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「肌触りのよさ」に勝機あり/北川烈・スマートドライブ社長【TOP VISION vol.4】

課題解決「端緒」となるアルコール検知システム

2022年4月6日 (水)

話題道路交通法施行規則の一部改正による、「白ナンバー」(自家用自動車)事業者のアルコールチェック義務化。ことし4月1日と10月1日の2段階に分けて施行される今回の法改正は、2021年11月の内閣府令の交付からわずか4か月後の施行に。急な対応に苦闘しているのが、荷主企業を含めた輸送業界だ。

政府による今回の改正は、物流業の全従事者に飲酒運転の撲滅による安全運転の徹底を求める、画期的な施策だ。しかし輸送の現場では、法に即した対応の現場での実践に苦慮しているのが実情だ。

クラウド型車両管理サービス開発を手がけるスマートドライブ(東京都千代田区)は、車両の「移動」をデータ化するシステムとアルコールチェック機能を組み合わせて、法改正に的確に対応できる実効的な取り組みを訴求することにより、こうした課題の解決を促している。その狙いと思惑について、北川烈社長に聞いた。(編集部・清水直樹)

アルコールチェック義務化に抱いた「使命感」

21年6月に千葉県八街市で発生した、飲酒運転の白ナンバートラックによる児童5人の死傷事故を契機に、政府は運輸・運送業などの「緑ナンバー」事業者に加えて、自社製品の配送などを目的とした白ナンバーを一定数以上扱う事業者も、新たにアルコールチェック義務化の対象とした。

車両の移動状況をデータで可視化することにより、社会課題を抽出しその解決につなげる取り組みで注目を集めるスマートドライブは、今回の法改正の動きを「使命」と捉えた。その第一弾が、21年11月に開始したトライポッドワークス(仙台市青葉区)との協業だった。

――法改正の内閣府令の公布に合わせて、クラウド型アルコールチェックサービスと車両管理サービスで協業した。時機を見据えた迅速な動きは、業界でも話題になった。

北川 両社が互いに強みを融合した結果、こうした協業が生まれた。スマートドライブは、車両移動データの可視化システムと有機的に組み合わせることのできるアルコールチェックシステム開発企業を探していた。トライポッドワークスも、アルコールチェック機能をデータで連携することでより機能を高められるパートナーを模索していており、こうした両社の意向が合致した。共通していたのは、アルコールチェック義務化による飲酒運転の撲滅という社会課題を解決したい、との強い使命感だ。

――具体的な協業内容は。

北川 トライポッドワークスのクラウド型アルコールチェックサービス「ALCクラウド」は、スマートフォンに連動し持ち運び可能な小型測定器で簡単にアルコールチェックができるのが特徴だ。日時や場所などの本人確認記録をクラウドで管理できるため、会社に出社しなくても検査できるほか、複数拠点での運用にも適している。スマートドライブは、トライポッドワークスとの協業に合わせてアルコールチェック義務化に対応したコンプライアンス体制の強化キャンペーンを実施し、スマートドライブの車両管理システムの利用を始めた顧客にALCクラウド用の測定器を無償で提供した。ALCクラウドとスマートドライブの車両管理システムを同時に活用することにより、飲酒運転の抑止を含めた安全運転を促すシステムを構築できる。

――スマートドライブによるアルコールチェック義務化対応への取り組みは、今後もトライポッドワークスとの協業が軸になるのか。

北川 そうとは限らない。もちろん、トライポッドワークスとの間でALCクラウドと車両管理システムとのデータや解決プロセスの連携も視野に入れている。しかし、アルコールチェックシステムに関わる顧客からのさまざまな要望のなかで、スマートドライブが目指すべき方向性を変える必要が出てきたならば、迅速に対応していく必要がある。あくまでスマートドライブのシステム開発の基点は顧客の声なのであり、その軸がぶれることは決してない。

▲スマートドライブとトライポッドワークスの協業による、アルコールチェック義務化に向けたシステム開発イメージ

アルコール検知は課題解決の「きっかけ」

アルコールチェックシステムの輸送関連企業への普及は、社会の深刻な課題である飲酒運転による事故をなくす効果が期待される取り組みだ。その発想は、スマートドライブが13年の設立以来培ってきた「移動の進化を後押しする」スローガンともぴたりと一致する。設立から8年を経た躍進の歴史からも、今後のスマートドライブの屋台骨を支えるビジネスに成長する予感さえ禁じ得ない。

