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中部興産、マグロ輸送「荷待ちゼロ」への最短ルート

2026年4月25日 (土)

話題デジタコ(デジタルタコグラフ)は、現在4トン車以上の車両の8割超に搭載されるほど急速に普及が進んでおり、多くの運送事業者の運行管理の要となっている。一般的には現在地の把握や安全運転管理のために活用されるが、運用にあわせてさらに高度な使い方ができる。

▲スーパーマーケットチェーン「バロー」の物流へのtraevo Platformの導入を担当した中部興産物流部課長の安次富(あじとみ)光一氏(右)、導入を担当したtraevoセールスマネージャーの平田誠一氏(左)

中部東海地方を中心に展開するスーパーマーケットチェーン「バロー」の物流子会社である中部興産では、車両動態管理プラットフォーム「traevo Platform」(トラエボ・プラットフォーム)を活用。車両の位置をリアルタイムで確認し、車両管理に活用している。同社ではさらに、同システムの、特定の場所への車両の出入りを監理できる「ジオフェンス機能」を活用し、より高度な車両管理を行い、待機場入場やバース接車の記録や、着地への車両接近の通知などを組み合わせることで、荷待ち荷役時間の短縮などにつなげようとしている。今回は、同社が食品輸送の現場で行った、実証実験の様子を取材した。

▲今回の取材で追跡したトラックに搭載されていたデジタコ。近年、通信式のデジタコが普及しており通常の運用では、ドライバーの入力によって管理者は積み下ろし、休憩、実車などのステータスをリアルタイムで把握することができる

冷凍マグロを追う、四日市から可児への1.5時間

夕刻、三重県四日市市にある食品工場「ダイエンフーズ」。ここから岐阜県可児市の中部興産可児チルド物流センターへ、新鮮な冷凍マグロを運ぶ定期便が出発する。

一見すると、よくある物流の光景だ。しかし、この車両に搭載されたデジタコと連動するtraevo Platformの画面上では、緻密なデータ計測が既に行われている。

traevoセールスマネージャーの平田誠一氏はその立ち位置を「traevo Platformは、自社だけでなく協力会社の車両も、既存のデジタコをそのまま生かして一元管理できる業界横断的なプラットフォーム」と説明する。

▲三重・四日市のダイエンフーズと岐阜の可児チルド物流センター間はおよそ85キロの距離

traevo Platformの最大の特徴は、デジタコの作業記録と地図上に仮想のフェンスを引く「ジオフェンス」機能を統合管理できる点だ。ジオフェンスとは、地図上に設定した仮想の境界線のこと。あらかじめ指定した範囲に車両が出入りすると、システムがそれを自動的に検知し、時刻の記録や通知の発信を行うことができる。

▲ダイエンフーズ

中部興産ではすでにtraevo Platformを導入し、各車両の位置をリアルタイムで管理。法令に沿った記録を取ると同時に、データを活用した業務改善などを進めている。同社はさらに、traevo Platformのジオフェンス機能を使って、より詳細な記録を取るとともに、荷受け拠点との連携強化にも活用を進めようとしている。今回選ばれた、三重県四日市市のダイエンフーズから岐阜県可児市にある中部興産のチルド物流センターへは定期的に冷凍マグロが輸送されている。中部興産では、トラックが可児の拠点の近くまで来たタイミングで荷受けの準備をはじめ、到着してすぐに荷下ろしができる体制を作りたいという意向があった。荷下ろしを効率化することで、拠点での待機時間を削減し、荷下ろし後に近隣拠点を巡回してパレットやカゴ台車などの機材を回収するという運行を組み立てたいという。

今回の取材では、実際にトラックとともに四日市から可児までのルートを伴走。各地点でシステムがどのように機能し、オペレーションが進んでいるのかを追った。

四日市・ダイエンフーズ、荷待ち・荷役の分離記録

まず、トラックは荷受け地であるダイエンフーズの工場に到着。traevo Platform上では、待機場所とバース前にジオフェンスが設定されており、トラックが工場前の路肩に停車すると、「待機場所」への入場が検知される。続いて、積み込みのために「バース」へ移動すると、今度はバースへの接車が記録される。「いつ待機場に入ったのか」「どこで、何分待ったのか」を1メートル、1秒単位でトレースすることで、これまで曖昧だった「荷待ち時間」と「荷役時間」を明確に分離し、エビデンスとして記録することができる。

平田氏は、「位置情報を活用した自動記録は、荷主と運送事業者の間にある『情報の非対称性』を解消し、客観的な事実に基づいたコミュニケーションを可能にする」とジオフェンス活用の意義を強調する。

▲traevo Platformのジオフェンス設定画面(出所:traevo)

▲ダイエンフーズ社屋前の路肩が待機場所となっており、GPS情報を元に入退記録が取れるジオフェンスのエリアが設定されている。任意の車両がこのエリアに入ると、自動的に待機場への入場が記録される

▲バース前にジオフェンスのエリアを設定することで、トラックの接車・出庫を自動で記録することができる

デジタコデータから「作業時間」を自動集計

今回、中部興産が活用を進めているのが、traevoの機能である、「荷待ち・荷役時間集計オプション」だ。

一般的に、デジタコはドライバーが運行や休憩、作業開始などの業務ボタンをその都度押すことで記録を取る。しかし、traevo Platformでは前述のジオフェンス情報を組み合わせることで、ドライバーが操作しなくても、特定の地点への「入・出」を自動的に記録することが可能だ。

「ドライバーに都度操作をさせると、どうしても操作ミスや忘れが発生し、結果として実態に合わないデータが出てしまうことがある。traevo Platformによる自動検知は、ドライバーに余計な業務ストレスや運転中の操作をさせずに正確な記録が取れる点が非常に画期的」(中部興産物流部課長の安次富光一氏)

