
話題ダイキン工業は、来訪した同業が驚くほどトラックに積み込み、運賃を単価当たりの細かい単位で管理するほど、満載率を極限まで追ってきた会社だ。空調機は大型で形もそろいにくいため、1台にどれだけ積めるかが物流費を左右する。長く満載率を磨いてきたダイキンにとって、パレット化で積載率をいったん落とす判断は、単なる作業改善で済む話ではなかった。それでも同社は6-7年前にこの方式へ切り替え、落とした分を包装や製品設計、製造順、データ、復路の活用で取り戻してきた。その取り組みは、施工の支援や回収の物流にまで広がっている。物流本部長の生地幹氏に、その決断と組み直しを聞いた。(編集長・赤澤裕介)
荷役2時間を30分台に縮めたパレット化
ダイキンは長く、トラックの満載を磨いてきた。同業が来て驚くほど積み、運賃を細かい単位で管理する運用を、6-7年前まで続けてきた。1台にどれだけ積めるかが物流費を左右するなかで、積載率は、長年かけて磨き上げた中核の指標だった。
だが、積み方を突き詰めるほど、現場は重くなった。パレットを使わず1台ずつ手で積めば積載率は上がるが、1便あたり2時間前後を要する積み降ろしも珍しくなく、荷役が長引けばドライバーの待機と拘束の時間が延びてトラックの回転は落ちる。人手不足で運送会社の余力は細り、長時間の荷役を伴う仕事は敬遠されるようになっていた。積載率を追えば追うほど運んでくれる相手の負担が増す矛盾が、2024年問題が表に出るより前から、現場で限界に近づいていた。

「もう運べないというところまで来ていた」
生地氏は、運送会社と現場の負荷が限界に届いていたと振り返る。積載率だけを追う運用では、運んでくれる相手そのものを失いかねない。輸送力を保つため、ダイキンは積載率を一度下げる判断をした。
そこでパレットに積んだまま運ぶユニット化に動いた。積み替えをやめれば、トラックの空間には隙ができる。
「当然、積載率は大分落ちた」
積載率が落ちることは分かったうえで、荷役の時間とドライバーの負荷を下げる方を選んだ。経済産業省のCLO取組事例集によると、ダイキンの幹線輸送では、パレット化で2時間ほどかかっていたバラ積みの荷役が30-40分、レーンによっては20分に縮んだ。積み込みと荷降ろしが速くなればトラックの回転は上がってドライバーの拘束は短くなり、運送事業者の稼働が安定すれば車両の確保もしやすくなる。数字で見えやすい満載率を下げ、荷役時間の短縮とドライバーの負荷軽減を優先した決断だった。
荷役時間を短くした後、ダイキンは落ちた積載率を戻す手段にも手を入れた。荷役が速くなった分、これまで空車で帰っていた便に別の荷主の貨物を載せ、往復で動かす。バース予約の組み方も見直し、配送センターで荷を揃えれば、あとは運送事業者の仕事という押し出し型だった段取りを、車両側の都合から組み直した。
「我々の都合よりも、トラック事業者がどの時間に積むのが一番いいかを反映した上で、庫内のプロセスを組んでいこう」
ドライバーの運行効率と労働時間の制約を、倉庫側の段取りに織り込む。荷主の都合で組んだ作業に車両を合わせるのをやめ、車両が動きやすい時間に倉庫を合わせる。こうした復路の活用や混載の積み重ねを、生地氏は、企業や業種を越えて輸送能力を融通し合うフィジカルインターネットの考え方に近いとみる。「非常に親近感がある」と語る。
ただ、ここに至るまでには物流費の上昇と工程の変更が伴った。満載率を落とせば物流費は一度上がり、その増加分を、復路の活用や混載、設計の見直しで補っていく。生地氏は、全体最適は容易ではないと繰り返す。
「言うは易しで、一旦は何かが犠牲になる。じゃあ次に、その犠牲になったところをどうカバーしようかと知恵を出せば、また道は開けてくる」
満載率を落とす決断は、組み直しの出発点だった。落ちた効率をどこで取り戻すかという問いが、取り組みを製品設計や製造順、共同物流へと広げていく。
数ミリの設計要求と施工支援への拡張

落ちた積載効率を取り戻すもう一つの取り組みが、製品の設計まで踏み込む連携だ。まず見直したのはパレットそのものだ。倉庫での保管を前提にした空調機固有のサイズから、トラックに積むときの空間効率を基準にしたサイズへ改める。物流技術センターのエンジニアが、形の異なる機種をどのサイズなら最も効率よく積めるか、トラックの寸法に合わせて計算した。経産省の事例集によると、パレット仕様を1400×1100ミリから1300×1100ミリに統一した結果、車両1台あたりの積載量は24パレットから28パレットに増えた。経産省は、ダイキンの物流本部がCLOを専門的見地から補佐し、幹線便のパレット輸送化で荷役時間を縮め、パレット仕様の統一で積載量を引き上げたと記している。標準のパレットを変えるだけで、1台に4パレット分の余地が生まれた計算だ。
