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昭和から積み残し続けた物流課題の早期解決を

2026年10月1日 (木)

ロジスティクス東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催中の「物流DX EXPO 2026 夏 東京」は会期2日目を迎え、特別企画「物流DX未来会議2026 AFTER ACTION IN TOKYO」が行われた。その中で、流通経済大学流通情報学部教授で物流科学研究所長の矢野裕児氏が登壇し、LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長がモデレーターを務めるセッション「総合物流施策大綱から読み解く、これからのサプライチェーン変革」が開催された。

同セッションでは、長年物流政策の策定に関わってきた矢野氏が、過去数十年にわたる物流業界の構造的な課題を振り返りつつ、現在政府内で議論が進む「適正原価制度」の実効性や、発荷主・着荷主の双方を巻き込んだサプライチェーン全体の変革について議論された。

セッションの冒頭、矢野氏は1990年代から共同物流や標準化の重要性が叫ばれながらも、その多くが実証実験止まりで社会実装に至らなかった歴史を振り返った。「過去の商慣行や成功体験を引きずった『昭和の物流』から脱却し、令和の時代に即した持続可能な物流構造へと本格的に転換しなければならない」と強く訴えた。

▲流通経済大学流通情報学部教授で物流科学研究所長の矢野裕児氏

これを受け、赤澤編集長も「何十年にもわたって議論されながら、抜本的な解決に至らず停滞し続けている課題があまりにも多すぎるのではないか」と応じ、業界に根深く残る構造問題にメスを入れた。

矢野氏は、物流改革が「総論賛成」でありながら個別具体的な各論で利害対立が生じて頓挫してきた主因として、「物流実態の定量化の遅れ」を挙げた。「自部門の中で『現場が逼迫しているから頑張ろう』と精神論で乗り切ろうとしても、他部門や取引先を動かすことはできない。課題の深刻さや改善施策の投資対効果を定量的なデータで示さなければ、真の理解や合意は得られない」と述べ、荷主と物流事業者が共通のデータに基づいて対話することの不可欠さを説いた。
さらに議論は、物流業務を一括受託する3PLの歪みにも及んだ。赤澤編集長は、「荷主企業が業務を丸ごと3PLへ委託した結果、自社の物流実態が見えなくなり、自ら『物流はブラックボックス(暗黒大陸)だ』と嘆く本末転倒な事態が生じている」と現状の危うさを指摘。

これに対し矢野氏も、「単価の安さだけを基準に短期契約を繰り返すような委託のあり方は、荷主と事業者が中長期でパートナーシップを結び、業務改善を共創するという本来の3PLの理念から乖離している」と同調した。

▲LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長

加えて、元請け事業者が実運送を切り離し、荷主からの依頼を無理に受託してから下請けへ手配する多重下請け構造についても言及。「現在では首都圏をはじめ、下請け側から『これ以上の引き受けは物理的に不可能だ』と断られ、元請けも荷主に対して『対応できない』と明確に通告せざるを得ない局面が急速に増えている」と述べ、無理な受託構造が限界を迎えている現実を浮き彫りにした。

セッション中盤の焦点となったのは、政府内で年内の基本方針取りまとめに向けて議論が白熱している「適正原価制度」だ。同制度は、トラック運送事業の持続可能性を担保するため、法令順守や安全運行に必要な適正コスト(原価)を国が示し、それを下回る不当な運賃設定を防ぐ仕組みを目指している。

矢野氏によれば、最大の争点は「複雑多岐にわたる物流現場のコストを、どこまで精緻に制度へ織り込めるか」という点にある。「運ぶ貨物の特性や車両形状の違い、付帯業務の有無、地域ごとの走行環境、さらには人件費や燃料費の高騰など、物流コストは極めて多様だ。それらを細分化して示そうとすれば運用が極端に困難になり、逆に一律の基準で大括りにまとめれば、実態と乖離して形骸化を招く」と、制度設計の難度を吐露した。

