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「コープみらい×ライナフ」対談;置き配と、持続可能な「優しい物流」を議論

「再配達より罪深い時間指定」生協宅配に学ぶ正解

2026年2月6日 (金)

ロジスティクス「再配達が悪なのではなく、時間指定が悪だ」──そう言い切るのは、ライナフ(東京都文京区)の社長、滝沢潔氏だ。

ライナフは、オートロック付き集合住宅での置き配を可能にする「スマート置き配」で、住まい側の制約を乗り越えてラストワンマイルの受け取り環境を整えるサービスを手がけてきた。再配達削減の文脈にとどまらず、配送の設計そのものを問い直す立場から食品宅配の構造分析にも踏み込んでいる。

▲スマート置き配サービスイメージ(クリックで拡大、出所:ライナフ)

ラストワンマイルの非効率を語る際、議論は再配達に集まりやすい。政府も再配達率削減を掲げ、消費者の行動変容を促している。ただ、配送の現場を構造的に不安定にしている要因は、再配達そのものではなく、時間指定を前提にした設計にあると滝沢氏はいう。

時間指定の制約が入った瞬間、配送は一筆書きで回れなくなる。待機や再訪が発生し、走行距離は一気に伸びる。食品EC(電子商取引)を対象にした配送シミュレーションでは、同じエリア、同じ件数でも、時間指定の有無で走行距離が3倍に膨らむケースが確認されたという。再配達は結果であり、原因ではない。

では、時間指定に依存しない食品宅配は成立し得るのか。滝沢氏は食品ECの構造分析を進めるなかで、こんな結論にたどり着いたという。

「生協モデルこそが、食品宅配の正解である」

努力しても報われない食品EC、理由は「時間の縛り」にあった

──食品はEC化率こそ低いが、市場規模は大きい。それにもかかわらず、食品ECの黒字化には高いハードルがあるようですね。

滝沢 大型ネットスーパーを含めて見ていくと、時間帯指定を前提にしたサービスモデルは、例外なく収益構造が厳しくならざるを得ない。食品は粗利が薄く、在庫リスクが高い。そこに時間指定という制約が加わることで、ラストワンマイルの効率は大きく損なわれてしまう。生協のような規模感を求めても、配送コストを吸収できないまま拡大してしまい、収益が悪化してしまう。

この構造を分解していくなかで、「まさに、生協だけは違う」という気づきがあったと滝沢氏はいう。

こうした気づきを確かめるため、滝沢氏は生協宅配の現場に目を向けた。今回、コープデリ生活協同組合連合会(さいたま市南区)常務理事で宅配事業本部長の長島淳一氏を交え、首都圏で配送を担う「コープみらい」の取り組みを聞いた。コープみらいとライナフの対談から、あらためて食品宅配のあるべき姿を考える。

▲コープみらい 長島氏(左)とライナフ 滝沢氏

「週1配送は時代遅れ」は思い込みー実はもっとも合理的な食品物流

生協は、全国各地の地域生協が組合員による出資で運営する協同組合であり、宅配事業を中核に、店舗事業や共済事業などを展開している。なかでも、 東京、埼玉、千葉を事業エリアとするコープみらいは組合員数382万人を数え、供給高、物流量のいずれにおいても地域生協をけん引する存在だ。

生協宅配の基本は、週1回の定期配送、いわゆる「ウィークリーコープ」である。組合員は1週間分の注文をあらかじめ予約し、その内容に基づいて商品が調達・配送される。翌日配送や時間指定を前提としたECとは、根本的に設計思想が異なる。

──いつでもどこでも、ぽちっと押すだけで翌日には商品が届く時代。コープみらいの現場では、どう受け止めているのでしょうか。

長島 確かに週1配送なんて、いつの時代と思われているだろう。いつでも気軽にオーダーするとすぐに商品が届く、そんな仕組みに慣れてしまうと、週1配送というのはとてつもなく時代遅れで、いつか淘汰されてしまうものと思われがち。ただ私たちは、週1配送にこそ意義があると考えており、消費者やサプライチェーンの関係者にそれを理解してもらうことも重要な役割だと考えている。