物流本部は、製品と包装と荷台の寸法を一つの計算に収めて、落ちた積載効率を取り戻した。連携は、製品や包装の外形寸法にまで及ぶ。
「商品開発の段階で、この機種はあと何ミリ縮めてくれと、個別に開発部門に投げた」
1台で見れば数ミリの差だ。だが、その数ミリがパレット上では列数を決め、トラック1台では積載できる個数を変える。積載個数が変われば、運ぶ台数、荷役の回数、保管の面積、輸送費にまで波及する。だから物流本部は、製品ができあがってから運び方を考えるのをやめ、製品ができる前の開発の段階に入る。製品設計の段階に、物流の条件を織り込む取り組みだ。
生地氏は、物流側の要求を開発や製造への押しつけとは見ていない。ダイキンのものづくりは多品種少量で、同じラインに多くの機種が混ざって流れる。物流の工程では、その多種の商品を仕分け、いったん退避させる手間が生じる。
「それをさばくのが物流の仕事だというメンタリティでやってきたが、限界に来ていた」
仕分けと退避を物流側で吸収するのが長く当たり前だったが、多品種化が進むほど、その現場は回らなくなる。そこで物流側から製造へ注文を出した。
「同じ日に十台作るなら、固めて作れないか。形の同じものをできるだけ一緒に作ってくれないか」
生産にはラインバランスと平準化の制約があり、簡単には応じられない注文だ。同じ形を固めて作れば、生産計画の自由は狭まる。それでも製造は生産技術で応えた。一部を機械化し、モジュール化して、平準化を保ちながら物流の要件も満たすものづくりに近づけた。物流の要求を上流へどう伝え、技術でどう解くか。
「これこそ本当の生販物連携だな、と感じた」
生販物連携という言葉は、社内で長く語られてきた。だが、物流の要件を製造順や設備にまで反映させたとき、生地氏はそれが言葉どおりに動いた手応えを得た。
機種が増え、サイズもまちまちな領域では、人の経験だけで積み合わせを解くことが難しくなる。ダイキンは淀川製作所のテクノロジー・イノベーションセンター(TIC)で社内育成したデータサイエンティストに、その組み合わせのシミュレーションをやらせている。今後はこれを在庫の置き場所や在庫量の設定にも広げる。在庫は川下に滞留しやすく、計画の精度を上げても自然には下がらない。先の見込みを立て、それに合わせてものづくりと在庫を構える計画押し出し型から、需要と在庫、製造順、配送条件を同期させる引き取り型へ組み替える。
「プロセス自体のリードタイムとフレキシビリティを上げる、サプライチェーンの教科書通りのことを、もう一遍やっていく」
トヨタの言葉でいう、人の知恵を内に持った自働化だ。過剰な在庫を抑え、足りないものはすぐに供給する。その仕組みを、調達から製造、物流、販売までが一体でつくり直す。
荷主どうしの共同物流も、この延長にある。その一例がサントリーとの東西の往復輸送で、西に工場があり関東へ運ぶ貨物が多いダイキンと、関東で作り関西へ来る荷物が多いサントリーとで、東西のバランスがかみ合った。ただ、それを成り立たせるには時刻のすり合わせが要る。
「往復運行なので毎日定時で出す。そこまでコミットメントするという機運が、24年問題で醸成された」

▲ダイキンとサントリーホールディングスによる共同往復輸送を実施。輸送の一部を鴻池運輸のダブル連結トラックで行う(出所:ダイキン工業)
発着の時刻を細かく合わせ、定時の往復を約束し合う。そこに物流事業者が仲介役として入った。両社は24年にこの取り組みを始め、24年問題への対応として定着させた。26年5月には新ルートへ広げ、輸送の一部を、鴻池運輸が運行するダブル連結トラックに切り替える。これにより、年間でトラック250台前後、CO2排出量を140トン前後削減する見通しだ。生地氏は、こうした連携が他の荷主や物流事業者にも広がることを望む。
「会社が立ち上げた考え方は、いろんな物流事業者が受け継いでやっていく。我々もそういうところに積極的に乗っていきたい」
いま生地氏が向き合うのは、需要の前倒しだ。空調業界の27年問題では、トップランナー制度により、壁掛形の家庭用エアコンが27年度から新しい省エネ基準の対象になる。メーカーが出荷する製品全体の平均で基準達成を求める仕組みのため、いま使っている製品をすぐ買い替える必要はなく、資源エネルギー庁も、27年度以降に基準を満たさない製品の製造や出荷を禁じるものではないと説明している。それでも、低価格帯モデルの絞り込みや本体価格の上昇への懸念が広がり、施行を前にした買い替えの前倒しへの関心が高まっている。
