ロジスティクス米連邦最高裁がIEEPA関税を違法と断じた2026年2月20日の判決は、日本企業の対米サプライチェーンに直ちに影響を及ぼす。日本向けのIEEPA関税率15%(25年7月の日米合意)は法的根拠を失い、代わりに通商法122条に基づく全世界一律10%の時限関税が発動された。税率の引き下げは一見すると好材料だが、122条関税は最長150日間の時限措置であり、その先は見通せない。関税還付の手続きも不透明なままだ。物流・通関の現場では、税率切替への即時対応と、還付請求の準備を並行して進める必要がある。(編集長・赤澤裕介)
税率変更と還付、2つの実務課題
判決により無効となったのはIEEPAに基づく関税のみだ。日本からの対米輸出に関係する関税の現状を整理する。
日本向けIEEPA相互関税は15%(日米合意ベース)だったが、判決で全額無効となった。代替として通商法122条の10%が適用される。差し引き5ポイントの引き下げとなるが、122条は最長150日間(7月下旬まで)の時限措置だ。
232条に基づく鉄鋼・アルミニウム関税(25%)は判決の対象外で変更はない。自動車関税も232条が根拠だが、日米合意で15%に引き下げられた税率がそのまま継続する。商務省が進めている自動車部品への232条適用拡大手続きも影響を受けない。
通関実務では、IEEPAベースの税率から122条ベースの税率への切替が必要になる。HSコード別に適用税率が変わるため、通関業者、フォワーダーは米税関・国境警備局(CBP)からの実施ガイダンスを注視し、申告内容を速やかに更新する必要がある。
関税還付の手続きと期限の理解を
判決でIEEPA関税は「当初から違法」と判断された。これは25年2月の導入時点にさかのぼって法的根拠がなかったことを意味する。ペン・ウォートン予算モデル(PWBM)の試算では、IEEPA関税として徴収された累計額は1750億ドル(26兆円)超に達する。
ただし最高裁判決は還付の具体的なプロセスを示さなかった。カバノー判事は反対意見の中で、還付手続きは「混乱」を招くと警告している。トランプ大統領も「今後5年間は法廷闘争を続ける」と述べ、政権として還付に抵抗する姿勢を明確にした。
還付の実務で鍵を握るのが「清算(リキデーション)」のタイミングだ。米国の通関制度では、輸入貨物の最終的な関税額はCBPが通関から314日後に確定する。この確定前(未清算)の貨物と確定済み(清算済み)の貨物では、還付の手続きが異なる。
未清算の貨物については、CBPが清算時にIEEPA関税分を除外して再計算する行政手続き(ポスト・サマリー・コレクション=PSC)での対応が見込まれる。25年12月10日時点でIEEPA関税の対象となった3400万件の通関のうち、1920万件がまだ未清算だった。
清算済みの貨物については、清算から180日以内にCBPに異議申立て(プロテスト)を行うか、国際貿易裁判所(CIT)に直接提訴する必要がある。CITは25年12月の裁定で、再清算と還付を命じる権限があると確認しており、提訴期限は「争われる行為」から2年間とされている。
住友化学、豊田通商、リコーなど日系9社は既に現地法人を通じてCITに還付請求訴訟を提起している。提訴企業は全体で1000社を超えた。未提訴の日本企業は、自社の通関データを確認し、清算の進行状況をCBPの自動通関環境(ACE)ポータルで把握した上で、通関業者や弁護士と還付戦略を早急に検討すべきだ。
荷主企業・物流企業がとるべきアクション
まず通関データの棚卸しが最優先だ。IEEPA関税の対象となった全ての通関記録を特定し、品目別の税額、清算状況、清算見込み日を一覧化する。ACEポータルへのアクセスが未設定であれば早急に登録する。CBPは26年2月6日から還付を電子送金(ACH)に一本化しており、ACH参加登録も必要だ。
次に、122条関税への切替に伴う通関申告の修正だ。CBPの実施ガイダンスが出次第、通関業者と連携して申告内容を更新する。税率の変更はサプライチェーン全体のコスト構造に影響するため、調達部門や経理部門との情報共有も同時に進める。
さらに中期的には、122条関税の5カ月という期限を織り込んだ在庫・調達戦略の見直しが必要だ。期限後に税率がゼロになるのか、別の法的根拠で再導入されるのか、それとも議会が新たな関税立法に動くのか。複数のシナリオを想定した上で、サプライチェーンの柔軟性を確保しておくことが、経営判断として問われる。
還付は待っていても来ない。CBPが行政的な一括還付プロセスを整備する保証はなく、トランプ大統領は「5年間戦う」と明言している。権利保全の期限は清算日から180日で機械的に進む。提訴済みの9社は先行して態勢を整えたが、それ以外の日本企業にとっても、自社の輸入品がいつ清算されるかを把握し、期限内に手を打つことが全てだ。還付額の大小にかかわらず、「知らなかった」で権利を失うリスクは避けなければならない。
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232条・301条など判決対象外の関税の見通しについては「122条は150日限り、関税の主役交代へ」で、グローバルサプライチェーンの中期的な影響については「調達先の正解が国ごとに変わる時代」で、それぞれ詳報する。
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