行政・団体高市早苗首相とドナルド・トランプ米大統領は現地時間19日(日本時間20日未明)、ワシントンで首脳会談を行い、エネルギーと重要鉱物の調達を中東・中国への一極依存から引き離す4つの合意文書をまとめた。日本が米国産原油を国内で備蓄する共同事業の提案、レアアース(希土類)など重要鉱物の13の共同プロジェクト、小型モジュール炉(SMR、小型の原子力発電所)の建設を柱とする最大730億ドル(11兆5000億円)の対米投融資が主な内容だ。これらが実行に移れば、日本の原油と鉱物の流れは中東・中国を経由する一本道から複数ルートに分岐する。物流事業者にとっては、輸送経路、在庫の持ち方、荷主との契約の前提が変わる話だ。(編集長・赤澤裕介)
調達ルート再編の時間軸を読む
今回の合意は、実現までの時間軸がそれぞれ異なる。物流の現場が「いつまでに何を判断すべきか」を見極めるには、この違いを分けて捉える必要がある。
外務省の発表によると、会談で取りまとめた文書は以下の4つだ。戦略的投資に関する共同発表(対米投融資の第2弾)▽重要鉱物サプライチェーン強靱性のためのアクションプラン▽重要鉱物プロジェクト共同ファクトシート(13案件)▽深海鉱物資源開発に関する協力覚書(南鳥島レアアース泥)。以下、物流への影響が大きい順に見ていく。
高市首相は会談で「日本で米国産原油を備蓄する共同事業を実現したい」とトランプ大統領に提案した。首相官邸の会見記録によると、調達先の多角化がアジア全体のエネルギー安定供給につながるとの趣旨で説明している。日本の原油輸入は中東依存度が9割を超え、ホルムズ海峡の封鎖で寸断リスクが現実化した。米国産原油が選択肢に加われば、調達ルートは中東・ホルムズ経由の一本道から太平洋経由を含む複数路線に広がることになる。
ただし、ルートが増えればコストも増える。備蓄基地の確保、受入港湾の整備、タンカーの手配は短期間では進まない。アラスカには大型タンカーが入れる港が限られるという物理的な制約もある。調達先を分散させることは、在庫管理と輸送のオペレーションが複雑になることと表裏一体だ。
日本の原油受入は現在、太平洋側の京浜、中京、瀬戸内の製油所や備蓄基地が中心を担っている。米国産原油の受入が本格化する場合、これらの既存拠点を活用するのか、新たな立地が選ばれるのかで、タンカー航路と陸上輸送の流れが変わる。次の判断材料は、備蓄基地の候補地選定と港湾整備計画の公表だ。ここが固まった時点で、ルートの再編は具体的なスケジュールに入る。
トランプ大統領は会談冒頭、日本が原油の9割以上をホルムズ海峡経由で輸入している一方で米国の依存度は1%未満だと指摘し、ホルムズ海峡の安全確保への「貢献」を要請した。高市首相は「日本の法律の範囲内でできることとできないことがある」と説明し、具体策には踏み込まなかった。安全保障面の対応は見えないままだが、エネルギー面では「買い手」として米国産原油を積極的に取り込む姿勢を見せた形だ。
重要鉱物では、日米企業が参画する13の共同プロジェクトが公表された。判明している主な案件は以下の通りだ。
残りを含む13件の全容は、共同ファクトシートの全文公開を待って追報する。
両首脳は中国を念頭に「輸出規制を含め、重要物資の安定供給を脅かすあらゆる措置に反対する」方針を確認した。レアアースは採掘から精製まで世界の7割前後を中国が占め、25年には中国政府が米国向けに7種類の輸出を規制した経緯がある。今回のアクションプランでは、同志国で調達時の最低価格を設定し、中国の廉売に対抗する「貿易圏」の枠組みづくりを進める方針も盛り込まれた。
物流の現場に影響するのは、鉱物の流れが変わる点だ。レアアースの精製は現在、中国に集中している。日本のメーカーは中国を経由して鉱物を調達するのが前提だった。米国やアジアに精製拠点が分散すれば、この前提は成り立たなくなる。鉱物が中国を通らないルートで日本に届く流れが生まれ、完成品メーカーの部品調達先が変わり、フォワーダーの航路選択やコンテナの積み地も連動して動く。さらに、最低価格の設定を含む枠組みは、中国の廉売による価格支配を崩しにいく動きだ。価格の決まり方が変われば、輸送の最適解も変わる。2-3年のスパンで起きる変化だが、荷主の調達戦略が固まってから物流側が追随するのでは遅い。荷主がどこに切り替えるかの情報を今から取りにいく企業と、確定してから動く企業で差がつく。
南鳥島(東京都小笠原村)周辺海域のレアアース泥については、経済産業省と米商務省の間で協力覚書を結び、作業部会を設置した。南鳥島沖の海底にはジスプロシウムやテルビウムなど、EVのモーターや風力発電機に使う重希土類が高濃度で含まれている。26年2月には海洋研究開発機構(JAMSTEC)の探査船「ちきゅう」が水深6000メートルの海底からレアアース泥の試験採取に世界で初めて成功した。27年2月には1日350トンを目標にした本格採掘の実証試験が予定されている。商業規模の生産体制が整うのは28年度以降の見通しだ。短期の供給不安を解消するものではないが、日本近海に資源があるという事実は、中長期の調達設計に選択肢を加える。中国産レアアースに全面的に頼らなくてもよくなる時期がいつ来るかは、この実証の進み具合にかかっている。
対米投融資は、2月の第1弾(天然ガス発電、原油積み出し港整備、人工ダイヤモンドの3件、計360億ドル)に続き第2弾が発表された。
第2弾の3件はいずれもデータセンターへの電力供給を含む計画で、AI(人工知能)需要の拡大を見据えたものだ。日米関税合意で日本が示した5500億ドルの投融資枠に対して2割程度が積み上がった。第3弾の候補にはアラスカ産原油の増産に向けた油田開発も含まれるとされ、これが実現すれば前述の原油調達ルートの分散に直接つながる。
今回の合意は、足元のホルムズ封鎖に伴う燃料コスト上昇や海上輸送の混乱を即座に解消するものではない。原油備蓄は構想段階、鉱物プロジェクトは投資段階、南鳥島は実証段階にある。
それでも、方向は確定した。日本のエネルギーと鉱物の調達は、中東・中国への一極依存から離れる。分散に伴うコスト増をだれが負担するかが、次の焦点になる。
物流事業者が今判断すべきことは、短期と中長期で分かれる。短期は変わらない。燃油サーチャージの交渉、代替航路の確保、荷主との価格転嫁の合意が最優先だ。中長期では、米国産エネルギーのシフトに伴うタンカー航路と受入拠点の変化、鉱物の調達分散に伴う荷主の生産・在庫拠点の移動を見極めて、自社の輸送体制を先に組み替える必要がある。
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