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ロボは3年で物流現場を席巻するか/AMR特集V

2021年7月28日 (水)

話題人手不足と”2024年問題”を抱える物流業界で、ロボットへの関心が急速に高まっている。6月24日にオンライン開催された「物流AMRフォーラム2021」では、当初の定員300人を大きく上回る700人超が参加を申し込み、2時間半に及ぶ4社の講演に耳を傾けた。

登壇者全員が出席するパネルディスカッション形式の座談会では、視聴者から受け付けた質問の中から7つのテーマを絞り込み、視聴者投票でトークテーマを決定。登壇者4人が意見を交わした。

視聴者投票で決定した7つのテーマ
・AMRが既存のWMSと連携する際のポイントと注意点(最多46%の得票)
・国内市場・国内物流現場には何年程度でロボティクス化が一般的になるのか
・海外勢のロボティクス関連企業に対して国内勢の巻き返しはあるのか
・中小零細企業での導入は可能か。可能な場合の実現方法
・ROI(Return On Investment)が成り立つ条件
・物流ロボットの価格は今後低廉化するのか
・AMRが活躍している未来に対して今かけているものは何か

テーマ1:AMRが既存のWMSと連携する際のポイントと注意点は?

▲ロジザードの金澤茂則社長

ロジザードの金澤茂則社長は、「ロボットとデータを連携すること」「ロボット導入によって、物流の運用自体が変わることを認識すること」がポイントになると言及した。

前者はAPI活用など、規則に従って連携する難易度の高くない作業であるが、後者が特に重要であるという。ほかの登壇者も概ね同じ意見であったが、今後実例が増えていく中でさらに簡便になっていくであろうと予想した。

テーマ2:国内市場・国内物流現場には何年程度でロボティクス化が一般的になるのか?

プラスオートメーションの大西弘基CMOによると、3年でロボットを導入したこと自体が話題にならない時代がくるという。

ラピュタロボティクスの森亮執行役員は「どこの現場でもロボットが入る時代は10年」で、大西氏と同じくロボット導入自体が珍しくなくなるのは3年と述べた。

金澤氏は「定量的に何年と言うのは難しいが、必ず引き金がある」と独自の視点を述べた。同氏のこれまでの経験でも、WMSの浸透はECが普及した際に導入が進んでおり、ロボットは人手不足が引き金になるかもしれないと語った。

テーマ3:海外勢のロボティクス関連企業に対して国内勢の巻き返しはあるのか。海外製導入の際のカントリーリスクは?

森氏は、海外もそこまでロボティクスが普及していないのが前提で、日本の求められる品質は非常に高いことから、その基準に合致した製品を作れば海外に普及していくとした。また、カントリーリスクについては森氏がグーグルに勤務した経験から、顧客(日本)とメーカー(海外)の距離が遠いと顧客の声は反映されにくいと指摘した。

金澤氏は、日本製のハードウェアは海外製のAGVに部品として組み込まれていることからハードウェアについては心配していない。しかし、ソフトウェアはノウハウ勝負なので心配であると述べた。

大西氏は、海外製部品を日本で組み立てるなど、これから国産と海外産の境目がなくなっていくものの、使っていくためには日本国内でどんどん実績を出してかないと海外勢に負けてしまうと語った。

テーマ4:AMRは中小零細企業での導入は可能か。可能な場合の実現方法は?

▲プラスオートメーションの大西弘基CMO

大西氏は、RaaSは中小企業向けであり、AMRは中小企業でも導入できると指摘。中小事業者はその日のオペレーションに追われて精一杯になることが多く、将来を見るマインドが大切と述べた。

また、森氏はロボットの柔軟性を上げればコストで導入できなかった中小企業でも使いやすくなるようになる。事例も増やすことで一歩踏み出せるようになると話した。

金澤氏は「中小規模の会社でもAMRを導入すれば必ず効果は出る」と言い切った。

さらに、モデレーターを務めるLOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長の「ECでは比較的中小の現場は少なくない。AMRの現場の規模感は想定しているか」との質問に対し、森氏は「ピッキングロボットやAMRは規模のある会社の方が効果が出やすいが、スタッフが10人程度いれば効果は出る。将来的に複数の荷主をあわせてRaaSとして提供できたら面白い」と展望を語った。

テーマ5:ROI(Return On Investment)が成り立つ条件は?

金澤氏は、「単位コスト」の設定が重要であると強調。単位時間あたりの人件費とロボティクスの費用を設定さえすれば、効果は必ず出ると述べた。

森氏は、AMR導入の際に現場を初めから変えるのが難しい場合もあるが、それでも実績が出るためフレキシブルに対応できると語った。

大西氏は「どんなロボットも人間より賢くない。ロボットができる限定的なことをオペレーションの中からどれだけ抽出できるかが重要」と語り。ロボットにしかできないことをロボットにやらせてもROIは良くならないと結論づけた。

テーマ6: 物流ロボットの価格は今後低廉化するのか?

