきた。その積み重ねが限界を迎えている。それが24年問題の正体である。
3つの構造問題
なぜこのような事態に至ったのか。背景には3つの構造問題がある。
第1に、責任の分断である。発荷主と着荷主、元請けと下請け。これらの区分はもともと効率化のために生まれた。しかし現在では、責任を分断するための仕組みとして機能している。「そこから先はうちの責任ではない」。この言葉がどれほど多くの場面で使われてきたことか。結果として、サプライチェーン全体に責任を持つ主体がどこにも存在しなくなった。
第2に、経営と現場の断絶である。経営はKPI、コスト、利益率という数字で語り、現場は人、時間、安全、属人対応で語る。どちらが正しいという話ではない。問題は、この2つを翻訳する存在がこれまでいなかったことだ。現場の「これはもう無理だ」という声が経営の意思決定につながらない。経営の「この数字は守りたい」という判断が現場にとっては実現不可能な前提になっている。
第3に、企業間連携と社内評価のズレである。物流は企業間連携であり、1社だけで完結するサプライチェーンはほとんど存在しない。にもかかわらず、評価も投資判断も意思決定も、ほぼ完全に社内基準で行われてきた。その結果、サプライチェーンのボトルネックが誰の経営課題にもならないまま放置されてきた。
「発荷主」「着荷主」を分けて考える時代は終わった
ここで立ち止まって考えたいことがある。発荷主と着荷主という区分についてだ。
ほとんどすべての企業は、発荷主であると同時に着荷主でもある。原材料を受け取り、部品を受け取り、商品を受け取りながら、別の誰かに向けて出荷している。「自分は発荷主だからここまで」「自分は着荷主だから関係ない」という整理そのものが、実態と合っていない。
とりわけ問題なのは、着荷主としての責任がほとんど意識されてこなかった点である。納品時間は守られて当然、遅れればペナルティ、現場で何とか調整してもらう。こうした前提の多くは「自分は運ばれる側だから」という無意識の立場意識から生まれている。
しかしサプライチェーン全体で見れば、着荷主としての振る舞いがそのまま次の発荷主側の無理を生んでいるケースは少なくない。納品時間を厳しくすればどこかで無理が発生し、そのしわ寄せは必ず物流現場に向かう。多くの企業がこの構造を「見えていなかった」か「見ないようにしてきた」のではないか。
CLO制度の重要な効果の一つは、まさにここにある。CLOとは、発荷主としての自社だけでなく、着荷主としての自社の振る舞いにも同時に責任を持つ存在である。「自分たちは運ばせる側として、サプライチェーンにどんな負荷をかけているのか」を真正面から問い直す役割だ。
多くの場合、改革の余地が大きいのは発荷主としての取り組みよりも着荷主としての取り組みである。指定時間は本当に必要なのか、受け入れ体制は現実的か、そのルールは誰のためのものか。CLOはこうした問いを社内に投げかける存在でもある。
CLOの本質と経営に求められる変化
改めて整理すれば、CLOとは物流に詳しい人でも現場経験が長い人でもない。経営と現場、企業と企業の間に横たわるゆがみを自分の責任として引き受ける存在である。だからCLOは社内役職だが、仕事の本質は社外にある。荷主側だけがCLOを置いても機能しない。物流会社側だけでも足りない。両者が向き合わなければ意味がない。
経営に求められる変化は3つある。
1つ目は、CLOを調整役にしないことだ。調整役とは現場のクッションである。それをやらせた瞬間に何も変わらなくなる。
2つ目は、KPIの再設計である。コストだけを見続ければ必ずどこかで破たんする。時間、安定性、継続性を含めて評価しなければサプライチェーンは持たない。
3つ目は、現場の声を経営判断につなげることだ。属人対応や無理な調整は努力談ではない。経営への警告である。
形だけのCLOか、本気のCLOか
国がここまで踏み込んで「物流の責任者を明確に置け」と言い出した背景には、荷主企業がこれ以上「物流から目を背け続けることができなくなった」という現実がある。CLOを誰にするかという議論に関心が集まりすぎていること自体が危うい。CLOは「人を置けば何かが変わる」類の制度ではないからだ。
半年後、形だけのCLOと本気で向き合うCLO、どちらが生き残るかは明白だろう。CLOとは肩書きではない。企業の「物流に対する覚悟」そのものである。
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