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APT、逆風のタイでつなげる力を武器に種をまく

2026年4月3日 (金)

話題日本企業の「タイ離れ」が囁かれ、駐在員は減り、中国・韓国勢の圧も増す。その逆風のただ中で、APT(アプト、千葉市美浜区)はタイに種をまき続ける。頼みの綱は、日本で鍛えたサードパーティーの目利きと、現地に根を張る人の力だ。多くの人が「なぜ今、タイなのか」と首を傾げる。そのたびに、「むしろ面白い」と、APTは奮い立つという。

老朽化する「世界の工場」と中国製品の波

タイは長年「世界の工場」として製造業を支えてきた。その歴史の分だけ、倉庫や物流設備も積み重なる。しかし今、その多くが老朽化の岐路に立つ。「10年、15年前から一部では自動化が進んでいました。当時入れた設備が今、リプレイスの時期なのです」と同社執行役員でソリューション営業本部長の栗原勇人氏が現地の状況を説明する。

▲APT執行役員でソリューション営業本部長の栗原勇人氏

さらに近年、中国系メーカーが現地の大企業と組み、マテハン(マテリアルハンドリング)市場に大規模参入している。しかし、その後に課題が浮上しつつある。日本製の機械が修理できない。増設の勘所もつかめない。そんな嘆きが、現場からじわりと上がってきているという。

「日本のメーカーの思想やアーキテクチャーを腹の底から分かっていないと、手の打ちようがないんです」と栗原氏は語る。日本で起きた光景が、タイでも立ち上がりつつある。中国製品が入り込み、品質のほころびが目につき始め、サードパーティーを頼る流れが芽吹いてきた。

「つなげる職人技」が光るタイの現場

APTのタグライン「つなげるインテグレーション」は、飾り文句ではない。メーカーの垣根を越え、ハードもソフトもシステムも、現場の都合で編み直すための「職人技」だ。「マテハン設備とシステムを横断してつなげる会社は、世界的にも多くはないと思います」と栗原氏は語る。

この日本の職人技が、タイの現場で光る。タイの物流現場では、日本の大手メーカー製の設備が数多く稼働している。設備自体の品質は高いが、メーカー間の互換性は低い。拡張や改修には専門知識が必要だ。

「タイではハードが古い一方で、次世代の経営者がDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進めようとするケースが多い。しかし、既存の日本製設備と新しいシステムをどうつなぐかで頭を抱えている。そこにAPTの出番があります」と栗原氏は説明する。

▲3月、APTがタイ・バンコクで開催された「Thailand Industrial Fair(TIF)の「Japan Pavilion」に共同出展した際の様子

例えば、10年前に導入した日本製の自動倉庫に最新のAI(人工知能)やドローンを継ぎ足したい企業がある。だが元のメーカーは取り合わず、中国系も古い仕様の「癖」が読めない。しかし、APTならば日本のメーカー設備の「癖」を知っている。その知見で、異なるメーカーの設備同士をつなげられる。これは40年かけて積んだ「失敗のデータベース」の賜物だ。

「APTは日本で最も、既存設備の課題を聞いてきた会社だと思っています。失敗を数多く知っているからこそ、何がリスクで、どう回避すべきかがわかる」と栗原氏は説明する。タイでも、この「失敗を知る強み」が生きる。新設ではなく、既存設備の延命・改修・拡張。これこそがAPTの独壇場だ。

「逃げない」気質が生む信頼

さらに、APTが日本で培ってきた「逃げない」気質も、タイで効いてくる。「中国系のメーカーは、売ったら姿を消すと言われることがある。トラブルが起きても、サポートに来ない。でもAPTは、現場を止めないことに執着する。それが信頼になる」(栗原氏)

日本で不具合が出たとき、社員が総出で駆けつけ、人の手でピッキングをつないだこともある。この「止めない」意地は、タイでも変わらない。「タイの現場で『APTは最後まで逃げない』と信じてもらえるよう、一件一件、手触りのある実績を積み重ねています」と栗原氏は言う。

▲APT APAC Regional Directorの岡田友宏氏、タイ・バンコクのサシン経営大学院にて開催された、APT主催の物流セミナーにて

APTのタイ事業を現地で支えるのが、同社APAC Regional Directorの岡田友宏氏だ。サシン経営大学院(チュラロンコーン大学のMBA)を自費で修め、ビジネスのタイ語で現地企業の懐に入り込む。「会議の冒頭にタイ語で名乗るだけで、部屋の温度が変わる。岡田さんは学歴と人脈を武器に、通常なら会えない企業のトップとも話ができる。それがタイ事業推進の大きな強みになっています」と栗原氏は語る。

熱しやすく、冷めやすい市場との向き合い方

もちろん、タイは甘くない。「初回は景気よく『やりましょう』と握手するのに、翌週には風のように返事が消えることもある」と栗原氏は苦笑する。決断は速いぶん、熱も冷めやすい。そのテンポの違いを読み違えれば、商談は蜃気楼になる。

さらに、駐在で前線に立つのは物流の専門家より経営企画や製造の人が多く、現地で物流をさばける手が足りない。「そこに外部の出番が生まれる」と栗原氏は話す。そうした土地でAPTが売るのは、「日本品質」という看板だけではない。「それだけでは響かない。柔軟さと、異なるものをつなぐ勘どころを、きちんと伝えることが肝心です」と栗原氏は明言する。

種まきから実りへ、日本と同じ手順で

APTのタイ事業はいま、種をまいて芽を待つ時期だ。現地法人は置かず、パートナーと組み、展示会で顔をつなぎ、大学や財閥系に縁を張る。「いまは、課題が顕在化したときに『APTに頼もう』と思ってもらえるよう、先に面を押さえておく段階」と栗原氏は説明する。

まずはシステム連携や保守といった小さな仕事で信頼を積み、そこから大型案件へつなげていく。日本でやってきたのと同じ手順だ。「やりたいことは山ほどあります。ことし3月にはバンコクで開催した『Thailand Industrial Fair(TIF)』に日系物流会社と共同出展しましたが、今後も展示会には出たいし、セミナーもやりたい。でも、リソースは限定的です。だからこそ、一つ一つの案件を丁寧にこなし、確実に信頼を積み上げていくことが大切だと思っています」と栗原氏は言葉に力を込める。

日本とタイの架け橋として

「タイは『観光地』で終わらせたくない。勝負できる市場として、もっと日本に知ってほしい」と栗原氏は語る。APTは日本の技術と現地の課題が出会う場所として、タイを見ている。栗原氏、岡田氏ともに「APTを通じて、日本とタイの架け橋になりたいと思っています。タイにはまだ、日本へのリスペクトが残っている。その間に、本物の信頼関係を築いていきたい」と口をそろえる。

さらに、タイから日本への「逆輸入」も視野に入れている。「タイで物流管理を学んだ人材を日本に送り、また戻す。そういう国際的な人材育成も、将来的にはやりたいですね」と栗原氏は語る。

APTが日本国内で証明してきた「逃げない」姿勢と「つなげる力」は、国境を越えても変わらない。タイという新たなフィールドで、その物語は今、静かに始まっている。

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