
話題2019年、東京。EC物流の未来を賭ける創業2か月のスタートアップと、日本市場に降り立ったばかりの外資系ロボットメーカーが出会った。後にEC物流業界の風雲児と称されるSTOCKCREW(ストッククルー、東京都中央区)の中村慶彦社長と、今やそのAMR(自律走行型搬送ロボット)が誰もが知る大手企業の現場で採用されているシリウスジャパン(同)のニエ・ユハン(グレース)社長(以下、グレース社長)。彼らがゼロから信頼を築き上げ、共に常識破りの成長を遂げた軌跡は、シリウスジャパン躍進の原点を物語る。なぜSTOCKCREWは、黎明期のシリウスジャパンが持つ真の実力を見抜けたのか。多くのトップ企業を惹きつけるシリウスの核心に、この対談から迫る。
>>【特別対談・後編】シリウスとSTOCKCREWが拓く「物流のインフラ化」
第1章:必然の出会い――創業2ヶ月、同じ未来を見つめていた
「中小EC事業者のための物流インフラを創る」。その一心で中村慶彦氏がSTOCKCREWを本格始動させたのは19年8月。総合商社系の物流会社で3PLの企画営業や物流ロボットのプロジェクトに参画した経験から、彼は確信していた。物流はアセットが重く、スタートアップには参入障壁が高い。だからこそ、自分たちと同じようなスタートアップに寄り添い、彼らが本当に必要とするサービスを提供しなくてはならない、と。

▲STOCKCREWの中村慶彦社長
その構想の核にあったのが、「ロボットありきのオペレーション」だ。特定の荷主や熟練作業者の経験則に依存する従来の物流ではなく、誰もが使える標準のオペレーションフローを確立するには、人の属人性を徹底的に排除する必要があった。そのためには、事業の設計段階からAMRの導入が不可欠だった。
数々のロボットメーカーを検討するなかで出会ったのが、シリウスジャパンだった。今でこそ大手物流会社にも多数導入されているシリウスだが、当時は日本法人を立ち上げたばかり。その秘められたポテンシャルをいち早く見抜いたのが中村社長だった。
時を同じくして19年、中国・深センで生まれたSyrius Technology(シリウステクノロジー)の日本法人として、シリウスジャパンは立ち上がった。代表のグレース氏は、エンジニア1人とのわずか2人体制で、日本の物流業界への挑戦を開始したばかり。その記念すべきホームページの問い合わせフォームの、5番以内に入力したのが中村社長だったという。
創業2か月のスタートアップ同士。グレース社長は、初対面の中村社長に衝撃を受ける。「とにかく話すスピードが速く、頭の回転も速い。そして何より、弊社の創業者のアダムが持つ思想と、中村さんの発想が驚くほど合致したのです。すぐに『この人と一緒にやろう』と決めました」

▲シリウスジャパンのグレース社長
第2章:思想の共鳴、「労働力の代替」ではなく「人間の能力拡張」
中村社長が数あるメーカーの中から、当時まだ日本で実績のなかったシリウスジャパンに惹かれた理由は何か。それは、単なるロボットの性能ではなく、根底に流れる思想への強い共感だった。この思想こそ、後に業界や企業規模を問わず、多くの現場リーダーの共感を呼ぶシリウスの普遍的な価値の源泉となる。
「当時のロボット業界で語られていたのは、人手不足を補うための『労働力の代替』という文脈がほとんどでした。しかし、私はその考え方に全く同意していなかった」と中村社長は対談の中で断言する。日本の課題は、労働人口の減少よりも消費人口の減少スピードが速いことであり、問題の本質は、安い物流費の中で高い給料を払えない事業構造にある、というのが中村社長の考えだ。
中村社長が求めていたのは、人の仕事を奪う機械ではなく、人の可能性を増幅させるためのツールだった。「シリウスは『人間の能力をいかに拡張させるか』という視点でロボットを開発していました。その思想に強く共感したのです。彼らはロボットメーカーというより、ソフトウエア、AIの会社。将来的な拡張性を見据えたシステムの基本設計が、他社とは決定的に異なりました」

