国際日量800万バレルの供給が途絶した。史上最大の4億バレル備蓄放出でも補いきれない。IEA(国際エネルギー機関)は20日公表の報告書「シェルタリング・フロム・オイルショックス」(Sheltering from Oil Shocks)で、供給側の対応だけではこの危機を乗り越えられないと明言し、政府・企業・家計に石油消費の即時削減を求めた。10項目の需要抑制策のうち、物流・商用車の効率化は実効性の高い柱の1つとして位置づけられた。ファティ・ビロル事務局長は「迅速な解決がなければ影響はますます深刻になる」と述べた。備蓄は時間稼ぎであって解決策ではない。その時間が尽きる前に、燃料を使う側が構造を変えられるかどうかが問われている。(編集長・赤澤裕介)
物流の燃料削減が危機対応の焦点に
IEAが物流に踏み込んだのは今回が初めてではない。2022年のウクライナ危機時の「10項目計画」で、貨物トラックの効率化だけで日量32万バレル、高速道路の速度制限でトラック分として日量14万バレルの節約を試算した。道路輸送は世界の石油需要の45%を占め、その中でもディーゼルに依存する商用車・配送車両は、行動を変えれば即日で燃料消費が減る数少ない領域だ。今回の報告書はこの枠組みを引き継ぎつつ、施策を運用レベルにまで具体化した。
報告書が示した商用車向けの3本柱はこうだ。エコドライビング(急加速・急ブレーキの回避、一定速度の維持、アイドリング削減)▽車両保守(タイヤ空気圧の適正管理、エンジン・エアフィルターの定期点検)▽積載最適化(空車走行の削減、デジタル技術を活用したルート最適化)。加えて高速道路の速度制限10キロ引き下げを提言した。パキスタンはすでに大型車の制限速度を時速110キロから90キロに下げ、韓国は車両ナンバーによる走行日規制を検討している。
ここまでは「やれば燃料が減る」という話だ。だが今回のIEA報告書の本質はそこにない。
報告書は、積載最適化や空車走行の削減、配送効率の改善を正式な危機対応策として求めた。IEAの提言をそのまま読めば、少量多頻度・短納期を前提にした配送慣行は、危機下で見直しを迫られる構造にある。これは運送会社ではなく荷主に向けた提言だ。EC(電子商取引)事業者や小売チェーンが配送スピードを競い続ける限り、トラックは少量の荷物で走り、空車率は上がり、ディーゼル消費は膨らむ。配送頻度の設計は荷主の意思決定であり、運送会社だけでは動かせない。有限の燃料資源をどう配分するかという制約の下では、配送条件の見直しはコスト効率の問題ではなく資源配分の問題になる。
IEA需要抑制10項目の全体像と物流との関係を整理する。
10項目のうち(1)から(6)までの6項目が道路輸送に関わり、(6)が物流に関わる中核的な対策に位置づく。(2)と(6)を合わせれば、22年の試算ベースで日量46万バレルのディーゼル削減に相当する。需要抑制策の中で物流関連が占める比重は極めて大きい。
問題は時間だ。本誌が報じてきた通り、日本の原油輸入の中東依存度は95%前後に達し、ドバイ原油は19日、現物市場で150ドルを突破した。ブレントやWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)を大きく上回るドバイの異常な高騰は、ホルムズ経由の原油が物理的に手に入らないことを映している。政府は16日に過去最大の8000万バレルの備蓄放出を開始したが、経済産業省は「3月20日ごろを過ぎるとホルムズ海峡経由の新規出荷がなくなる」と説明している。備蓄が減り続ける一方で新規供給が途絶する。この構図の下では、需要側で燃料を1リットルでも絞ることが、備蓄の持続日数をそのまま延ばす。
危機の時間軸はこう動く。開戦から3週間が経過した現時点で、軽油価格の急騰と一部拠点での在庫ひっ迫が始まっている。封鎖が1か月を超えれば、本誌が報じた石化プラントの減産が本格化し、包装資材や樹脂パレットの供給制約が物流現場に波及する。2か月を超えれば、備蓄の取り崩しペース次第で製油所への原油投入量が絞られ、軽油そのものの供給が細るリスクが出てくる。需要抑制は「やった方がいい」ではなく「やらなければ物流が止まる」段階に近づいている。
IEA報告書は物流業界にもう1つの意味を持つ。IEAが商用車・配送の効率運転を石油危機への正式な対応策に位置づけたことで、運送会社は荷主との交渉に新しい根拠を得た。運賃交渉、燃料サーチャージの改定、配送条件の見直し。これらすべての場面で「IEAが危機対策として求めている」という根拠が使える。荷主に対して配送頻度の見直しやリードタイム延長を提案する際、自社の都合ではなく国際的な資源制約への対応として説明できる。
では明日から何をするか。物流企業と荷主で動き方は異なる。
物流企業にとって即日着手できるのは、速度抑制の徹底、タイヤ空気圧の全車点検、アイドリングストップの再徹底だ。デジタルツールの導入はコストと時間がかかるが、空車率と積載率のKPI(重要業績評価指標)を設定し、配車担当者が日次で追う仕組みは今の体制でも始められる。空車走行の削減と帰り荷の確保を最優先に据え直すことだ。
荷主に求められるのは、配送頻度の再設計だ。物流企業の車両1台ごとの改善を積み上げるより、荷主が配送条件を変える方が、削減の規模も速度も大きい。短納期配送の停止または制限、発注ロットの引き上げ、リードタイムの延長。これらは物流コストの削減策であると同時に、限られた燃料を社会全体で分かち合うための選択だ。IEAが配送効率の改善を公式な危機対策に位置づけた以上、配送スピードの維持を優先する判断には、従来とは異なる説明責任が伴う。
欧州では国際道路輸送連盟(IRU)が16日、欧州委員会に燃料税の一時軽減と輸送事業者への危機支援を要請した。EUのトラック車両の90%超がディーゼルで走り、2月27日以降ディーゼル小売価格は加重平均で20%上昇した。米国は戦略備蓄から1億7200万バレルを放出し供給側の対応を主軸に据えたが、需要側の政策は連邦レベルでは動いていない。日本は企業主導のエコドライブやデジタル技術の導入が先行しており、IEA提言を受けて政府がエコドライブ研修や車両保守への支援を拡充するかどうかが今後の論点になる。
IEA報告書は、供給途絶の長期化に備え、需要側の行動変容を各国の政府・企業に求めた。日本では備蓄放出が始まり、ホルムズ経由の新規出荷が途絶する局面に入る。物流の燃料消費をどこまで絞れるかが、備蓄の持続期間と軽油の供給安定を左右する。
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