ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

遠隔機関監視システム開発で将来の船員不足に対応

2021年11月5日 (金)

(出所:日本郵船)

ロジスティクス日本郵船は5日、グループのMTI、ナブテスコ、日本海事協会、日本シップヤード(東京都千代田区)、BEMAC(ビーマック、愛媛県今治市)の5者とともに協力する船舶用機関の高度自動運転に関する技術開発プロジェクト「遠隔機関監視技術を活用した次世代内航船の研究開発」が開始されたと発表した。プロジェクトは、国土交通省の2021年度「海事産業集約連携促進技術開発支援事業」の補助対象事業に採択された。

内航海運業界は、船員の高齢化や志望者の減少によって見込まれる将来的な船員不足への対応が喫緊の課題となっている。船員になろうとする際の最大の障壁は、陸上から隔離された環境で長期間過ごす「離社会性」の高い労働環境とされ、船員への就業希望者の不足により船舶の機関運転などを担う高度専門人材が減少し、安全かつ効率的な船の運航に支障をきたす懸念もある。

プロジェクトは、こうした課題を解決するため、日本郵船など6者が協力してシミュレーターをコア技術とする機関運転の故障原因推定や、復旧方法の選択判断を行う遠隔機関監視システムを開発する。システムの開発は、船上で機関運転にかかわる人員が減っても、現在と同じ安全レベルを維持しながら陸上の監視センターで複数隻の機関運転監視を可能とする、海運業界において革新性の高い取り組みだ。内航船員に陸上の監視センターで働く新たな働き方を提案することにより、船員の労働環境における「離社会性」の低減にもつながる。

プロジェクトでは、造船所、船舶用機器メーカー、船級、船社が一体となって開発を迅速に進めることにより、実船での実証試験を実施して実用化につなげていく。

船員不足の解決には先進技術とマンパワーの両軸は必要ではないか

日本郵船など6者が、内航海運における船員確保に向けた取り組みを開始することになった。船員不足は最近浮上した課題ではなく、かねてから懸念されてきた構造的な問題であり、内航開運事業の衰退を招きかねない深刻なテーマだ。6者が協力するプロジェクトは、船員不足の進行を前提とした船舶の機関運転の自動化などに取り組む。船員の新しい働き方にもつながりそうだ。

(出所:日本郵船)

船上勤務は、陸上での「社会」から離れて長期間にわたり就業する必要がある。かつては比較的人気の高い仕事だった時代もあったが、近年はいわゆる「キツい」現場の象徴として認知され、若い世代が敬遠するようになると、船員不足の懸念が高まった。政府や関係業界は、船員不足の課題解決策として、船員業務の魅力訴求を推進するとともに、自動運航システムの開発など船舶運航業務そのものを省人化する取り組みを進めている。

今回のプロジェクトは、後者に属する取り組みと言える。しかし、完全な自動運航が当たり前の時代の到来はまだ先だろう。こうした技術が実用化されるまでに、船員不足の懸念はどんどん膨らんでいく。

ここは、船員の船上勤務軽減や短期間勤務シフト実現に向けた取り組みを、先進的なシステム開発とマンパワーのハイブリッドで対応できないだろうか。船員不足という課題解決は、働き方の改革などマンパワーだけでは困難だろうが、DX(デジタルトランスフォーメーション)化だけで果たせるものでもないと考える。国土交通省がコントロールタワーとなり、IT企業など先進技術の展開先を模索する企業の参入を促しながら、海運企業が船員養成などの機能を果たしていく。こんな機能分担で船員不足の緩和につなげられないか。(編集部・清水直樹)