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赤澤裕介のグローバルサプライチェーン・ブリーフィング

EU対米関税が前進し日米はレアアース協力

2026年3月20日 (金)

行政・団体EU議会の貿易委員会による対米関税法案の前進、日米首脳会談での重要鉱物・エネルギー協力の合意、日銀とECB(欧州中央銀行)の金利据え置き。過去24時間に出た政策判断と、ここ数か月で進んできた北米や中南米の物流インフラ投資を並べると、共通する方向が見える。特定の国、ルート、供給先への依存を減らす動きだ。ただし、依存をゼロにできる国はない。問われているのは「どこに依存を残すか」の選択だ。(編集長・赤澤裕介)

▲過去24時間の政策判断を物流視点で整理した要点一覧(クリックで拡大)

▲今日の主な動き(3月19-20日、クリックで拡大)

関税が読めないと倉庫の場所が決まらない

今、世界の物流を形づくっているのは船や飛行機の運賃だけではない。関税だ。関税率が変われば、どこに倉庫を置くか、どの港を使うか、在庫を何日分持つかが全部変わる。19日にEU議会の貿易委員会が可決した対米関税調整法案は、その関税率がいつひっくり返るかわからない状況にどう備えるか、という法案だった。

中身を見る。EU側は米国産品への関税を引き下げる用意がある。ただし、米側が合意を履行することを条件とする安全装置を複数付けた。一定期間で自動失効する条項、米側が合意を破った場合にEU側の関税を即座に復活させる条項、鉄鋼・アルミについては米側が先に引き下げなければEU側は動かないとする相互主義条件だ。貿易委員長のベルント・ランゲ氏は「外交政策を理由にEUに課される関税は受け入れない」と述べた。来週26日の本会議で採決され、通れば加盟国との交渉に入る。

なぜこんな条件が必要になったのか。2025年夏に米国とEUは貿易協定を結び、米側15%、EU側引き下げという枠組みで合意した。ところがその後、ドナルド・トランプ大統領がグリーンランド問題で欧州8か国に追加関税を示唆し、ことし2月には連邦最高裁が大統領の関税権限の法的根拠を違憲と判断した。大統領は別の法律で15%の一律関税を再導入したが、これは150日間の時限措置で7月24日に切れる。EUは2月に批准作業を凍結し、19日に条件付きで再開した。つまり、米欧間の関税は合意はあるが、その土台が何度も揺れている。

物流の実務ではこうなる。関税率が不確定だと、荷主は「どちらに転んでも対応できる」在庫配置を取らざるを得ない。EU域内に在庫を前倒しで積むか、関税が確定するまで出荷を止めるか。ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁が19日に地政学リスクとエネルギー高がユーロ圏経済の成長と物価の見通しを不安定にしていると指摘したのは、この状況と無関係ではない。関税が読めないことは、倉庫の場所が決まらないことと同じだ。

日米首脳会談は19日(日本時間20日未明)にワシントンで行われた。物流・サプライチェーンに直接関わる合意は以下の3件だ。

▲日米首脳会談で示された物流・資源調達に関わる主要合意(クリックで拡大)

高市早苗首相は米国産原油を日本で備蓄する共同事業も提案した。日本のエネルギー調達先を中東以外に広げるという方向性が、首脳レベルで合意された。トランプ大統領はホルムズ海峡の安全確保への「貢献」を日本に要請したが、高市首相は法制上の制約があると説明し、理解を求めた。

▲日米首脳会談の様子(出所:外務省)

ここで考えたいのは、日本が中東依存をゼロにできるかという話だ。できない。日本の原油輸入の9割以上は中東からで、米国産に切り替えるにしても輸送コストは上がる。備蓄も在庫を増やすことであり、その分の資金と場所が要る。つまり「分散する」とは「コストを払って選択肢を増やす」ことであって、安くなる話ではない。

日銀は19日、政策金利0.75%の据え置きを決めた。高田審議委員が0.25ポイントの利上げを提案し、2会合連続の反対票を投じた。円は一時160円に接近している。金利は動かなかったが、原油高と円安によるコスト圧力は物流業界にかかり続けている。

ここまでが過去24時間に起きたことだ。ここからは、同じ方向を向いている既存の動きを補足する。

米国では北米最大級の貨物鉄道であるBNSF鉄道が1月に発表した26年設備投資計画が進行中だ。総額36億ドル(5700億円)で、内訳は以下の通り。

▲BNSFが進める保守・拡張投資の内訳(クリックで拡大)

