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業務中の事故は会社に賠償請求可、最高裁が初判決

2020年3月2日 (月)

事件・事故業務中に発生した交通事故で1500万円の損害賠償を被害者に支払った元・福山通運の従業員が、勤務先だった同社に対し、損害賠償の全額を負担するよう求めた裁判が2月28日に最高裁判所で審議された。最高裁は、大阪高裁の「従業員が全額負担すべき」とする判決を破棄、両者の負担額を算定するため同高裁に審議を差し戻した。

今回の争点は、死亡事故を起こした従業員が被害者遺族に対し、個人負担で1500万円の損害賠償を支払い、賠償後に福山通運に対して同額の支払いを求めたことが妥当か否か、というもの。運送会社が損害賠償を支払った後に従業員に負担を求める「求償権」に対し、従業員が賠償を支払った後に会社に負担を求める「逆求償権」が認められるかどうかを争った。

一般的に、運送会社は損害賠償保険に加入せず、賠償金を支払う必要がある場合にそのつど自己資金によって支払う「自家保険政策」を採用している会社が多いが、今回の事案を担当した菅野博之裁判官と草野耕一裁判官は、「通常の業務で生じた事故による損害については、従業員個人が負担すべき部分がわずかとなることが多く、これがゼロとすべき部分もあり得ると考える」と意見。重視すべきは従業員(個人)と会社(組織)の属性と双方の関係性にあるとした。

その理由について、「損害賠償を従業員の負担とした場合、著しい不利益をもたらす」のに対し、多数の運転手を雇用している会社側が負担する場合は「偶発的財務事象として合理的に扱うことができる」と説明。同じ賠償額でも従業員と会社では負担の感じ方が異なることを指摘した。これを踏まえ、福山通運が自家保険政策を採ったために、従業員は同社が損害賠償保険に加入していれば得られるはずの訴訟支援など受けられなかったとし、「福山通運が自家保険政策を採ってきたことは、本件における使用者(会社)と被用者(従業員)の関係性を検討する上で、使用者(会社)側の負担を軽減させる理由となる余地はなく、むしろ被用者側(従業員)の負担の額を小さくする方向に働く要素である」とした。

また、両裁判官と一緒に今回の事案を担当した三浦守裁判官は、事業者は運送業の許可を受けるにあたり「事業用自動車のすべてについて、自賠責に加入することはもとより、任意保険を締結するなど、十分な損害賠償能力を有することが求められる」と指摘。これが交通事故の被害者救済と従業員の負担軽減の両面で重要であるとした上で、これまで物流業界では一般的だった「自家保険政策」が、かえって従業員の負担を増やすことになるのは、運送業の許可基準や使用者責任の趣旨、損害の公平な分担という見地からみて「相当でない」とした。

今回の争点となった「逆求償権」と「自家保険政策」について、大手物流会社のSBSロジコム(東京都墨田区)に意見を聞いたところ、「当社は全車両を対象とした任意保険に加入しており、これまでに発生した事故でドライバーに賠償を支払わせたことはない。これからは全車両を対象に任意保険に加入することがスタンダードになるのでは」と、同社役員から回答があった。今回の最高裁判決は、物流会社に対し、交通事故の賠償の在り方を見直すきっかけになるかもしれない。