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第1回:IEEPA関税違法の衝撃、激変するGSCと「個人商店化」する通関現場の限界

激動する通商環境が突きつける「通関の経営課題化」

2026年3月31日 (火)

話題2026年2月、米国最高裁判所が下したIEEPA(国際緊急経済権限法)による関税措置への違法判決は、日本の荷主企業や通関業者に大きな衝撃を与えた。トランプ政権下での追加関税リスクや日替わりで変わる通商ルールなど、グローバルサプライチェーン(GSC)はかつてない激動の渦中にある。

こうしたマクロ環境の激変に対し、実務を担う通関現場の対応は限界に達しつつある。特に、180日スパンでの制度変更や還付訴訟への備えといった不確実性への対応は、もはや現場レベルの努力で解決できる範疇を超え、企業の存続を左右する「経営リスク」へと変貌している。

▲荷物に関するデータがデジタルで流れていけば業務負荷は減らせるが、現状は紙、PDF、エクセルなどが混在し、転記に多くの時間を割かざるを得ない(出所:NEC)

本特集では全4回にわたり、通関業務デジタル化の必要性をひも解く。第1回となる本稿では、最新のマクロ経済動向を背景に、属人化した現場が抱える限界と、NECが提唱する「物流DX」による解決策の全体像を提示する。

「人手不足」と「知見の空洞化」が招く業務体制のリスク

現在の通関業務を取り巻く環境は、まさに内憂外患の状態にある。輸出入量は増加しているが、通関士の受験者数は減少傾向にあり、従来の労働集約型モデルでは業務負荷に耐えられないことが予測される。

▲通関士試験の受験者数は1998年の1万1639人をピークに2024年には6135人まで減少。合格率は平均14.5%(「通関士試験受験者数及び合格率等の推移」をもとにLOGISTICS TODAYが作成。

NECロジスティクスソリューション統括部でロジスティクス事業開発を担当する石渡竜也主任は、この状況がもたらす最大の経営リスクを「知見の空洞化」だと指摘する。一部の荷主企業は通関実務を3PL(物流会社)に委託しており、自社内に税番(HSコード)判定のノウハウもデータも蓄積されていない実態がある。

▲NACCSによるシステム処理件数及び処理率の推移。輸出入ともに処理件数が大きく伸び、システムによる処理率も全体としては上がっているが、海上貨物のシステム処理はあまりのびていない(出所:財務省 関税局・税関発表情報をもとにNEC作成)

石渡氏は警告する。「荷主企業が、自社で税番にひもづく税率の情報管理ができていない状態では、急激な関税ルールの変更や法規制の強化に対応できない。サプライチェーンの再構築が急務とされるなかで、調達先を変えた際に関税影響がどう変わるかの即時試算すらできないことは、ガバナンスの欠如という致命的なリスクに直結する」

▲NEC通関業務の現場が抱える課題

米国の追加関税、安全保障上のキャッチオール規制、EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)など、税番の正確な特定は企業の利益と法令順守における「生命線」だ。もはや「実務は外注先任せ」で済まされるフェーズは終わったのだ。

転記作業による忙殺と若手が避ける「昔ながらのアナログ現場」

一方、通関業務では、根強く残るアナログな業務慣行が現場を追い詰めている。通関現場では依然として紙やファクス、PDFによる帳票のやり取りが主流であり、それらを手作業でシステムに入力する転記作業で忙殺されることが常態化している。

▲現状の通関業務ではピンクの吹き出しで示した複数の箇所がボトルネックとなっている(出所:NEC)

同部の永瀬祥夏氏は、セールス活動を通じて接する顧客の声としてこう語る。「通関士という高度な専門職が、転記作業などの定型的な事務作業に一定のリソースを割かれ、本来集中すべき専門業務に注力できていない。このアナログな労働環境そのものが、若手人材の離職や採用難を招く要因にもなっている」

また、特定のベテラン担当者が自分専用のエクセルや「個人の勘」で業務を回す「個人商店化」も大きなリスクだ。情報のブラックボックス化は、急な欠勤への対応を不能にするだけでなく、企業としてのガバナンス不全を招く。石渡氏は、「昔から続くこのやり方を脱却しなければ、業界全体の魅力も生産性も向上しない」と断じる。

全体の作業量を「100から2」へ圧縮する圧倒的インパクト

これらの課題に対し、NECは単なるシステムの提供に留まらない、より本質的な変革「物流DX」を提示している。その中核となるメッセージが「『港』の通関から『会社』の通関へ」というビジョンだ。これはデジタル前提の働き方へ転換し、場所や属人的な技能に縛られず通関業務を遂行できる世界を指す。

石渡氏は、NECが提供する3つのソリューション(AI-OCR、関税計算書システム、AI税番判定サポート)を統合的に活用することで得られる衝撃的な数値を提示する。「AI-OCRの導入で入力・チェック工程を10分の1にし、計算システムでさらに効率化を進める。これらの統合自動化を極めれば、従来の作業量を100とした場合、最終的には2〜3程度まで、つまり最大98%もの工数削減が可能になる」

▲NECの物流ソリューションの業務適用イメージ(出所:NEC)

かつて大手フォワーダーや、自動車メーカーでサプライチェーンの実務を担い、現場の泥臭い苦労を知り尽くしている石渡氏は、自身の経験を踏まえて「忖度抜きで、当時このソリューションがあったら、現場の悩みは解消していただろう」と語る。

▲【右から】NECロジスティクスソリューション統括部でロジスティクス事業開発を担当する石渡竜也主任、同永瀬祥夏氏

荷主企業は自社の荷物の税番を把握することで、関税がどのよう変化したかを瞬時に把握し、経営に反映。通関の現場では、定型的な転記作業や計算はAIに任せ、通関士の能力は戦略提案やコンサルティングといった、より付加価値の高い役割へ振り向ける。戦略的なSCMを司る「管理部門」にとっては情報の即時性を、そして「通関現場」にとってはアナログ作業からの解放を。デジタルを用いれば、これら異なる2つの領域を同時に、かつ強力にアップデートする鍵となる。次回以降、この「100を2〜3」に変える3つのソリューションの核心に迫る。