拡張投資は全体の1割だが、投資先はどちらも太平洋岸の港湾と米国内陸を結ぶ回廊上にある。中国からの直接輸入が減り、メキシコやベトナム経由に切り替わっても、最終的に貨物が米国内を動く経路は変わらない。BNSFはその経路の容量を確保しておく選択をした。これも「どこに依存を残すか」の判断だ。輸入元は分散しても、内陸の鉄道回廊には依存し続ける。だからそこに投資する。

中南米ではニアショアリングが進んでいる。ベインの調査ではCOO(最高執行責任者)の8割が今後3年でニアショアリングを拡大すると回答した。22年の6割台から増えている。ただし、移転を完了した企業は2%だ。方針と実行の間には大きな開きがある。理由の一つがインフラだ。メキシコ北部の国境通過地点ではトラックと鉄道の容量がひっ迫しており、工場を建てても貨物を米国に運べなければ意味がない。カリブ海ではドミニカ共和国のカウセド港がDPワールドの拡張で年間310万TEU体制に向かい、自由貿易地域と組み合わせた米国向け中継拠点として使われ始めている。

ニューヨーク市では昨年12月から「ブルーハイウェイ」と呼ばれる水上貨物の実証が動いている。ブルックリン海洋ターミナルからマンハッタンのピア79へフェリーで小口貨物を運び、電動カーゴバイク5台でラストマイル配送する仕組みだ。1日300-400個を処理している。ニューヨーク市の貨物の9割はトラックが運んでおり、トラック依存から抜け出すために水路を使うという実験だ。

東南アジアでは、エネルギー調達先の切り替えが国レベルで動いている。ベトナムは非中東産原油400万バレルの調達を発表した。同国の消費量の6日分にあたる。備蓄が20日分しかないベトナムにとっては、中東以外からの調達ルート確保が急務になっている。タイはディーゼル価格の上限を設定し、石油製品の輸出を禁止した(カンボジア・ラオス向けを除く)。インドネシアの石化大手チャンドラアスリはフォースマジュール(不可抗力)を宣言し、契約通りの納品ができない状態に入った。韓国はUAEから原油の追加調達を確保した。アジア各国が個別に調達先を確保する動きが同時に起きている。

テクノロジーでは、スウェーデンのIFSが17日にAI物流プラットフォーム「IFS.aiロジスティクス」を発表した。輸送計画、キャリア選定、自動実行、運賃監査、ネットワーク最適化を一つのシステムで回す。大手荷主の輸送費は売上高の5-10%を占めるが、データがキャリア、地域、レガシーシステムに分散しているため全体像が見えないという問題に対応する。分散した物流ネットワークの管理コストを下げるツールとして、今回のブリーフィングのテーマとも直接つながる。

EU関税法案、日米首脳会談、東南アジアのエネルギー調達、BNSF、中南米のニアショアリング、ニューヨークのブルーハイウェイ、AIによる物流管理。場所も分野も違うが、方向は同じだ。どの国、どの都市も「ここが止まったら全部止まる」という状態を嫌い始めている。

ただし、すべてを分散できる企業はない。分散にはコストがかかる。倉庫は増え、在庫日数は延び、調達先の管理は複雑になる。分散はリスクを下げるが、依存は消えない。形が変わるだけだ。

これまで物流の最適化は「最短、最安、最小在庫」で測られてきた。今問われているのは「止まらないこと」「切り替えられること」だ。この先、物流の現場で迫られる判断は3つに絞られる。EU向けは関税の変動を前提に在庫を持つかどうか。米国向けは輸入元ではなく内陸輸送を基準にネットワークを組み直すかどうか。そしてエネルギーコスト上昇を前提に運賃と契約条件を見直すかどうかだ。この3つを決めないまま分散だけ進めると、コストだけが積み上がる。

分散そのものは差別化にならない。差がつくのは、切り替えを前提に契約を組めるか、依存を意図的に残せるかだ。決めずに先送りすれば、在庫は増え、資金は寝て、ルートは増え、運賃は上がる。分散のコストだけを払う状態になる。

問われているのは、どこに依存を残すかだ。来週26日のEU議会本会議採決で、米欧間の関税の見通しが一段はっきりする。

日米が原油備蓄と鉱物で4文書合意

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