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適正原価の実効性問う、日昇会で政官民議論

2026年8月25日 (火)

行政・団体運送業の今後を考える有志の会「日昇会」は25日、第6回勉強会を開催した。

今回の第6回勉強会には、政治・行政・事業者のキーパーソンが一堂に会した。政治側からは代表を務める自民党の朝日健太郎参議院議員をはじめ、国定勇人衆議院議員、古井としき衆議院議員、大西容平衆議院議員、小谷参議院議員、清水雅仁参議院議員ら多数の国会議員や秘書が出席。行政側からは国土交通省(物流・自動車局物流政策課、貨物流通事業課)、経済産業省(商務・サービスグループ物流企画室)、農林水産省(食品流通課物流生産性向上推進室)、厚生労働省(労働基準局)、デジタル庁が出席した。さらに、セメント、食品・医薬品、精密機械、冷凍食品、住宅建材など全国各地で多様な貨物を扱う有志のトラック運送事業者15社が対面およびオンラインで参加し、現場の生の課題意識を投げかけた。

開会にあたり、自由民主党の朝日健太郎参議院議員があいさつに立った。朝日議員は、自民党青年局時代にトラック協会青年部との意見交換を起点として発足した同会が約8年におよぶ歴史を重ねてきたことに触れ、「2024年問題をはじめ、日本の運送業が歴史的な転換点を迎える中、全国から積極的な提案が寄せられている。政治側としても皆様の熱意に応えられるよう汗をかき、都市部から地方、長距離輸送まで目配りをして業界全体の発展に寄与したい」と意気込みを語った。

▲自由民主党の朝日健太郎参議院議員

続いて事務局からは、若手物流人材の学びと成長の場として活動してきた足跡を振り返りつつ、今回の議題である「適正原価制度の実務運用」「公平な競争環境の構築」「荷主の意識改革・CLO」「デジタル化(DX)推進」といった主要テーマの導入が行われた。現場の切実な声を行政や政治の政策提言へと言語化・可視化していく重要性が改めて提示された。

意見交換の場では、制度の理想と現場のリアルの間で生じる課題について、事業者から具体的な意見が相次いだ。
貨物以外に貸切バスやタクシーなどの旅客事業も手掛ける事業者からは、先行して制度整備が進んだ旅客分野の事例を引き合いに、慎重な価格設定を求める声が上がった。「過去に貸切バスで安全確保のための最低運賃が定められた際、都市部はやりやすくなった一方で過疎地域では厳しくなり、中学校の野球部などの送迎でバス利用が見送られ、代替の移動手段で痛ましい事故が起きた事例も報道されていた。運送会社として最低ラインが定められること自体はありがたいが、その価格が高すぎても低すぎても現場は非常に困る。裏返した時の難しさも含め、制度設計には大変慎重な議論をお願いしたい」と述べ、現実的かつ細やかな制度設計を訴えた。

また、寒冷地で事業を展開する新潟県の事業者からは、地域特有の経費負担が標準的な原価計算から置き去りにされている現状が指摘された。「毎年スタッドレスタイヤの装着費や除雪費用、雪道による遅延など、都心部では発生しない雪国特有のコストが非常に大きく重くのしかかっている。しかし現状の標準的な運賃体系ではこうした負担が反映されておらず、荷主側の認識も薄い。東海地方などから来られる事業者には冬季割増を支払う荷主もいるようだが、当社の取引先にはそうした慣行がない。シーズンサーチャージや冬季割増といった別定義の仕組みを検討し、冬場の現場を支えてほしい」と訴えた。

▲日昇会の事務局を務めたアセンド社長の日下瑞貴氏

さらに、特定事業者に選定された九州の事業者からは、制度の公平性やDXの進め方について厳しい指摘があった。「特定事業者に選ばれると計画策定や報告に多大な工数と管理コストがかかるが、選ばれなかった企業にはその負担がない。これでは不公平感がある。やるべき取り組みなら一部だけでなく、全員が同じゲームのルールで戦うべきだ」と述べた。またDXについても、「行政から勧められてシステム投資を行っても、相手(荷主)が入れてくれなければ機能しない。後から国の規格変更などで『ゲームチェンジ』が起き、これまで投資したお金が無駄になってしまうのが一番怖い。国としてEDIやフィジカルインターネットの標準化の方向性を早期かつ積極的に示してほしい」と語り、ルール順守に取り組む事業者がかえって負担を背負う構造や、将来的な国のロードマップの不透明さに対する強い懸念を表明した。

