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運輸デジタルビジネス協議会「TDBC Forum 2021」開催

運転手の健康起因事故撲滅に向けた取り組みも紹介

2021年7月7日 (水)

イベント運輸デジタルビジネス協議会(TDBC、東京都港区)は7日、オンラインフォーラム「TDBC Forum 2021」を開催した。「運輸事業者の課題をともに解決〜DX(デジタルトランスフォーメーション)の実践〜」をテーマに、運輸業界における課題とその解決策、さらにSDGsの活動など、社会に不可欠なインフラとしての「あるべき姿」について考える機会となった。点呼の遠隔化や動態管理など、デジタルツールを活用した業務効率化を推進する取り組みが紹介されるなかで、注目したのが、運転手の健康管理にかかる取り組みだった。背景には、依然として運転手の疾患や意識喪失による事故が相次いでいる、痛ましい現実がある。

事業用自動車における運転手の健康に起因する事故について説明する、国交省自動車局安全政策課の安原幸生主査

運転者の健康に起因する事故が注目されるようになったのは、2010年代中盤以降、運転手が意識を失い発生した事故が全国各地で相次いだことによる。バスやトラックの運転手が、業務中に脳や心臓の疾患、意識喪失などによる事故がクローズアップされた。国土交通省はことし6月1日、トラック運送事業者が運転者の健康状態の把握などを適切に行わずに重大事故を引き起こした悪質な違反を、行政処分の対象に追加する通達を発出するなど、さまざまな対応を進めているが、状況は厳しい。

今回のフォーラムで基調講演を担当した、国交省自動車局安全政策課の安原幸生主査は、2019年までの5年間で、事業用自動車の事故件数は減少傾向にある一方で、健康起因事故の報告件数は増加傾向にあることを明らかにした。健康起因事故報告は乗合バスが半数程度を占めるが、2019年実績ではトラックも27%を占め、高い水準にあると言えそうだ。疾患別では心臓や脳、呼吸器系疾患が上位を占めた。国交省は、各事業者に対して、運転手の健康管理の把握や専門医の受診、体調急変時の管理者への連絡など、健康起因事故を防ぐ取り組みを徹底するよう求めている。

健康起因事故を防ぐためにIT技術を活用できないか。切削工具メーカーのユニオンツールは、「運輸・旅客事業者向け心疾患の現状と心電図読影サービスシステム」について発表した。心臓疾患の早期発見・予防ソリューションの提供や、心臓疾患リスクに対する啓発活動などの取り組みを説明。具体的な取り組みとして、事業所内で測定した心電図を、遠隔で専門医が診断できる「心電図の簡易スクリーニング検査」を紹介した。

パラチノースによる乗務員の集中力や注意力の改善について実証実験を進める三井製糖の発表

三井製糖は、乗務員における集中力や注意力の改善策として、蜂蜜に含まれる天然の二糖類であるパラチノースの活用について、バス会社などの協力を得ながら実証実験を進めていくことを説明した。糖類には集中力や注意力を改善する働きがあるとされるが、パラチノースは、体内への吸収スピードが他の糖類と比べて遅いため、こうした機能がより効果的な可能性があるという。CBC(東京都中央区)は、無呼吸症候群のスクリーニング検査にかかる取り組みについて発表した。

TDBCは、従事者の安全・健康管理をはじめ、人材不足や業務効率化、運賃適正化など、業界内の課題について企業や業界の枠を超えて議論するとともに、それを解決するためのIT化や働き方改革の推進、DXの導入加速化などについて、実証実験も含めた実践的な解決法を提示する活動を展開している。健康起因事故は運転手だけでなく乗客や荷主など関係者に大きな影響を及ぼす。TDBCには、官民でこうした事故の撲滅に向けた実効的な施策構築の旗振り役を積極的に担ってほしい。(編集部・清水直樹)