森氏は、各機能あたりの単価は落ちるが、AMRができることが増えれば価格は上がっていくため、インパクト・効果が大きくなっていくイメージであると話した。

大西氏も同意見で、生産性あたりの単価は安くなると述べた。安くて低機能のロボットもあれば、費用が高くて高い効果が出るロボット出てくるとした。

物流現場の多様性に対応できるロボットが増えてきて機能あたりのコストに注目して導入の判断をすべきと言う意見で全員一致した。

テーマ7:AMRが活躍している未来に対して日本の物流現場に足りていないことは何か?

金澤氏によると、課題認識は持っているが、踏み出すための引き金を引く段階に至っていないと指摘。中国では労務問題が導入のポイントになる一方、日本は人手不足からスタートするのではないかと話した。

▲ラピュタロボティクスの森亮執行役員

森氏はコストだけを見るよりもテクノロジーを導入して売上を上げていくことが重要で、リーダーシップを持ち、テクノロジーを使って強みを作って勝てるというマインドが大切と述べた。

締めくくりに大西氏は、AMRに過度に期待せず、「まずはAMRを導入して徐々に使いこなしていく」というマインドが重要と話した。

以下、講演内容全文↓(講演内で寄せられた質問への回答は末尾に記載)

人の作業の単純な置き換えでは失敗に終わる

Q1. AMRが既存のWMSと連携する際のポイントと注意点

金澤茂則氏(ロジザード):連携で重要なポイントは2つあります。一つは、ロボットとWMSのデータ連携(会話)の部分です。これについてはAPIの活用など標準的なインターフェイスが用意されていますから、規則通りにつなげばそれほど複雑ではありません。もう一つは、運用フローの見直しです。ロボットは指示で動きます。人間のように「判断して動く」ことはしませんから、人の作業を単純に置き換えるだけではうまくいかないのです。機械化されている工程の前後には必ず「人」が関わる工程があり、ロボットを導入する際はこれら全体を機能化する必要があります。そのため、運用フローそのものの見直しが必要になり、ノウハウや経験値がないと難しいのです。実際、この部分に開発負荷がかかっているケースが多いので、当社ではこれを「標準化」できないかと、取り組んでいるところです。

森亮氏(ラピュタロボティクス):オペレーションへの落とし込みが重要になりますので、AMRに対しWMSのどのデータをどのように流してどのように処理するのか、一つひとつルールを決めて落とし込んでいきます。倉庫によってクセが出るところでもあり、そうとう議論が必要で、とても時間がかかるのが現状です。

大西弘基氏(プラスオートメーション):実例が出ていく中でコストが下がり、簡便になっていくでしょう。

ロボティクス化は3年が一つの節目か?

Q2. 国内市場・国内物流現場には何年程度でロボティクス化が一般的になるのか

大西氏:どの程度の状況を「普及」ととらえるかにもよりますが、ロボット導入がニュースにならなくなるのは、あと3年くらいかなと思っています。

森氏:たしかに、3年は一つの節目ですね。ロボティクスが珍しくなくなっている状態になっているでしょう。

金澤氏:私は、定量的な予測は難しい、と思っています。新しいテクノロジーやソリューションが社会に普及するには、何らかのトリガーが必要で、「人が採用できない」という現実に直面した時に、一気にロボティクスのブレイクスルーがくるのではないかと思います。それはひょっとすると来年かもしれません。その時に、需要に対してロボットが供給できる体制にあるのか、そちらを心配しているくらいです。

日本勢は品質で勝負、まずは実績作りを

Q3. 海外勢のロボティクス関連企業に対して国内勢の巻き返しはあるのか

森氏:海外もそこまで普及していないのが前提です。海外の倉庫は大型、日本の倉庫は小さい。日本の求められる品質は非常に高いです。高いスタンダードに合致した製品を作れば海外に出ていきます。カントリーリスクはセンシティブ。お客様とメーカーの距離が遠いとお客様の声は反映されにくいと思います。

金澤氏:中国ではたくさんのメーカーが、顧客ニーズにあわせて開発していて、経験も豊富です。ロボティクスは、ハード面とソフト面の融合が重要です。ハードは汎用的なもので十分です。実は中国製のロボットも分解してみると、部品はほぼ日本製なので、製造コストの問題さえクリアできれば日本でも十分製造が可能です。しかし、ソフトウエアに関しては、これはノウハウの塊ですから実績が必要です。そういう面では中国が一歩先を行っており、日本ではとにかく実績を作っていかなければなりません。