運送事業者からは、業界の健全化に向けた法整備を評価する声が多かった一方、「正直者が馬鹿を見ることにならないのか」「地域によっては車両の手配が難しかったり、どうしても長距離運行が必要な場合もあるので、下請の段数制限やドライバーの残業時間制限には特例を認めるなどの措置も必要では無いか」との要望も出された。

これらの現場の声を受け、適正原価に関する有識者検討会の事務局を担う国土交通省物流・自動車局貨物流通事業課長の指田徹氏が回答した。

▲国土交通省物流・自動車局貨物流通事業課長の指田徹氏

指田氏はまず、2024年7月17日より立ち上げた「適正原価有識者検討会」で具体化に向けた論点整理に着手している状況を報告した。その上で、適正原価の水準について「安全投資や人件費についてしっかり投資がされる適正な水準であって、そこから離れてしまうと事業運営に支障が生じるラインを想定している」と提示。標準的運賃の廃止に伴い、ボトムラインだけでなく企業努力が報われる「モデル運賃の提示」を検討していることや、原価を可視化・共有するオープンブック方式の精査を進めている旨を説明した。

また、燃料費や車両価格などのコスト上昇への対応については「原材料費などのコストアップをタイムリーに見られるような制度設計にしていきたい」と語り、適用期間としても「例えば1年間という期間を見て、その中で適正原価を下回らないような運用ルールを検討中である」と明かした。事業者の原価計算を支援するITインフラ整備の構想にも触れた。

旅客の事例や特定事業者の負担感、運用に対する懸念に対しては、「制度を決めるだけでなく、その運用をしっかり厳格にやるべきだというご意見は非常に重要。中途半端にしてしまうといけないという点を肝に銘じ、厳格な運用を考えていきたい」と応答。最後に「この制度の成否はトラック事業者の声だけでなく、さまざまなジャンルの荷主企業や他業界の声もしっかり聞き、納得感と実効性の高い制度にできるかにかかっている」と強調し、幅広く現場の声を反映させていく姿勢を示した。

政治側から総括的なコメントに立った自由民主党の国定勇人衆議院議員(新潟2区)は、他省庁における類似制度の先行事例を引き合いに、適正原価運用の難しさと意義について語った。

▲自由民主党の国定勇人衆議院議員

国定議員は、2024年4月に施行された食料システム法に触れ、「食料システム法により新潟県の一般コシヒカリの適正原価は60キロあたりおよそ2万500円と試算されたが、直近で提示された概算金は1万8500円にとどまり、スタート時点で2000円の赤字を宣告される形となった」と紹介。適正原価を数値として算出・適用することの難しさを浮き彫りにした。

一方で、「原価が見える化されたことで、農家が『自分たちの標準原価はこれだけかかっているのに、なぜ安く買いたたかれるのか』と取引相手に主張できる重要な政策ツール(交渉の根拠)になったことも事実だ」と評価した。

また、自身が関わった国土交通部会での審議において、中継輸送拠点整備法案を巡って議論が紛糾した事例を紹介。「法案の意図と、現場が抱いた『過度な規制や足かせになるのではないか』という懸念との間に大きな乖離があった。本日の適正原価や働き方改革を巡る議論も同様で、根本には行政と業界との双方向のコミュニケーション不足による摩擦がある」と分析。「平成二法改正以来30年間積み残してきた構造的課題に対し、現場の声を真摯に受け止め、確実に実行できる取り組みから一歩ずつ積み上げていきたい」と訴えた。

勉強会ではこのほか、CLO(物流統括管理者)による中長期計画の策定プロセスに実運送事業者を参加させる仕組みや、不適格事業者の淘汰に向けた許可更新制の厳格な運用などについても意見が交わされた。第7回勉強会に向け、政策提言の取りまとめを進める方針を確認して閉会した。

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