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「海運立国・日本発の画期的ツール」試験運用、18年から導入

日本郵船、紙海図並みに手書き容易な電子海図共同開発

2017年5月17日 (水)
空白▲記者会見する日本郵船の小山智之常務経営委員(左)と日本無線の大沼賢祐取締役執行役員

サービス・商品日本郵船は17日、日本無線と共同で次世代運航支援システム「J-MARINE NeCST」(Jマリン・ネクスト)を開発したと発表した。電子化した海図をクラウドによって乗組員、陸上の会社側が情報を共有する仕組みで、日本郵船が各国の船長の要望をまとめ、日本無線に開発を要請して作り上げた。

国際航海に従事する500トン以上の旅客船と3,000トン以上の貨物船は、2018年までに電子海図情報表示装置(ECDIS、エクディス)の搭載が義務付けられているが、従来の紙海図と異なり、電子海図には航海関連情報を手書き入力することができず、利便性の低さが課題となっていた。

▲システムの概要を説明する日本郵船側の担当者(左下は従来の紙海図)

また船舶はトラックなどの陸上の交通と比べて使用期間が長く、20年以上使い続ける例も少なくない。技術的には陸上より遅れがちで、通信回線も陸上が「ギガビット」(Gbps)単位の情報量となっているのに対し、「メガビット」(Mbps)となっているため、「前時代的」(日本郵船)な機器を使用しているのが実情だった。

J-Marine NeCSTは手書き入力機能によってこの課題を解消するとともに、気象・海象予測システムなどと連携し、航海計画立案の効率化と最適化を実現。情報を船舶間や船陸間で素早く正確に共有・集積できることから、ECDIS単体で運用している現在と比べ「飛躍的な拡張」が期待できるという。

▲飛鳥IIのデッキに設置されたJ-Marine NeCSTの実機

日本郵船の小山智之常務経営委員は、船舶運航の情報化について「ようやく紙の海図がなくなってきたが、船長・航海士は手で海図を指差し、書き込みながら指示したいというニーズがあるため、使い勝手の面などからかえってやりにくい部分があった。そこで当社の若手船長があらゆる国籍の船長と話し合い、その要望を集約して日本無線に開発してもらった。現場が欲しい機能をすべて取り入れ、日本無線の技術と努力でほぼ完成に漕ぎ着けた」と開発に至る経緯を説明した。

システムは、船内にテーブル上の「画面」を設置して紙海図と同様に書き込めるようにし、船長や航海士がその海図を見ながらチェックリストを作成、乗組員はスマートフォンでそのリストや海図を閲覧できる仕組み。陸上の会社側でもリアルタイムに情報を確認できる。作成したデータはクラウドネットワーク上に残るため、若手船長はベテラン船長が作った細かな航路をすぐに確認し、自船の運航に役立てることができる。

▲J-Marin NeCSTで書き込んだ情報は従来のシステムへも即時に反映

小山氏は「安全運転につながり、業務量も減少するため、ほかの重要な業務により専念できる環境が生まれる。海運立国の日本が世界に向けて発信できる素晴らしいツールになった」と述べ、業務効率や安全運航に役立つ日本発の画期的なシステムであることを強調した。

■主な質疑
――どのような計画で導入していくのか。

桑原悟・日本郵船海務グループ航海チーム:現場の課題からこういうものを作りたいと考え、開発してもらったものなので、特に安全運航に寄与できることに自信を持っている。今後はすべての運航船に導入したい。また、機能面でももう少し追加してほしいものがある。導入時期は2018年の新造船以降に搭載する予定だが、まだトライアル中なので、詳細は未定だ。

――開発に際し、日本郵船が日本無線に要望したのはどのようなことか。
桑原氏:例えば非常事態となったとき、船内は非常に忙しい状態となる。そういう時に面倒な手続きで情報を本社などに送るのは手間だが、J-Marine NeCSTは「ピッ」と画面を押すだけでデータが飛ぶので、はとても便利だ。また、紙海図のように、少ないタッチ数で文字や絵を書かせてほしいといった細かな要望を伝えた。

――18年以降の新造船に搭載するということだが、すでに搭載している飛鳥IIに搭載しているのは試験運用ということか。

鈴木寿一・日本無線海外ソリューション技術部長:飛鳥IIへの搭載はトライアルだ。まずは実際に船舶上で使ってもらい、そのフィードバックを反映して完成させていく。

――他社にも提供するのか。価格は。
鈴木氏:日本郵船だけ(が使用する)ということはない。販売方法などは未定だが、他社にも提供していきたい。ただ、まだトライアル段階なので詳細を決めるに至っていない。