▲STOCKCREWの倉庫現場では、人間の能力を拡張させるAMR、フォークリフト、電動台車が行き交う
第3章:4000坪の空き倉庫とグレース社長の“エラー”
思想は合致した。しかし、現実には両社とも実績も資金も潤沢ではなかった。だが、彼らの描く未来のスケールは壮大だった。出会って2か月後、中村社長、グレース社長、シリウスの創業者アダム氏らわずか4人で、物流不動産大手のプロロジスが持つ4000坪の巨大な空き倉庫を内覧していたという。
「その時、うちの拠点は120坪。シリウスさんが日本に持っているロボットも、おそらく20台もなかったでしょう。そんな状況でアダムさんが『この4000坪を1年で埋めるスピード感じゃないとダメだ』と言うのです。正直、この人たちは頭がおかしいんじゃないかと思いました(笑)」と中村社長は当時を振り返る。
この無謀とも思えるビジョンが、彼らの成長速度を規定した。とはいえ、いきなり巨大倉庫は借りられない。彼らの挑戦は、シリウスジャパンの拠点(今回の対談撮影現場)の一角、わずかなスペースを間借りしての検証から始まった。
「ここに棚を置いて、うちの荷物を運び込み、ロボットを動かすことから始めました。今でこそおしゃれなオフィスですが、当時はひどいものでしたよ」と中村社長は笑いながら明かす。「お金がない中で工夫するしかないので、ロボットがピッキングポイントに着いたことを知らせるシステム音声が、なんとグレース社長の肉声だったんです。『ピッキングしてください』『エラーです』と、狭い空間で数台のロボットがグレースさんの声で話し続ける。さすがに『この機能はまずいだろう』とお願いして、すぐに消してもらいました(笑)」
笑い話のようだが、このエピソードは、ユーザーであるSTOCKCREWと、開発元であるシリウスジャパンが、いかに密に連携し、二人三脚で製品を改良してきたかを物語っている。
第4章:二人三脚の拡張移転、100倍成長への序章
シリウス拠点での検証を終えたSTOCKCREWは、事業の拡大と共に、まさに破竹の勢いで拠点の拡張と移転を繰り返していく。
その軌跡は凄まじい。シリウスの拠点を間借りした30坪から始まり、埼玉県八潮市に250坪の拠点を確保。すぐに手狭になり、同県杉戸町に450坪の倉庫へ移転。さらに千葉県八千代市に3400坪の「Chiba Dock」を開設し、それも今や6000坪にまで拡張している。この4年間で実に5回の拡張移転を経験し、事業規模は創業当初から100倍以上に膨れ上がった。ロボットの導入台数も、シリウスの拠点で動かした4-5台から、現在では100台を超える規模にまで増加。そして、この凄まじい拡張スピードに、シリウスジャパンは完璧に伴走し続けた。

▲STOCKCREWの新拠点「Chiba Dock2」で出荷オーダーを待つシリウスAMR
「計画なしに荷物が増えるんです。本当にありがたいことですが、2か月に1回450坪ずつ増床するような状況でした」(中村社長)
普通のロボットシステムであれば、移転やレイアウト変更のたびに、事業拡大のスピードにブレーキをかけていただろう。だが、シリウスのAMRは、この常識破りの成長スピードに対応し続けた。STOCKCREWとの二人三脚で証明された圧倒的な拡張性と柔軟性は、後に続く多くのユーザー、名だたる大手企業の現場でも遺憾なく発揮されることになる。シリウスジャパン躍進の原点ともいえるこの挑戦の軌跡の中で、彼らは何を証明したのか。
後編では、この急成長を支えたシリウスAMRの核心、「アウトオブボックス」コンセプトの真価に迫る。ポケットWi-FiでAMRを動かしたという驚愕のエピソード、そして両社が見据える「物流のインフラ化」という壮大な未来とは。
>>【特別対談・後編】シリウスとSTOCKCREWが拓く「物流のインフラ化」