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地域医療に宅急便、ヤマトとアルフレッサがタッグ

2019年9月26日 (木)

ロジスティクスヤマトホールディングスは26日、調剤薬局が在庫を持たずに患者の在宅医療を支援できるサービスをヤマト運輸とアルフレッサが共同開発したと発表した。両社がことし1月から開始した研究会の最初の成果となる。(赤澤裕介)

地域包括ケアシステムで調剤薬局は患者との重要な接点となっているが、在宅医療への対応や栄養食品、医療材料・衛生材料、介護用品の提供など、より多くの役割・機能を果たすことが求められる一方、提供できる商品アイテム数を増やすには店舗の在庫スペースが不足しており、課題となっていた。

これに対し、ヤマトとアルフレッサが立ち上げた医薬品流通研究会は「在庫を保有せずに患者にさまざまな商品を提供できるサービスを調剤薬局に提供すること」が解決策の1つにつながると判断。クラウド型のITシステムをベースに構築された調剤薬局向けの専用サービスとして提供に至った。

▲サービスのイメージ(出所:ヤマトホールディングス)

患者に直接リーチできるヤマトならではの強みを生かす「合わせ技」
このサービスでは、調剤薬局の店舗や患者の自宅で、薬剤師がタブレットなどを用い、普段調剤薬局で販売していない栄養食品などの商品を患者に紹介する。購入された商品は後日、ヤマトが自宅など患者の希望する場所へ届ける。

薬剤師は患者から注文を受けると、ヤマトウェブソリューションズが構築したクラウド型ITシステムを介し、商品を調達し保管するアルフレッサに受注データが連携される。アルフレッサは、受注データをもとに、商品をヤマトロジスティクス宛てに出荷し、ヤマトロジスティクスが配達先ごとに商品を梱包。患者の自宅にはヤマト運輸が宅急便で配達する。

このサービスを利用することで、患者は「自分の体調を良く知っている薬剤師」の説明を聞きながら、調剤薬局の店舗や自宅で商品を購入できるようになる。調剤薬局側は医療用医薬品以外の商品を店舗に在庫を抱えることなく提供する体制を導入することで、商品の幅が広がり、より地域医療へ貢献しやすくなる効果が見込まれる。

今後はアルフレッサが営業窓口となり、段階的に全国の調剤薬局へ紹介。取り扱う商品はアルフレッサが取り扱う栄養食品から開始し、調剤薬局や患者のニーズを聞きながら、段階的に増やしていく。

また、両社が共同で立ち上げた医薬品流通研究会では、アルフレッサが持つ医薬品流通ネットワークとヤマト運輸の宅急便ネットワークを組み合わせるだけにとどまらず、「経営リソースやノウハウを徹底活用する」方針だとしている。

<解説>医薬品卸他社が活用することはできるのか
ヤマトとアルフレッサグループが1月に立ち上げた研究会から生み出されたサービスで、自社の事業を社会インフラと位置づけるヤマトグループらしいアプローチであり、社会問題となっている地域医療に新しい形を提案する動きだともいえよう。

いくつかのポイントはあるが、まず他社(ほかの医薬品卸)がこの枠組みを活用することは可能かどうかという点について考えてみたい。アルフレッサとの協業として生まれたサービスであるということから、相手への「一定の配慮」はあって然るべきだが、他社が活用を求めてきた場合、ヤマト検討の土俵に上がる可能性が高い。

同社グループの考え方として顧客となる企業からのアプローチを排他的に扱う文化はなく、広く地域医療に貢献するということが今回のサービスの大義として掲げられている以上、ほかの医薬品卸がこのスキームを活用することも可能だとみられる。

また、ヤマト運輸の宅配機能をカギとしながらも、ヤマトウェブソリューションズやヤマトロジスティクスといったグループ企業が持つ機能を組み合わせているのも今回の取り組みの特徴だ。

ヤマトグループにはSGホールディングスグループが持つグループ横断の営業企画部隊「GOAL」のような専門組織は設置されていないが、ヤマトホールディングスの長尾裕社長は過去の記者会見で「アカウント営業に注力する」ことを明言している。

これはグループのリソースを組み合わせて顧客の課題解決を図るという意味であり、実際に今回はヤマト運輸がヤマトロジ、ヤマトウェブソリューションズの機能を組み合わせる設計図を描いたものだという。同社は今後もこういった「ソリューション営業」を強化していく考えで、アルフレッサとの研究会から出てくるであろう二の矢、三の矢も、宅急便一本足ではない形が想定される。

アルフレッサとの研究会は当初、2019年1月に立ち上げて同年末までを期間として協議することになっていたが、解決すべき課題はまだ多いという。最初の成果として調剤薬局向け在宅医療支援サービスを世に出したことで、両社の信頼は深まり、12月以降も研究会を継続していく理由ができたという見方も可能だ。