大西氏:アセンブル、メンテナンスは日本でやっています。国産と海外の境目がなくなっていくでしょう。使うためには日本側でどんどん使う実績を出してかないといけません。そうしないとノウハウで負けてしまいます。

効果は必ず出る、課題はいかに生産性を上げるか

Q4. 中小零細企業での導入は可能か。可能な場合の実現方法
大西氏:RaaSは中小零細向け。その日のオペレーションよりも先をみるマインドが大切と思います。

森氏:ロボットの柔軟性を上げればコストで導入できなかった中小零細でも使えるようになるでしょう。事例も増やせば使えるようになるはずです。

金澤氏:AMRを導入して効果を上げている中小の物流会社は、実際に存在します。必ず効果は出ますので、導入への不安は無用です。やらなくてはいけないのは、ロボットの能力を最大限生かすために必要な量をどう確保して、どれだけロボットをフル稼働させて生産性を上げるか、そこを考えることが重要です。

赤澤氏:ECでは比較的中小の現場は少なくありません。現場の規模感は想定していますか。

森氏:ピッキングロボットやAMRは規模のある会社の方が効果が出やすいが、スタッフが10名程度いれば効果は出ます。将来的に複数の荷主をあわせてRaaSとして提供できたら面白いと思います。

ROI成立は、ロボット能力を生産性に直結できるかがカギ

Q5. ROI(Return On Investment)が成り立つ条件

金澤氏:私のセッション(リンク)でもお話ししたとおり、ロボットをランニングコストとして人件費と指標を合わせれば、費用対効果は明確です。繰り返しになりますが、量と時間をまとめて、ロボットの能力をフルに生産性に結びつけること、これにつきます。

森氏:変数が多くなれば確実に効果を出せるでしょう。現場をはじめから変えるのが難しい場合もありますが、それでも実績が出ているためフレキシブルにできるようになってきていると感じています。

大西氏:どんなロボットも人間より賢くありません。ロボットができる限定的なことをオペレーションの中からどれだけ抽出できるかが重要。ロボットにしかできないことをやらせてもROIは良くならないのではないでしょうか。

ロボットの機能あたりの単価は低廉化する

Q6. 物流ロボットの価格は今後、低廉化するのか

森氏:機能あたりの単価は落ちます。できることが増えれば価格は上がっていくため、インパクト・効果が大きくなっていくイメージかと思います。

大西氏:生産性あたりの単価は安くなっていくでしょう。安くて大したことができないロボットもあれば、高くて高い効果が出るロボットもでてきます。

金澤氏:そのとおりです。テクノロジーが、どんどん更新されていくわけですからね。実際、ロジザードの料金は20年前の創業当時と変わっていません。同じ価格で高機能化しています。導入は他に先んじることでノウハウの蓄積になり、それを強みに後々大きなリターンを期待できますから、早い決断が得策です。

コストに目を奪われずテクノロジーを強みにしよう

Q7. AMRが活躍している未来に対して日本の物流現場に足りていないことは何か

金澤氏:その意味でもRaaSはおススメです。十分テストを重ねて導入したとしても、バグやアクシデントはつきものです。それを怖がっていては前に進めません。今、どの事業者も課題感はあると思います。踏み出すためのインパクトがあれば一気に動くでしょう。中国でロボティクス化が進んだ背景には、「人がアテにならない」「労務問題が大変」といった問題がありました。日本は違います。人は機械よりも信頼できる存在ですし、労働問題も少ない、つまり機械に置き換える理由付けが乏しいのです。でも、「人が採用できない」壁に直面した時に経営者の思考が変わり、ロボティクスは一気に進むと見ています。ロボットはビジュアル的にも現場の雰囲気を変えてくれます。まず体験してみてほしいと思います。

森氏:コストだけを見るよりもテクノロジーを導入して売上を上げていくことが必要でしょう。リーダーシップが肝になります。テクノロジーを使って強みを作って勝てるというマインドが大切です。

大西氏:過度に期待しないことです。まず入れてみると想定と違ってたり思ってたほどではないとなるが、使いこなしていくというマインドが大切だと思います。

講演内での質問への回答

Q. RaaSやシステム保守でコストがかかり、いつか費用対効果が見合わなくなることはあるのか?
⇒RaaSは保守含めた利用料を請求するため、費用・効果は一定
⇒コストが嵩むイメージがあるかもしれないが、使えば使うほど相対的な固定費は減る

Q. AMRで同時制御できる台数は?
⇒メーカー・環境によってバラツキがある
⇒RR社は30台半ば