ロジスティクスいつでもどこでも、ボタンを押すだけで欲しいものが届く時代だ。EC(電子商取引)の利便性が高まるその反面、家庭内の段ボール処理に悩まされている人も多いのではないか。手元に届いた喜びの後に、またゴミも増えたと憂鬱な気持ちが追いかける。
梱包ストレスを解決すべき物流課題と捉えるcomvey(コンベイ、東京都中央区)CEOの梶田伸吾氏は、「私たちのミッションは『美しい物流』をつくること」と語る。

(出所:comvey)
同社は、従来の段ボール梱包に代わる環境配慮型の梱包ソリューション「シェアバッグ」を事業展開するスタートアップ。「物流にはさまざまな課題があるが、梱包ゴミも大きな課題のひとつ。特にアパレル業界は廃棄物が多く、軽くて衝撃の強い商品を取り扱うことから、シェアバッグの展開をスタートするにあたって最適な入り口と考えた」(梶田氏)と、まずはアパレル事業の課題解決を目指した。2022年創業、サービス開始からは2年と半年という期間で、現在すでに30ブランドに導入済み、さらに30ブランドが準備中だ。
梱包ストレスをなくし、環境・物流貢献できる購買体験実現

▲梶田伸吾氏
シェアバッグの仕組みはこうだ。契約ブランドのオンラインECストアで買い物すると、段ボールによる発送か、シェアバッグによる発送かを選ぶことができる。シェアバッグを選ぶと、利用者は商品代金に加えてバッグ利用料を負担しなくてはならないとともに、郵便ポストに使用済みのシェアバッグを返却しなくてはならない。
一見、無料の段ボール梱包に比べて負担が大きいようにも見えるが、「返却確認後には次の買い物に利用できるクーポンが提供されて、結果としてはより“お得”になるように設計されている。お得に、段ボール廃棄や保管の煩わしさを排除し、さらにサステナブルな物流つくりに参加できる購買体験となる」(梶田氏)。梱包と返却に適した機能性を重視しながら、ブランドイメージを損なわないデザイン性にもこだわったバッグ作りが、利用者の満足度を高め、ブランドからの信頼確立に貢献している。
シェアバッグ利用を段ボール梱包と比較した場合、10回の発送あたり85%以上のCO2削減になると試算する。シェアバッグならば、50-100回の繰り返し利用が可能で、効率的な積載スペースの創出による脱炭素効果に加えて、「物流現場においては梱包、発送における作業負担も大きく削減できる」(梶田氏)。導入ブランドにとってはクーポン利用による購買促進、物流費の削減、顧客満足度とロイヤリティの向上により直接的な売上増加も期待できる。投資ばかりが先行しがちなほかの環境対策とは違い、実益に結びつく取り組みだ。
ただし、「美しい物流」が目指すのは、単なる自動化、効率化、環境対策だけではない。「未来への環境配慮はもちろん、『売り手・買い手・運び手』という物流に関わる3者が協力し合い、持続可能な仕組みをつくること」(梶田氏)を意味している。
郵便ポスト投函で返却完了ー買い手の行動促す回収物流の構築
シェアバッグ事業の特長は、ただリユース可能な梱包バッグを開発したことではない。「売り手・買い手・運び手」がつながる持続可能な梱包材の循環物流網を構築したことにこそ、真価がある。
「事業の前提となったのは、日本全国に張り巡らされた郵便ポストを有効に活用すること。日本郵便とバッグを共同開発できたことで、全国網の返却窓口を整えたことこそが事業のポイント」(梶田氏)だ。
郵便ポストを利用した梱包材リユースの仕組みは同社の特許であり、昨年度の「第26回 物流環境大賞」においては「サステナブル活動賞」を受賞した。ほかにもバッグ仕様の梱包を提案する事業者はあるが、物流目線で循環の仕組みを整えているのはコンべイだけだ。

