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日本郵便の不適切点呼問題、批判の矛先は国交省へ

2025年6月20日 (金)
LOGISTICS TODAYがニュース記事の深層に迫りながら解説・提言する「Editor’s Eye」(エディターズ・アイ)。今回は、「日本郵便会見『物流業界の一員として恥ずかしい』」(6月17日掲載)を取り上げました。気になるニュースや話題などについて、編集部独自の「視点」をお届けします。

ロジスティクス17日に開かれた日本郵便の記者会見がトラック運送業界で大きな物議を醸している。会見の終盤、記者の「現場での不適切な点呼はいつ頃から常態化していたのか」という質問に対し、千田哲也社長が「想像するに、相当前、民営化直後から点呼はあまりちゃんとしたかたちでなされてこなかったという可能性も否定できない」と回答したからだ。

▲日本郵便の千田哲也社長

民営化された2007年10月以降、約18年にわたって、業界最大手の日本郵便が「安全輸送の要」である点呼を蔑ろにしてきたという驚愕の事実を、現経営トップが記者の質問に答えるかたちであっさりと認めてしまった。

この衝撃的な発言に対し、同業他社からは「点呼未実施や不実記載は昨日今日に始まった話ではないだろう」(大手物流会社役員)や「民営化直後からだったと聞いても、『やはりそうだったか』というのが率直な感想で驚きはない」(中堅物流会社社長)といった声が相次いだ。

会見での発言を受けて、同業者の関心は日本郵便への批判より、むしろ監督官庁である国土交通省への疑念へと急速に移りつつある。「18年もの長きにわたって、国交省は日本郵便の現場に一度も足を踏み入れていないのか」(中堅物流会社社長)や「監査を行わなければ、不適切な点呼状況は永遠に把握できなかったはずだ」(大手物流会社役員)など、批判の矛先が国交省に向き始めている。

点呼の記録は事業者が原則1年間保管し、運輸支局の求めに応じて提出すればよいと定められている。そのため、監査や立ち入り検査が行われなければ、点呼の実態を把握する手立てはない。国交省の監査は重大事故発生時や通報があった場合に限られるが、今回のように全国の75%の郵便局で不適切な点呼が長年続いていたとなれば、「知らなかった」で済まされる問題ではないだろう。

改めて言うまでもなく、日本郵便は霞が関に深くルーツを持つ企業だ。「国交省にとって日本郵便は身内同然だ。霞が関の住人たちの身内に甘い姿勢が今回の問題で露呈しただけにすぎない」(中堅トラック運送会社社長)といった厳しい指摘も聞こえてくる。

事業許可取り消しという厳しい行政処分が目前に迫り、問題は一応の幕引きを迎える見込みだ。確かに不正を働いたのは日本郵便にほかならない。しかし、社会インフラを支える巨大組織の不備を長年放置してきた監督官庁にも、重大な責任があることを忘れてはならない。国交省は今こそ、自らの監督機能の不十分さを猛省すべきなのではないだろうか。(編集委員・刈屋大輔)