──翌日配送が当たり前となった現在、週1回の定期配送は不便に見える。しかし、在庫、発注、配送の構造を丁寧に分解すると、その評価は大きく変わりますね。

滝沢 翌日配送を前提とする場合、配送拠点にはフルSKUを在庫として持つ必要がある。売れるかどうか分からなくても、即配のために在庫を置かなければならない。食品では、品切れか廃棄のいずれかが必ず発生してしまう。一方、生協の仕組みは週1というリードタイムを持つことで、最寄り拠点にすべてをそろえる必要がない。必要な分を計画的に間に合わせる設計が可能になる。その結果、豊富なアイテム、SKU数を多く維持でき、品切れも起きにくい。週1配送は遅さではなく、構造的な強さとして機能している。

生協は「巨大な物流プレイヤー」、コープみらいが担う物流のスケール

ここで改めて押さえておきたいのが、生協宅配の規模である。地域密着のイメージが強い生協だが、物流の視点で見ると、その存在感はまったく異なる。

▲リサイクル原料を導入した宅配用保冷容器(出所:コープみらい)

日本生活協同組合連合会は、全国主要地域生協の24年度の供給高(売上高)を3兆705億円としている。同年度の日本郵便の営業収益3兆4423億円に迫ろうかという数字であり、首都圏を事業エリアとするコープみらいは、その中核を担う存在である。

食品や生活雑貨など、6000品目から7500品目を取りそろえ、毎日4000台以上のトラックが同じ曜日、同じ時間帯、同じルートで配達する「コープデリ宅配」の仕組みは、派手さはないが極めて堅牢な物流網を構築、食品宅配の領域では大手EC事業者でも及びもつかない。だからこそ、コープみらいの取り組みから見えてくるのは、生協だからできる特殊な話にとどまらない。

──これはもう、巨大なラストワンマイルをどう無理なく回すかという普遍的な問いかけのようにも思いますが。

長島 大切なのは、週1配送って実は優しいよねということ。消費者を含めサプライチェーンに携わる人々すべてが少しずつ不便を分け合うことで、私たちの目指す「優しい物流」が実現するのではないかと期待している。

在庫を持たないから無理が出ない、コープみらいの「通過物流」思想

コープみらいの物流の特長は、在庫をためない通過物流にある。組合員の予約注文をもとに、メーカーや卸に対して週5回発注し、週5回納品する。センターでは商品を滞留させず、個人別にピックして宅配センターへと流す。

──大量のアイテムを保管ではなく、通過型をメインにオペレーションするのが特長的ですね。

長島 商品がセンターにとどまらないため、在庫ロスは極めて少なくなる。週5回納品という負荷はあるものの、予約注文によって数量が可視化されているため、生産・配送計画も立てやすい。結果として、サプライチェーン全体の無駄が削減されている。

──消費者にとっても、結果的に新鮮で安心な食材を数多くのアイテムの中から選ぶことができるとともに、サステナブルな食品配送に貢献することになりますね。

長島 週1配送とセットとなるのがMD、つまりマーチャンダイジング。各週ごと、年間にして52回の企画を設定し、最適なサイクルで商品を訴求することによって、実際の取り扱いSKUよりも豊富なアイテム数と感じてもらい、欲しい商品がいつもあるという利用者の満足度につながっている。このサイクル管理に関しては、これまでのExcel(エクセル)ベースだったものからAI(人工知能)導入も進めて精度を高めていきたいと考えている。

──さらに、こうした企画を紙ベース、カタログに落とし込んでいくには6か月のリードタイムが必要だとか。

長島 これもまた、現代のスピード感からすると、時代遅れに映るかもしれないが、これを逆手に取ると、生産では半年前からの企画をもとに計画を立てることが可能になるということ。サプライチェーンの上流、メーカーや卸と情報共有し、生産数や計画値を成熟できれば、物流においてもいい効果が得られるはずだ。どの企画に、どの売り場に、どのぐらいの写真の大きさでカタログ展開するから何点出るということもオープンにしたい。逆にメーカー、卸からもどんな企画で物流効率が良くなるかを提案し、オープンに協議できる場を作っていければ、サプライチェーン全体に優しくなれるとの思いがある。