また、事業者の許認可を定期的に見直し、適正原価を下回る運賃で取引を行う事業者の更新を認めないとする「許可更新制度」の導入構想についても議論が展開された。矢野氏は「制度として掲げたとしても、実際の運用面で低運賃取引を理由に不更新とする厳格な措置が取れるのか、実効性の面では慎重に見極める必要がある」との見解を示した。

さらに赤澤編集長は、独自に車両改造や積載率向上を図り、利益率を向上させてきた実運送会社の声を取り上げ、「自助努力を重ねてきた事業者がいる一方で、効率化を怠ってきた事業者まで制度によって一律に運賃が引き上げられるとすれば、業界全体の競争力を削ぎ、物流の衰退を招きかねない」という懸念を提起した。

矢野氏もこれに強く同意し、「努力をしていない事業者にまで無条件で利益が保証されるような構造は健全ではない。積載効率の向上や付加価値の創出に努めた事業者が正当に報われ、その成果が運賃へ反映されるインセンティブの仕組みが不可欠だ」と強調した。

その上で矢野氏は、制度の成否は単なる数値の当てはめではなく、「運賃や付帯作業の対価について、荷主と物流事業者が同じテーブルにつき、論理的な根拠をもって議論し合意形成できるプラットフォームとして機能するかどうかにかかっている」と総括した。

現在進行中の物流制度改革の大きな特徴として、矢野氏は「運賃負担者である発荷主だけでなく、着荷主をいかに巻き込めるかが決定的な分岐点になる」と指摘した。

トラックドライバーの長時間労働の元凶とされる「荷待ち」や「長時間の荷役作業」の多くは、荷受人である着荷主の物流拠点や店舗で発生している。しかし、運送会社と着荷主の間には直接の契約関係がないケースが多く、運送現場の改善要求が届きにくいという長年の構造的欠陥があった。

この点について矢野氏は、「物流全体の最適化」を図る上で「トレードオフの受容」が避けられないと説く。「『全体最適』という言葉は全員にとって利益があるように聞こえがちだが、現実の改善には必ず痛みが伴う。例えば、荷台上で貨物を引き渡す『車上渡し』を徹底すれば、ドライバーの荷役負担は軽減されるが、荷降ろしを担当する着荷主側の現場負荷は増大する。一方に生じる負荷を双方がどう分担し、サプライチェーン全体として持続可能な状態へ着地させるかが重要だ」と論じた。

近年では、加工食品業界における納品リードタイムの延長(発注翌日納品から翌々日納品へのシフト)による運行の平準化や、製造業における荷役分離の見直しなど、かつて「商慣行上不可能」とされていた領域でも前向きな協議が始まっている。発荷主と着荷主が共通の課題意識を持って対話する場が定着しつつあること自体を、矢野氏は大きな前進として評価した。

セッションの締めくくりとして、地政学リスクや感染症、燃料価格の乱高下など、サプライチェーンの平時が失われつつある現代における物流戦略が議論された。

矢野氏は、「物流を単なる『コスト削減の対象』と捉える発想はもはや通用しない」と断言。「不測の事態においてもモノが届き続ける『安定供給の維持』こそが最上位の経営指標となる。そのためには、従来の在庫管理や調達のあり方を根本から見直し、事業継続計画(BCP)の観点から冗長性や多重性を備えた物流ネットワークを再構築しなければならない」と警鐘を鳴らした。

赤澤編集長が、荷主企業(特に着荷主側)を起点とした共同配送やデータ連携の可能性に触れると、矢野氏も「現状は小売各社や流通拠点がそれぞれ独自の仕様や受け入れルールを乱立させており、それが運送現場の非効率を加速させている。業界の垣根を越えた共通プラットフォームの構築を進め、物流の持続可能性を起点に商流の仕組みを最適化し直すことが急務である」と応じ、セッションを締めくくった。

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