「想定はしていたが、それを上回る需要の前倒しが来ている。供給をいかに仕切るかが勝負どころだ」
需要が前に動いたとき、影響を受けるのは生産と配送、そして据え付けの現場だ。生産は増産と平準化の両立を迫られ、配送は繁忙が前倒しになる。そしてもう一つ、施工という制約が表に出た。商品を供給できても、据え付けが追いつかなければ顧客には届かない。据え付けは従来メーカーが直接担う領域の外にあったが、生地氏は、そこへ物流から踏み込む構想を語る。
「据付工事店がやられている、運んだり、商品を準備したり、廃材を処理したりする部分を、なんとかロジ側で代行することで、キャパシティを上げる支援ができないか」
ここでいうロジは、据え付けそのものを指さない。現場近くの小運搬、据え付けに使う部材の準備、外した古い機器の廃材回収といった周辺の工程のことだ。据付工事店が抱えるその周辺作業を物流側で受ければ、職人は据え付けそのものに集中できる。運ぶ仕事の前後に広がる工程を物流が引き受け、供給の制約を施工の側からも解く。物流本部が担う範囲は、製品を届けた先の現場にまで広がろうとしている。
施工の周辺作業まで物流で見る発想は、海外の供給網や回収の物流の設計にも重なる。製品を出す流れに加え、部品、在庫、施工、回収までを同じネットワークの中で扱うからだ。
海外が売上の8割を占め、コロナ禍で国際物流の混乱をまともに受けたダイキンが打った手は、地産地消と分散だった。中核となる部品を長い距離をかけて運ぶことを避け、一極集中をやめて各地に分けて作る。物流としては船社やフォワーダーのノミネーションを分散してバックアップを確保し、どのコンテナがいまどういう状態で、どれくらいの確率で港に着き、どれくらい滞留しているかを日本で集中的に把握して現地へ返す監視にも取り組む。国内で確立した生販物連携やパレット化の考え方も、海外のリージョンへ順に移していく。
環境への取り組みも、この全体最適と同じ向きにあるという。
「物流の効率化は、地球環境の改善とまさに正の相関をしている。物流の無駄を省くことが、エネルギー消費や環境負荷の低減に直結する」
鉄道へのモーダルシフトはすでに長距離で比率が高く、国内の海上輸送も併せて使う。梱包の省資源化も進める。空調メーカー固有の論点が、冷媒の輸送と回収、そして廃材の循環だ。業務用エアコンの圧縮機からレアアース磁石を回収・再利用する国内初の循環の仕組みづくりに向け、ダイキンは信越化学工業、日立製作所、東京エコリサイクルと協創を始めた。4社は自動化の装置を26年中に開発し、27年から本格稼働する見通しだ。戻りの貨物をどう運ぶかという静脈物流の設計が、これからの論点になる。
「スキームが決まってくれば、どの拠点を使うか、戻りの流れも考えたネットワーク設計にする。逆にその貨物を使うことで運行効率が上がるオポチュニティでもある」
回収した品物を、空いている復路に積めば、運行の効率を上げる荷物にもなる。満載率を下げてから復路を活用してきた取り組みが、ここにも続く。物流に関わるCO2の算定も、26年から日本でITによる把握を始めた。手作業では追いつかない。「技術的なスキルセットで確立して、世界展開するのがマザーの役割だ」
こうした動きを束ねるのが、26年度に始まった5カ年の戦略経営計画FUSION30だ。稼ぐ力の再強化に、環境価値とグローバル成長を重ねる。そのもとで物流は、コストを削る部門から、供給力、施工力、在庫効率、CO2削減をつなぐ経営の機能へと位置づけが変わる。物流を早くから経営に組み込んできたダイキンは、いま積み上げた手法を組み直す局面にある。FUSION30というビジョンと、40年かけて社内に育ててきた物流の機能が、その組み直しを支えている。取材の終盤、やることが山積していると案じる問いに、生地氏はこう答えた。物流に対して政府が本腰を入れ、法律を変え、業界を挙げて取り組む。
「これは僕はすごいことだと思っている。これまでなかった」
物流の労働人口がもたないという背景に、技術で応える。それができれば、そのモデル自体が日本の競争力になる。待機時間の削減や物流効率の向上は、分かりやすい目安だ。だが、それで終わりにする気は生地氏にはない。
「それをクリアしたら終わりということでは全くない」
ダイキンはパレット化で荷役時間を縮め、パレット仕様の統一で積載量を戻した。製品や包装の寸法、製造順、在庫の配置、そして施工の周辺作業にも、物流の条件を織り込む。26年からは国内物流のCO2算定をITで始め、回収品の戻り物流もネットワーク設計の対象に加える。
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