現場を追い詰めていた、時間指定が生む「見えない非効率」

生協モデルの強さ、そのもう一つの特長が、時間指定を前提としない点にある。ルート配送と置き配を組み合わせることで、一筆書きに近い配送が可能になる。置き配という言葉が一般化し、その普及が後押しされるなか、生協でははるか昔から置き配を前提とした配送オペレーションを完成させている。

──置き配ができない時間指定では、配送ルート、配送距離の非効率以外にどんな問題があるのですか。

長島 配送現場に大きなプレッシャーを与えていることも大きな問題だ。遅れへの焦りは事故リスクを高め、結果として働く側の負担を増やしている。さらに、ルート配送で走り慣れた道の運転となることも重要。おかげで事故率も極めて低く抑えることができている。

置き配は利便性の話ではない、スマート置き配が変えた働き方

置き配を前提としたコープみらいのオペレーションにおいて、マンションなどのオートロックの普及は、これまでにない新しい課題となっていた。こうしたなかで導入されたのが、ライナフのスマート置き配である。入館権限を付与された配達員がオートロックを解錠し、各自宅前への置き配を可能にする仕組みだ。オートロック解錠の履歴はログとして残され、セキュリティーも確保されている。

生協宅配では、決まった配送員が決まった地域を継続して担当する。顔なじみの配送員が届けるという関係性は、置き配や不在対応における心理的な安心感にもつながっているだけに、スマート置き配との親和性も高い。

──コープみらいは、昨年度からこのライナフのスマート置き配を導入しているが、配達員の反応はどうですか。

長島 導入後のアンケートでは、配達担当者の8割が“課題が完全に解決した”と回答している。配達時間が短縮され、1日あたりのコース充足率も向上した。なによりも、オートロックが開かないことで生じる配達員のストレスがなくなった効果は大きい。配送における最大の課題の解決につながっている。

──コープみらいにとって、スマート置き配はもはやなくてはならない“物流インフラ”との位置付けのようですね。

滝沢 インフラと呼んでもらうには、まだまだスマート置き配普及は道半ば。それでも私たちの方にも、これまでオートロックがあるために昼間は共働き家庭への宅配ができず、夜間に無理して届けるというようなイレギュラーの発生が解消され、早く帰れるようになったという声をもらっている。こうした声を励みに、これからもスマート置き配の普及、制度や環境整備を力強く進めていきたい。

──コープみらいとして、さらにライナフに期待するところは。

長島 万が一、置き配の安心を裏切るような事態が発生すれば、その仕組みそのものが否定されることになりかねない。置き配を利用しない住民、より厳密な通過確認を希望する利用者など、多様な要望に基づく安全確保の仕組み作りについては、さらなる検証を深め続けてもらうこと、安心を提供することへの妥協なき姿勢が、スマート置き配のさらなる普及につながるのではないかと期待している。

便利さを競わないという覚悟、「優しい物流」は思想ではなく設計

コープみらいが掲げる「やさしい物流」は、情緒的なスローガンではない。誰か一人の負担を減らすのではなく、負担が特定の立場に偏らないよう、構造そのものを設計し直すという考え方だ。

──もっとも、このモデルがまだすべての層に無条件で支持されているわけではないですよね。

長島 若年層や単身世帯を中心に、週1配送や計画的な注文に対するハードルが高まっているのは事実。今後、こうした層へのアプローチの強化においても、スマート置き配は強力な推進力になるのではないか。

──週1配送では、翌週1週間分の計画を作るというリテラシーも必要になってきます。

長島 キーワードは、“エフォートレス”。これまでは誰もができるだけエフォートレス、つまり努力しないで済むサービスを競い合う状況だった。これからは、消費者を含め、サプライチェーンのすべての人々が少しずつ負担を分け合い、誰かにしわ寄せのいかない社会、持続可能な物流作りを全員で作り上げていく必要がある。

▲配送用EVトラック積極導入も、「優しい物流」の取り組み(出所:コープみらい)

消費者のエフォートレスを追求するあまり、配送する人々にしわ寄せが来ていたのがラストワンマイルの24年問題である。コープみらいにおいても、配送ドライバー不足は確実に顕在化しつつあるという。

