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ダイキン、新最適化戦略が物流本部に迫る視点転換

2026年7月3日 (金)

話題改正物流効率化法で、一定規模以上の特定荷主・特定連鎖化事業者に物流統括管理者(CLO)の選任が義務づけられた。すべての荷主と物流事業者を対象とする努力義務が2025年度から、取扱貨物重量9万トン以上で3200社程度とされる対象へのCLO選任を含む義務が26年度から始まり、多くの企業が新しい肩書をどう機能させるかを探っている。そのなかでダイキン工業は、新たな肩書を設けず、物流を早くから経営の課題として40年以上かけて社内に育ててきた組織を、そのまま事務局に据えた。SCM・物流を担当する村井哲執行役員がCLOを担い、84年発足の物流本部がその実装を支える体制だ。08年から物流本部長を務める生地幹(いくち・みき)氏に、役員CLOと物流本部の役割分担、そして物流子会社を持たない内製の考え方を聞いた。(編集長・赤澤裕介)

決裁は役員、実装は物流本部

ダイキンのCLOは、SCM・物流を担当する村井哲執行役員が務める。特機事業と淀川製作所の所長を兼ね、同製作所内のテクノロジー・イノベーションセンター(TIC)の協創プロジェクトにも加わる村井執行役員は、電子デバイスの開発出身で製造の現場を知る技術畑の人物で、26年6月26日付で常務執行役員に昇進する。経済産業省のCLO取組事例集も、ダイキンについて、需給調整を担うSCM部門を管掌する担当役員が物流統括管理者に就き、物流本部がその事務局を担う専門部隊だと記している。生地氏は、その村井執行役員のもとで実務を率いる。

役員と本部長の線引きは、生地氏の中ではっきりしている。

「通常のオペレーションはほぼ物流本部長が見ているが、それを超えた経営的な判断、他部門との連携や大きな投資が必要な拠点の問題、IT投資、役員会にかけるマターは担当役員の決裁事項だ」

日々の運用は本部長が回し、役員に上がるのは、部門をまたぐ調整や、まとまった投資の判断だ。配送拠点の再編、バースや庫内設備への投資、物流情報システムの刷新といった、一つの部門では決められない案件が役員会のマターになる。社外や業界との連携は本部長が前に立ち、経営者どうしの場面では担当役員が受け持つ。判断を下すのは役員で、本部はその判断のための材料と段取りを整える。決裁の重さは役員に、実装の細部は本部に置く。この分担が日々機能しているかどうかで、CLOを実務として動かせるかどうかが決まる。

役員の肩書には、物流に加えてSCMが付く。生地氏によれば、SCM担当が見るのは製販の調整だ。財務には在庫水準やキャッシュフローを抑えたいという制約があり、販売側には需要変動の読みづらさと、機会損失を避けたいという要請がある。両者はしばしばぶつかるため、調整の機能そのものは、かつてから重んじられてきた。ただ、本格的に部門を越えて在庫を下げ、商品の手に入りやすさを上げる取り組みができてきたかと問われると、生地氏の答えは率直だ。

「部門それぞれの最適解を求めていたきらいもあった」

製造は製造、販売は販売がそれぞれの専門を磨き、ぶつかり合うことで全体が強くなる。長く効いてきたその社風は、裏を返せば、部門ごとの最適に寄りやすい性質も併せ持っていた。全社で在庫とサービスを最適化する力は、これから本格的に問われる。

26年4月のCLO制度の始動で、物流本部の役割は変わった、と生地氏は言う。まず、法的な責任が生じた。

「今までは空調だけやっていてはダメで、会社の建付けとしては全部門横断で見なさいということだった。荷主としての責任を果たすとなると、空調のトラックだけ待機時間が少ないということでは許されない」

空調の物流だけを見ていればよい時代は終わった。淀川製作所に出入りするのは空調の車両に限らず、ほかの事業の搬入出も含めて荷主としての責任の対象になり、その全体の待機時間をCLOのもとで束ねて見る。担当役員を座長に据えた24年問題対策委員会は2年前に設置済みで、物流本部が事務局を務める。各事業部門が委員会に連なって自部門の待機時間の指標と効率化計画を持ち寄り、本部がそれを集計して進み具合を可視化し、役員の判断にかける。待機時間が長い部門や、一部門で解けない課題は、本部が改善の論点に整理し、役員の決裁が要るものとそうでないものを仕分けて上げる。淀川製作所に貨物を出し入れする各部門が同じ物差しで自部門の物流を点検する仕組みに、CLO制度が法的な裏づけを与えた。

