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グラウンド宮田社長に聞く「国内物流刷新が使命」

2021年8月18日 (水)

宮田啓友社長

話題GROUND(グラウンド)の宮田啓友社長は17日、LOGISTICS TODAYのインタビューで、現地企業とパートナーシップを結んで韓国や欧州の市場に参入する意思を明らかにした。国内市場に軸足を置いた事業展開を堅持しつつ、海外でもロボットとソフトウェアを組み合わせた「物流施設の全体最適化システム」の導入を目指す。こうした全体最適化システムの開発の狙いや、今後の事業展開について聞いた。

――物流施設統合管理・最適化システム「GWES」(ジーダブルイーエス)の提供を8月2日に開始しました。
宮田氏:製造や小売・流通の業界を中心に、高い関心を示していただいている。狙いは、2024年以降に稼働する物流施設への導入だ。GWESは「施設内ハードウェア・ソフトウェアの統合管理」「物流施設内状況の可視化・分析」「AI(人工知能)による業務自動化・リソース最適化」「施設内地図のデジタル化」の4つの役割で構成されるシステムだが、既存の施設で可視化のモジュールだけを試験的に活用していただき、新規物件でGWES全体を導入する流れだ。新型コロナウイルス感染症の拡大による経済の停滞もようやく一段落しつつある今、アフターコロナ時代も見据えた物流施設開発プロジェクトが加速している。2024年以降にこうした物件が相次いで完成するのを見込んで、GWESへの引き合いが強まっていると感じている。

GWESの全体像(出所:GROUND)

――GWESはどうやって物流現場を変えるのですか。
宮田氏:GWESは「物流施設全体の最適化」を実現するシステムだ。現場を統合管理して可視化や分析を行う機能は、あくまで全体最適化の「手段」と考えている。「物流DX(デジタルトランスフォーメーション)」がブームだが、課題解決に大切なのは現状認識だけでなく目標を定めることだ。物流の課題を可視化して分析したうえで、目標である「あるべき姿」「KPI(重要業績評価指標)」との差分を埋めるために必要な施策を講じることで初めて、課題解決さらには全体の最適化が達成できる。

――GWESは今後、機能を拡充していくのですか。
宮田氏:現段階では物流施設内の全体最適化を図る設計になっているが、「施設外」の業務についても適用できると考えている。例えば、配車効率を高めるためのシフト作成についても、最適化することができるのではないかと考えている。配車効率の最適化には、出荷量など上流プロセスの動向を分析することが不可欠だ。ここでも、可視化や分析を経て最適化するGWESの機能を生かせるのではないか。

――将来の物流現場の「あるべき姿」をどうイメージしていますか。
宮田氏:「物流オペレーションの標準化」と「ラストワンマイルのロボット化」だ。物流現場の運営は、いわゆる「職人芸」の側面が残っており、ホワイトボードやマグネットを使って配車計画を考えたり、現場の指揮を行う場面が多く見られる。こうした作業が可視化され自宅や本社でモニターを使ってオペレーションができるようになれば、現場運営の標準化、つまり均一化が加速する。当然、その過程でこうした業務は効率化・高度化されていくだろう。また、ラストワンマイルについては、ロボットとソフトウェアを組み合わせることで、細かいエリアごとに置かれた「物流デポ」を拠点とした配送が実現するかもしれない。今後、人口減少が進み社会活動のスタイルも変化すれば、使われなくなった地下駐車場やガソリンスタンド、オフィスなどが多く出てくる。こうしたスペースを物流デポに充当すればよい。

「GWES」で物流施設内の状況を可視化した画面表示。全体進捗率の目標との対比や計画要員比率などをリアルタイムで確認できる(出所:GROUND)

――GWESを含めたグラウンドの開発システムは、オペレーション全体の最適化に主眼が置かれています。物流以外の業界からもラブコールが掛かるのではないですか。
宮田氏:長い時間軸で見れば、物流以外の業界にもシステムを提供する日がやってこないとは言い切れないが、当面は物流向けに注力する考えだ。2015年にグラウンドを設立した時から、「日本の物流を刷新していく」との使命を担うために仕事をしてきたからだ。日本の物流業界は典型的な「ガラパゴス化」の状態にあり、このまま脱却できなければ、刻々と進化を遂げる世界の物流プレーヤーのなかで沈んでしまう可能性もあると思っている。「物流における全体最適化を実現するためのシステム構築」という軸はしっかりと堅持したい。

――日本に軸を置いた事業展開を進めるとのことですが、グラウンドの物流システム開発力は海外でも成果を発揮するのではないですか。
宮田氏:限りあるリソースのなかではあるが、海外展開も検討していくテーマだと認識している。当社への出資企業がある韓国や、日本と物流施設の状況が似ている欧州への進出は、関心があるところだ。現地企業とのパートナーシップを組んで、物流施設の全体最適化に向けた取り組みを進められる先を探していく。とはいえ、あくまで日本での物流「再興」を果たすことが最初のテーマであることは変わらない。

――グラウンドは、資本提携を重ねることで開発資金を調達し、パートナーシップを深めて事業を拡大してきています。資本政策の方向性について教えてください。
宮田氏:当社はオープンなプラットフォームで事業を展開している。GWESは、メーカーを問わず、さまざまなハードウェアやソフトウェアと連携できる拡張性の高さが強みだ。緩やかな連携により、最終的な目的である全体最適化を実現していくのが、当社のスタイルだと言える。もちろん、資金調達がシステム開発に不可欠な要素であるのは事実であり、将来の株式上場も検討している。

10年越しで実現した「全体最適化」の夢

平たい箱型ロボットが、洋服製品の吊るされた棚を次々と運んでいく。米国ボストンで10年前に目にした物流センターの光景は、今でも強烈な記憶として残っているという。「ロボットは物流の常識を変える」。そう確信した宮田氏は、グラウンドの設立を契機として、WMS(倉庫運用管理システム)とAIによる「全体最適化」システムの時代を呼び込もうと、開発に取り組んできた。その成果がGWESだ。

「物流業界における人件費は、今後も上昇していくだろう。テクノロジーを導入して物流現場を変えていかなければいけない」。原価の大半は人件費とされる物流業界で、3PL業界の営業利益率は10%に満たない。ロボットとソフトウェアを組み合わせたグラウンドの全体最適化プラットフォームは、こうした物流業界の課題を解決する物流DXの最大の成功例になるかも知れない。

マテリアルハンドリング(マテハン)と異なり、ロボットの強みは、拡張性の高さと継続的な機能進化だと指摘する。現場に求められる仕様に合わせて、柔軟に稼働できるのがロボットだ。クラウド環境下でバージョンアップによる機能管理も容易だ。そこにソフトウェアとAIを連携させることで、物流施設の「全体最適化」を実現できるシステム開発が整った。10年前の鮮烈な記憶を、自らの手で具現化した瞬間だった。

物流DXの「旗手」としての地位を着実に築きつつあるグラウンド。今後の取り組みから目が離せない。(編集部・清水直樹)