コープデリ生活協同組合連合会と会員6生協では昨年、 8月11日から15日の5日間、会員生協のコープデリ宅配の配達を一斉休業した。猛暑による疲労・熱中症から職員を守り、計画的な夏季休暇取得を通じて職員の働きやすい職場環境づくりを実現するための思い切った取り組みだ。

──宅配需要の高まる時期の休業、売り上げへの影響は小さくなかったのでは。

長島 それでも踏み切った背景には、誰かの頑張りに依存する物流は続かないという認識があるから。休むことも、持続可能性の大切な要素だ。外部からの通報窓口には、普段は厳しい意見をもらうことが多いのだが、おそらく協力会社の配達員の家族と思われる人から、「夏季休暇ありがとう、これで家族で旅行に行けます」というお礼の言葉が届いたのは嬉しかった。協力会社には夏季配送のしわ寄せがいっていたことを実感し、ドライバーにとってのエフォートレスを実現したいと改めて感じた。また、髪色や髪型などの身だしなみ基準の緩和など、より多様な人材や個性が活躍できる規則へと変更するなどの環境作りで、貴重な人材を確保するために取り組んでいる。

見た目はアナログ、中身は最先端ー週1配送とAIが「相性がいい」理由

──週1配送、紙カタログなど、表層だけ見れば、生協宅配の仕組みは極めてアナログに映りますが。

長島 商品サイクル管理システムの精度向上へのAI活用のほかにも、AIエージェントによる業務効率化なども検証していきたい。AIエージェントに関しては、利用者にも開放することでより快適な発注のお手伝いにも応用できるのではないかと考えている。

滝沢 定期性、予約注文、長年蓄積されたデータはAIとの相性が良い。即時配送よりも、むしろ週1配送のほうがアルゴリズムは機能しやすい。商品サイクル管理や需要予測の高度化によって、さらなる効率化の余地が広がっているのではないだろうか。

長島 ライナフのスマート置き配のような、これまでできなかったことを可能にする技術革新や、AIの進化など、生協らしい理想論のようなものとして片付けられていたことも次々と実現する可能性が高まっている。 夢物語が夢物語ではなくなる日が来るのではないか。

協働や共創はこれまでも必要とされながら、なかなか実現できなかったもの。それが24年問題を機に見直されている。「コープデリグループ ビジョン2035」においては、「『ともに』の力で、笑顔の明日を」とのフレーズが掲げられている。グループ内にとどまらず、広く連携の輪を広げる。ただ利益追求だけを目的とせず「ともに」持続可能性のある未来を目指すコープみらいのような存在が、その連携の中心となるべきなのかもしれない。

効率化とは速さではない、続けられる物流をどう設計するか

2人の対談を通じて明らかになったのは、ラストワンマイルの効率化において重要なこと、持続可能な食品宅配を実現するために重要なことは、再配達率の削減でも、現場努力の積み重ねでもない。時間指定という前提を問い直すとともに、しわ寄せを生まない構造を設計することだ。

コープみらいは自らのモデルを特殊なものとして閉じない。便利さを競う物流から、無理をしない物流を社会全体で選び取る方向へ。消費者も含めたサプライチェーン全体で、ラストワンマイルのあり方を見直す必要があると訴える。

長島 サプライチェーン全体で負担を分担し、コミュニケーションできることが不可欠。BtoBはもちろん、BtoCまでの連携にはデジタル、AIを活用した共通のプラットフォームなども必要となるはずだ。今回のライナフとの連携も、新しい企業間協力の1つの試み。ただ、それによる効率化によって即日配送、すぐにお届けというような世界観はあえて我慢したい。週1配送でいいんじゃないか、そんな物流、優しい物流の意義をより多くの人々に理解してもらいたい。

滝沢 優しい物流や「ともに」の世界を追求しながらも、これだけの事業規模まで伸び続けていることを見れば、即日配送といった方向性だけが正解ではない、サステナブルだからこそここまで大きくなったのだと改めて実感する。私たちのサービスが、これまで夢物語だったものを実現するためのインフラとなることを目指していきたい。

コープみらいとスマート置き配との組み合わせは、24年問題以降のラストワンマイルに対する一つの現実解を示している。便利さだけを追求した、その先にある続けられる物流、優しい物流を、どう社会に実装していくか。その問いは、企業だけではなく 消費者としての立場の私たちにも突き付けられているのだ。

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