荷主車載器専門商社の東海クラリオン(名古屋市中区)は20日、4月1日より開始された自転車への「交通反則通告制度」(青切符)の導入に伴う交通環境の変化と、物流現場への影響、厚生労働省や国土交通省などの動き、そして求められる安全対策についての記者レクチャーを開催した。このレクチャーは、法改正から1か月が経過したタイミングで、道路交通の安全性向上と物流現場の課題解決に向けた多角的な議論を展開する場として設けられ、対面とオンラインのハイブリッド形式で多くの報道関係者が集まった。
冒頭、主催者を代表して東海クラリオンの安部源太郎社長が挨拶に立ち、レクチャー開催の社会的意義を語った。安部氏は、「今回の自転車法に関わる法改正は、自転車利用者だけではなく、物流事業をはじめとするさまざまな交通事業者、さらには地域社会全体にも影響を与えるテーマだ」と指摘し、交通環境や移動手段がより複雑化するなかで、多様な立場から交通社会を見直し、安全で持続可能な移動について考える必要性を強く訴えた。

▲モビリティの多様化に伴い、交通法規は厳格化され続けている(出所:OpenStreet)
続いて、TMI総合法律事務所の弁護士であり国土交通省デジタルアドバイザーでもある粟井勇貴氏が登壇し、道路交通法改正の法的な要点と自動車側の実務への影響について詳細な解説を行った。粟井氏は、青切符制度の導入について「変わったのは取り締まりの枠組みであり、軽微な違反に対する指導や警告に加えて、新たに青切符による反則金制度が新設された」と説明し、ながらスマホには1万2000円、信号無視には6000円の反則金が科されるなどの具体例を提示した。さらに、施行後1か月間の速報値として、青切符が2147件、悪質な違反に対する赤切符が833件(前年比で40パーセント減)交付され、一方で警察による指導や警告が13万5000件(1.5倍増)にのぼっているデータを紹介した。
その上で、自動車側が最も注意すべき「側方安全通過義務」について言及し、世間に広がる大きな誤解に対して警鐘を鳴らした。粟井氏は、「この義務について、世間では自転車を追い抜く際に必ず1メートル以上の間隔を空けなければ違反になるという誤解が広まっているが、実際には可能な範囲で間隔を空け、道路状況などでどうしても十分な間隔を確保できない場合には、時速20キロから30キロ程度に減速して徐行をすれば法律上は問題が無い」と語り、被側方通過車両義務違反(追い抜かれる側の自転車が左側に寄る義務)の解説も交えながら、ドライバーが過度に恐れる必要はないことを法的に整理した。

▲新法制で修正された過失割合(出所:TMI総合法律事務所)
しかし、こうした安全措置を怠って事故を誘発した場合のリスクは極めて大きい。粟井氏は、「自転車の車道走行が増えることでトラックの左折時の巻き込みなどの接触事故の増加が見込まれるが、過去の裁判例でも自動車側の過失割合は基本的に90%以上と非常に重く認定される傾向がある。今後はこの側方安全通過義務違反が過失をさらに加重する修正要素となるため、事業者が負うべき刑事や民事、そして運転者への安全配慮義務というリーガルリスクは格段に高まる」と語り、事業者による客観的な防犯・記録体制の構築が不可欠であると結論付けた。
シェアサイクル事業者の視点からは、国内最大級のシェアサイクルプラットフォーム「ハローサイクリング」を運営するOpenStreetの代表取締役社長CEOである工藤智彰氏が、全国1万4000箇所のポートと550万人の会員ネットワークから得られたリアルタイムの走行データを基に報告を行った。

▲自転車への青切符が始まった4月は、シェアサイクルの利用が大きく落ち込んだ(出所:OpenStreet)
工藤氏のデータによると、制度開始直後の4月の1日あたりの月平均利用回数は、3月対比での増加率が3.5%。前年同期の9.5%や前々年同期の18.8%と比較して利用の伸びが大きく鈍化した。これについて、工藤氏は「青切符制度への理解が進まず、何が違反になるか分からないという不安や、車道を走ることへの恐怖心がユーザーの間に顕在化した可能性がある」と分析。この傾向は自転車レーンの整備が遅れている地方都市や、年齢層が高いユーザーの間で統計的に有意な差となった。「5月中旬以降は利用が急速に持ち直し、先週末には過去最高の利用回数を更新した」と、不安の低減とともに需要が回復している現状を示した。
物流の最前線に立つ立場からは、西濃運輸の安全推進部部長補佐である松原弘典氏がオンラインで参加し、道路上で日々悪戦苦闘するトラックドライバーの生々しい声を代弁した。松原氏は、「配達や集荷のために路肩に路上駐車をする際、運転席のドアを開けた瞬間に、後ろから車道を走ってきた自転車が真後ろの死角から急に現れて衝突しそうになるというヒヤリハットが多発している」と現場の危険な変化を報告した。さらに深刻な事例として、「トラックのドアを避けようとした自転車が、ハンドル操作だけで右側によけた結果、対向車線にはみ出して対向車と衝突しそうになるという、極めて危険な誘発事故の危機も報告されている」と明かした。また、自転車通学が多い通学路では、通学時間帯の走行を物理的に避けるため、配車係とドライバーが連携してルート自体を動的に変更するなどの泥臭い現場対応を徹底していることを説明した。

▲側方の衝突防止警報装置の搭載の義務化が進められているが、運送業で使われているのは義務化未対応の旧型車両(出所:東海クラリオン)
最後に、東海クラリオン取締役営業統括本部本部長の仲田昌弘氏が、この青切符時代において人間の限界を補うための具体的な安全技術とソリューションについて解説した。仲田氏は、大型車両の左側方に存在する広範な物理的死角を示しながら、「国も側方の衝突防止警報装置の搭載を義務化し始めているが、これは新型車両のみが対象であり、車両の耐用年数が長いトラック業界においては、現在路上を走っているトラックのほとんどが未装着のまま取り残されているという大きな盲点がある」と現状の制度的な課題を突いた。
仲田氏は、「ドライバーの目視だけに頼る安全対策には限界がある。自転車の違反を取り締まる青切符制度だけでは事故は減らない。交通ルールの徹底、自治体による自転車専用レーンなどのインフラ整備、そしてAIカメラのような最新の車両安全技術が3つそろって初めて、悲惨な事故を防ぎ、過酷な環境で働くドライバーの精神的プレッシャーを軽減することができる」と語り、人と技術が共存する未来の交通安全のあり方を提示してレクチャーを締めくくった。(土屋悟)
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