(出所:comvey)
さて、気になるのはバッグの返却率だ。しっかりと循環物流の仕組みが成立しているのかについては、「バッグの返却率は99.8%」(梶田氏)というから驚かされる。梶田氏は、「選択式なので消費者が自分の意思で選んで返さなきゃいけないことを理解して利用しているということ。バッグを返却しないとクーポンコードがもらえない仕組みになっていること。なんといってもどこにでもある郵便ポストに非対面で投函して返却できることが、この数字につながっている」という。
循環・リユース物流構築におけるもっとも高いハードルの1つが、消費者の参加とアクションを促すことだとされるが、シェアバッグはこのハードルを軽々と飛び越えてみせた。梶田氏が思い描く「売り手・買い手・運び手」のつながりを仕組みとして整え、サプライチェーンの一角を担うべき買い手の、さらなる意識変容を後押ししている。
もはやアパレルにとどまらない──シェアバッグが広げる可能性
アパレルからスタートしたシェアバッグは、衣料品だけにとどまらず領域を広がる。
昨年末には自然栽培米・有機栽培米専門店Natural Farmingを運営するReplow(リプラウ、東京都港区)がシェアバッグを導入し、公式ECサイトで提供を開始、食品業界への初導入を果たした。「責任を持って洗浄、除菌しているとはいえ、食品業界では繰り返し利用に懸念があるのは当然。Natural Farmingとは専用のシェアバッグを用意するなど、衛生・安全を第一とした」(梶田氏)といい、食品業界へも積極的に提携を広げていく姿勢だ。
また、ことし1月には、生活雑貨・生活の木(東京都渋谷区)の「生活の木」公式サイトでの提供も始まり、アロマ業界への初導入も果たした。梶田氏は、「アパレル、食品、ジュエリー、アクセサリー、化粧品、雑貨など、多様な分野から問い合わせをもらっており、今後も導入領域を拡大していく予定。もちろん、物流・配送事業との連携などもさらに深めていきたい」と語る。
事業拡大に伴い、独自の物流システムの拡充も必要だ。大手物流・EC事業との連携を見据えると、1つのきっかけで爆発的な利用拡大となるポテンシャルがある。「まずはバッグの増産体制を整えること。さらに、全国規模のクリーニング体制作りも検討している」(梶田氏)という。大手アパレルでは特例子会社を通じた障がい者雇用を積極的に進めており、コンベイもシェアバッグの洗浄工程で、この特例子会社との提携を進めている。
こうした取り組みを地域ごと、全国規模に広げることも可能として、「シェアバッグ洗浄という業務にピッタリと合うような人もきっといるはず。障がい者の個性を生かした雇用の間口を広げることにも力を入れていきたい」と梶田氏は語る。多様な個性が社会・物流に貢献できること。それもまた、梶田氏が目指す「美しい物流」をつなぐ大切なピースだといえる。
徒手空拳で挑んだ日本郵便との連携こそ、「美しい物流」の原点
大手商社での物流ビジネス、新規事業企画などの経験を経て設立したcomveyの社名には、「convey=運ぶ、伝える」の基盤の上に、「ともに」の思いが込められている。梶田氏は、「物流は単にモノを運ぶだけではなく、人と人の想いを伝えることができる力を持っている」と語る。
人と人が互いの価値や考えを理解し合い、ともに目的を達成する瞬間こそが「美しい」のであり、それを物流において実現しようとする熱意こそが事業の推進力となっている。売り手がシェアバッグという選択肢を用意すること、買い手がシェアバッグを選ぶということ、その一つ一つが互いの思いをつなげることであり、運び手に対する歪んだパワーバランスを正したいとのメッセージになると梶田氏は考える。さらにその先のあるべき配送の姿として、買い手が気軽に取りに行ける配送ステーション網の構築で、ラストワンマイルの構造さえ分解してしまうことも見据える。シェアバッグは、「物流はこのままで良いのか」という問いかけでもある。
事業の根幹となった日本郵政との連携は、生まれたてのスタートアップ企業が巨大物流事業者とガッチリと手を組んだ希少な成功事例。まさに事業成立の前提となるだけに、どんな特別な戦略やルートなどの勝算があったのか、これからのスタートアップの参考となるような話が聞ければと思ったのだが、「いやいや、支局を1軒ずつ訪問し、相談窓口の整理番号を取っては、順番を待ってただ話を聞いてもらうというのを繰り返しただけ」(梶田氏)なのだと振り返る。一見、手がかりさえない固い扉でもこじ開けてしまう“信念”こそ、これからのスタートアップが見習うべき姿勢なのだろう。その熱意が生んだ特別な出会い、つながりがなければ、シェアバッグは誕生しなかったはずだ。
導入事例の拡大、それに伴う物流スキームの整備など、「今が最高に楽しい」という梶田氏が、なぜ「美しい物流」にこだわるのか。それは、人と人が物流のあるべき姿を模索してつながる、そんな美しい瞬間を、自身が経験して今があるからに違いない。(大津鉄也)

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