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e5ラボ・末次CTO「EV船に国内荷主企業も高い関心」

2020年1月21日 (火)

話題e5ラボ(東京都千代田区)の末次康将CTOは20日、JPI主催のセミナーに登壇し、事業計画と今後の展望について語った。e5ラボは、昨年8月に旭タンカー、エクセノヤマミズ、商船三井、三菱商事の共同出資により設立された会社で、電気だけで航行するEV船の開発・建造・運用を目指している。

同社は、2021年度後半に旭タンカー向けの電池式EVタンカー2隻を、2022年度半ばに東京汽船向けの水素燃料電池式EVタグボート1隻を竣工する計画で、近くEVフェリーの試験事業についても発表を行う。EVタンカーとEVタグボートは、東京・大阪の湾内で運航される見通し。

▲e5ラボの末次康将CTO

末次康将CTOは、アマゾンが陸と空で物流革命を起こしていることを引き合いに出し、「海運も100年に一度の変革期を迎えている。莫大な資金が投入されている自動車の電動化技術が船舶にも投入され、海上のデジタル化・情報通信革命と合わさることで、これまでとは全く違う次元の戦いが始まっている」と話し、世界市場における存在感の下落が不安視されている日本の造船業界に警鐘を鳴らした。

EV船は、従来の船舶と燃料・駆動機関が異なるため、船員の居住空間などのレイアウトを比較的自由にできることが特長の1つとされており、造船会社にはこれまでの常識を覆す発想が求められる。末次CTOは、これを「内航船の再開発」と呼び、開発の中核を占めるのはゼロエミッション船だとした。EV船ならではの静粛性と船室レイアウトによる船員不足への対応、世界中で急がれる環境問題への対応、国内造船業の再興――いずれも急務とされる課題を解決する可能性を秘めている。

▲(左)EVタグボート(右上)同タンカー(右下)同フェリーのコンセプトデザイン

こうした取り組みは、海運会社だけでなく荷主からも高い関心を集めており、既に自動車メーカーなど環境問題への関心が高い荷主企業から接触があるという。これに呼応するように、商船三井は昨年12月に「水素ハイブリット自動車運搬船」の開発をe5ラボと共同検討することを発表。LNG燃料発電機・水素燃料電池・大容量バッテリーを用いたゼロエミッションの外航船が誕生する可能性がある。

▲EV船の課題について語る末次CTO

しかし、EV船の普及には、避けて通れない課題もある。建造費用が従来船の1.5倍程度になる見通しで、動力源となる電力価格も、日本国内では既存燃料と比較して圧倒的な割安感があるわけではない。末次氏は、「EV車の普及とともにバッテリー価格は下落傾向にあり、船型の標準化などの対策をとることで、早ければ2025年には既存船と同額で建造できるようになる」と話しているが、これはEV船が一定数普及することを前提としており、船舶・海運・荷主企業には未来に投資する覚悟が求められる。

このほか、e5ラボは海事産業全般の課題解決に取り組むための「e5プロジェクト」を立ち上げており、設立4社のほか、東京海上日動、東京電力、出光昭和シェル、ソフトバンクが参画している。中でもソフトバンクは、英・ワンウェブが昨年から打ち上げている650基の外気圏人工衛星を用いて、洋上の情報通信を高速・大容量化する「e5マジックビームプロジェクト」を構想しており、全ての船に安価で高品質な情報通信サービスを提供することで、海事産業のデジタルトランスフォーメーションを加速させるという。

末次氏は、「”できること”をやるのではなく、”やらなければならないこと”をやるのだ」と話し、これらの取り組みを社会が求めていることを強調。セミナーには大手海運・造船会社のほか、電機・プラントなどの関連企業も参加していた。同社はEV船の開発に留まらない事業展開を、多くのパートナーシップによって実現しようとしており、海事産業以外からも熱い視線が注がれている。

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