さらに直近では、待機時間の管理という入り口を越えて、全社のサプライチェーン改革に踏み込みつつある。需給調整を担うSCM部門と物流本部が一体になり、計画を起点に押し出す供給から、需要と運行の制約を織り込んだ供給へ組み替えていく。

「少なくともそれを見える化して、必要な意思決定者に見えるようにする役割は、ますます出てくる」

判断の材料をそろえ、決める人の前に差し出す。物流本部が作るのは、待機時間の集計、効率化計画の進捗、投資の費用対効果といった、役員が決裁を下すための土台になる資料だ。

「我々は、意思決定を正しくできるための情報や問題提起を出し、CLOの命を受けて、社外や他部門との実務的な調整をやっていく」

役員が経営の判断を引き受け、本部が現場の改善を回し、その間を材料と調整がつなぐ。ダイキンのCLO体制は、この分担の具体性で動いている。

子会社を持たず世界の標準を担う本部


ダイキンが連載の他の企業と分かれるのは、物流子会社を持たない点だ。荷主が物流機能を別会社に切り出す動きは珍しくなく、CLO本人シリーズで取り上げた三菱食品も、24年に全額出資の物流子会社を設けて25年4月に自社の物流事業を移した。ダイキンは、その道を取らなかった。ただ、実運送や倉庫作業のすべてを自前で抱えてはいない。運ぶ実務はパートナー企業と組む。社内に持ち続けてきたのは、物流の企画や標準化、改善を設計し、生産・販売・開発を横断して調整する役割のほうだ。運ぶ実務そのものより、運び方を決める部分を社内に置いてきた。

物流拠点は、できるだけ各地の工場の中に自前で置き、そこから先の地域配送を運送事業者に委ねる。倉庫を自社で構えて運行は外部と組む、自前と委託の組み合わせだ。運ぶ実務は外に出しつつ、拠点と段取りは社内に残してきた。

物流本部は84年に発足した。生地氏が入社したのはその翌年の85年で、物流本部配属の第一期生にあたる。ピーター・ドラッカーが物流を「暗黒大陸」と呼び、物的流通という言葉が広まり始めた時期だった。空調専業で季節の波があるダイキンにとって、配送と在庫の巧拙は、早くから経営の重い部分だった。

「結構やっぱり季節波動があったりして、物流が大事やという認識もあった。先見の明というか」

発足時は、製作所の運輸や営業の運輸に分かれていた物流の機能を、専門の組織として束ねた。手本にしたのは、量を動かす家電業界だ。

「日本の物流を支えていたのは家電メーカーだった。関西なら松下やシャープ、関東なら三菱、日立、東芝。そこに勉強させてもらって追いついていく、家電メーカーのモデルで物流部門を立ち上げた」

空調専業のダイキンは、家電勢の後発として物流の組織を立ち上げた。その早さの背景には、歴代のトップが物流に明るいという事情もある。名誉会長の井上礼之氏は淀川製作所で運輸を統括した経歴を持ち、社長の竹中直文氏もSCM・物流担当役員を務めた。トップが物流に通じた会社だった。

子会社をつくるかどうかは、生地氏の先人の代から続いた論題だったという。生地氏によれば、当時の家電業界ではシャープを除いて物流子会社を持つメーカーが多く、その料金と比べて自前は割高ではないかという声もあった。それでも内製を選んだ理由を、生地氏は二つ挙げる。一つは規模感で、重電や産業機械まで裾野の広い家電業界の物流量に比べ、ダイキンはそこまでの量がなかった。もう一つは、より深いところにある。

「販売からものづくり、物流、我々でいう梱包設計まで、メーカーの機能として社内に持っておかないといけない。別会社にした途端に優先順位が変わったり、外販で収益を上げて自ら成長するという物流子会社の宿命が出てくる。それが本当に正解だろうか」