主要メーカー(矢崎エナジーシステム、トランストロン、データ・テックなど)の機器で取られたデジタコデータがtraevo Platform上で集約され、夜間に自動で集計レポートが生成される。

平田氏は、「主要各社のデジタコとシームレスに連携できるマルチベンダー対応が私たちの強み。新たな車載器への投資なしで、今日からでも全車両の『見える化』を始められる点が、多くの現場で評価されている」と語る。

小牧JCT・多治見ICの通過をメールで通知

車両は四日市を出発し、可児へと向かう。この運行では、道中の「小牧ジャンクション(JCT)」と「多治見インターチェンジ(IC)」がチェックポイント(ジオフェンス設定地点)として設定されている。

▲小牧JCTは可児チルド物流センターからおよそ30分の距離

▲車両が小牧JCTを通過すると即座に管理者にメール通知が送られる

▲traevo Platformの小牧JCTジオフェンス設定画面。ジオフェンスは、「任意の地点から何メートルの範囲」のような設定も可能。中部興産では小牧JCTと多治見ICでこうした設定を行い、通過時には通知のメールが送信される(出所:traevo)

トラックがこれらの地点を通過した瞬間、可児チルド物流センターの担当者には、一通の通知メールが自動発信される。

「小牧JCTを通過しました」

この通知が、着地のオペレーションを劇的に変える。可児チルド物流センターでは、四日市から届く冷凍品を迅速に自動倉庫へ格納しなければならない。そのためには、ほかの作業を一時中断して場所を空け、人員を配置する「受け入れ準備」が必要だ。

▲多治見ICから可児チルド物流センターまではおよそ20分

▲多治見IC通過の通知メール

「センターでは四日市からの冷凍品のために作業員が待機。冷凍の自動倉庫に入れる作業は他の作業をストップさせる必要があるため、これまではわざわざ事務所まで担当者が確認に来ることもあった。今はメール一通で車両がどこまで来ているのかがわかるため、現場が迷いなく準備を始められる」(安次富氏)

▲中部興産可児チルド物流センター

平田氏は、「到着情報の『事前共有』こそが、現場のムダを削ぎ落とす鍵。電話や事務所への往復といったアナログな確認作業をデジタル通知で自動化することで、現場の心理的・肉体的負担を大幅に軽減し、時間を効率的に活用できるようになる」と、通知機能の価値を説く。

可児チルド物流センター、効率化が生んだ「余力」

トラックが可児に到着し、「待機場所」を経て「バース」へ接車する。事前の通知によって準備が整っているため、荷下ろしは極めてスムーズに開始される。この事前の準備によって荷役時間が短縮されたことで、ドライバーには新たな「時間」が生まれた。

▲事前の到着通知により、可児チルド物流センター到着後は待機することなくバースへ接車。荷下ろし完了までわずか30分ほどとスムーズだ

「早く荷下ろしが終わることで、その後の時間を活用して、複数拠点に点在するカゴ台車やパレットなどの資材回収業務にスムーズに移行できるようになった。一分一秒を争う2024年問題への対応において、この回転率の向上は非常に大きな価値を生んでいる」(安次富氏)

「職人の勘」を数値化し、現場の負担を減らす

中部興産が取り組むこの仕組みは、単なる監視ではない。小売物流特有の「難しさ」を解決するための手段だ。

「小売・食品物流は日によって製造量が変動するため、事前に完璧な配送計画を立てるのが非常に難しい分野。同じ商品でも段ボールの形や入り数が変わることもあり、現場は常に職人の勘に頼って配車を調整している。こうした状況を改善し、将来的に機械化や自動化へ繋げるためには、まず現在の動きを数値化し、可視化することが不可欠」(安次富氏)

運用面でも現場への配慮は欠かさない。ドライバーへの負荷を最小限にするため、現在は構内スタッフによる入力やジオフェンスによる自動検知を優先している。

平田氏も、「デジタルの力で現場の『勘』を『確信』に変えていく。traevo Platformはそのための基盤。情報を可視化することで、現場がよりクリエイティブな改善活動に集中できる環境を作れるよう支援したい」と意気込む。

データは現場を「楽」にするためにある

今回の取材で印象的だったのは、デジタル化が決してドライバーを縛るためではなく、現場のコミュニケーションを円滑にし、作業を「楽」にするために機能している点だ。

具体的には、荷主に対して正確なエビデンスを提示することで、長時間滞留の真の原因を分析し、建設的な改善交渉を行うことが可能になった。また、現場スタッフにとっては到着通知の自動化が大きな恩恵をもたらしている。事務所と現場を往復して車両状況を確認するといった無駄な手間が省け、本来の業務に集中できる環境が整った。さらに経営的な視点では、荷役時間の短縮によって車両の回転率が向上し、空いた時間を資材回収などの付加価値業務に充てられるようになるなど、新たなビジネスチャンスの創出にもつながっている。

安次富氏は「難しいチャレンジには労力もお金もかかるが、まずは数値を把握することが改革の第一歩」と語る。

平田氏は最後に「物流2024年問題の本質は、情報の不足。traevo Platformを通じて業界全体がつながり、データが共有されることで、日本の物流はもっと強く、もっと持続可能なものに進化できるはず」と締めくくった。

中部興産とtraevo Platformが示すこのモデルは、日々物量が変動し事前計画が困難な小売物流が直面する、「職人の勘」への依存や情報の非対称性から生じる「荷待ち・荷役時間」といった課題に対する、極めて実践的な回答と言えそうだ。