別の会社にすれば、その会社は自らの損益を背負い、外販で稼ぐ動機を持つ。すると、メーカーの売り方を支えるための物流という発想と、物流そのもので利益を出すという発想が、どこかで競合する。ダイキンが内製にこだわってきたのは、その競合を初めから抱え込まないためでもあった。生地氏は長くこの問いを抱えてきたが、いま、答えは出ている。

「ここに来て、内製でよかったかなと、我々としては思っている」

背景には、空調の売り方がある。空調は工事店と販売店をメーカーと一緒に育てる商いで、営業も補修も技術も、その店を支える一環として動く。製品を届けて終わりにはならず、据え付けから補修まで、息の長い物流を担う。工事店や販売店、最終消費者まで巻き込んで届ける商いでは、物流を別会社に切り出すと、その一体感が損なわれかねない。販売、技術、補修、梱包設計と同じ流れの中に物流を置くこの形が、少なくともダイキンの空調商流には合っていた。物流もその一連の流れの一部だという考え方は初期からあり、内製は、この売り方と表裏にある選択だった。

社内に残したのは、需要、在庫、輸送、施工までを一体で見て、物流の条件を製品設計や製造順に映す機能だ。それを企画部、東・西の業務部、物流技術センターの3部に置く。企画部は全社の物流企画と標準化を担い、東・西の業務部はそれぞれの地域で自社拠点の運営を受け持つ。物流技術センターは、商品の包装開発から、什器や設備の設計、情報システムの設計までを担う。物流の要件を製品づくりの上流へ返す技術の部隊だ。3部のおよその人員配分は、本社の企画が30〜40人、自社拠点の運営が3分の1、物流技術センターが3分の1で、合わせて100人強になる。

海外は売上の8割超を占めるが、それを日本の本部だけで見るわけではない。米州、欧州、中国、アジアとASEAN、インドにそれぞれ物流の統括部隊があり、日本の物流本部は方針や標準、ツールを連携して各地域へ展開するマザーの機能を受け持つ。100人強の本部が世界の標準を握り、現場の運営は各地域に委ね、方針と標準、ツールだけを日本から配る。少人数で広い海外ネットワークを動かすこの形は、実運送を外に出しても、企画と標準化の機能を社内に残してきたからこそ成り立つ。生地氏は、その到達点を誇示しない。「どこまでできているかは課題が多い」。

着荷主としての取り組みは、別の課題として残る。サプライヤーが関西に集まり、必要な部品をジャストインタイムで届けてもらえる時代が長く続いてきたが、それが調達の海外化で変わりつつある。

「サプライヤーも海外に出て、日本の調達メーカーも海外からものを引っ張ってこられる。個別にジャストインタイムを続けるのが適切かは、今は課題として持っている」

物流本部が担うのは完成品の販売物流が中心で、調達物流のうち日本発着の輸出入や海上運賃の交渉は本部、構内への搬入は製造や調達の部門が受け持つ。CLO制度が課す荷主としての責任は、出荷する発荷主の立場だけでなく、部品を受け取る着荷主の立場にも及ぶ。この線引きも、法改正を機に、協業の範囲を広げる方向で議論が始まっている。

生地氏が繰り返し置く要点は、誰を選ぶかよりも、職能を社内に確立できるかにある。CLOには営業系でも製造系でも、物流系でも誰が就いてもよい。第1回に登場した日清食品の深井雅裕CLOも同じ趣旨を述べていた。要るのは、その人を支える職能を社内に根づかせることだ。

「これからの製造や流通の企業にとって、ロジスティクスやサプライチェーンの専門の職能を、経理や人事が当たり前にあるのと同じように、人づくりを含めてしっかり機能させていくことが必須だ」

経理や人事と同じように、ロジスティクスを一つの職能として社内に置く。誰がCLOになろうと、それを支えるスタッフ部門を抱え、その職能を担う人を育て続ける。物流の文化を長く社内に蓄えてきた会社ほど、この形は成熟して働く。ダイキンでは、84年から続く横串の機能が、いまCLO制度の事務局を担っている。40年超の蓄積が、役員CLOを実務で支える土台になっている。

(後編に続く)

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