しかし、北川社長が見据えるスマートドライブ流のアルコールチェックシステムの将来像に、そんな浮き足立った気配は皆無だ。それは、北川社長の経営哲学に明快な一本の「筋」が通っているからだ。アルコールチェック義務化への対応は、あくまで「社会に課された解決すべきテーマ」なのであり、その実現に取り組むことはスマートドライブの使命なのだ――。

――スマートドライブが思い描く、アルコールチェックシステムの「あるべき姿」とは。

北川 例えば輸送会社が営業所にアルコールチェック機能だけを導入したとしても、それで飲酒運転の撲滅につなげるのは難しいと考えている。確かに、運転者以外の人間が身代わりで検査を受けるなどの不正を防ぎきれないのも理由の一つだ。しかし、スマートドライブが車両管理とアルコールチェック機能を組み合わせたシステムを提供したい最大の狙いは、アルコールチェックを通して他の課題も抽出できる可能性があると考えるからだ。

――具体的なイメージを聞かせてほしい。

北川 アルコールチェックのシステムを単体で導入するだけならば、当然ながら飲酒検知しかできない。ここに車両管理システムを絡めることで、長時間の連続運転や速度超過、過度な残業の常態化など、車両移動データの可視化で初めて浮き彫りになる課題を見つけることができる。いわば、アルコールチェックを課題抽出の「きっかけ」と捉えることで、他の潜在的な課題を明らかにできる。

――しかし、アルコールチェック機能を前面に出した事業戦略を採るほうが、スマートドライブのビジネス機会の獲得にも奏功するのではないか。

北川 それは違う。なぜならスマートドライブは、アルコールチェック義務化という命題を、あくまで「社会で解決すべきテーマの一側面」と位置付けているからだ。飲酒運転の撲滅は社会における重要な課題であり、その解決にスマートドライブが貢献することはビジネスとしても意義がある。しかし、それが社会に解決すべき課題の全てではない。むしろ、それを入り口としてスマートドライブが強みである車両管理システムという切り口から課題に向き合うことによって、アルコールチェック義務化への実効的な対応を含めた、より幅広い解決策を提供できるはずだからだ。

スマートドライブならではのアルコールチェック機能とは

スマートドライブが掲げる理想像は、社会課題をトータルで解決できるシステムを顧客の使いやすい形で提供することだ。もちろんアルコールチェック義務化への対応が、特に物流業界においては最大の社会課題の一つであるのは間違いない。あくまでトータルでの課題解決の端緒として、アルコールチェックへの対応システムを位置付けているということだ。

アルコールチェックをより実効的なものとするための取り組みについて、独自に思いを巡らせている北川社長。その構想の一端をのぞいてみると――。

――とはいえ、アルコールチェック機能は、社会課題の解決の糸口として重要なテーマのはずだ。車両管理システムとの連携を踏まえた秘策は。

北川 アルコールチェックのデータを、あらゆるカテゴリーで分析するニーズが生まれてくるのではないかと考えている。エリアや回数、頻度などで相関関係を調べることにより、思いもしない傾向が浮かんでくる可能性は十分にある。それが潜在的な課題を示唆しているとなれば、まさに新たな解決テーマの抽出につながる。

――車両管理システムにおける車載器の開発のような、アルコール検知デバイスの開発に取り組む考えはあるか。

北川 顧客ニーズへの対応として、関心のある分野だ。運転者にアルコール検知器を配備するとしても、大規模な運送会社であれば相当なコスト負担になる。そこに新たなニーズが生まれる可能性は十分にある。安価で耐久性の高いデバイスを開発して提供することにより、こうした負担を軽減する声に対応することができるだろう。こうしたニーズは、スマートドライブの顧客サポート窓口「カスタマーサクセス」で対応している。もちろん、セミナーなどの機会を積極的に活用することで、アルコールチェック義務化への対応の機運を高めてもらう取り組みにも注力していく。

取材を終えて

とにかく冷静沈着だ。若くエネルギッシュな社風が信条のスマートドライブを率いるには、やや「たおやか」すぎる気さえしてしまう。しかし、社会課題の解決に向けた意思について質問すると、一気に眼光が鋭くなった。信念の強さは、やはり筋金入りだ。

北川社長の真骨頂は、プラットフォームの特性に対する深い理解だ。顧客ニーズに即した課題解決法を模索するために、最適な相手とパートナーシップを結ぶ。それを実現するのは、スマートドライブのシステムが常にオープンな「場」でなくてはならない。スマートドライブは、多様な強みを抱えるパートナーになりうる企業や人材の情報が集う場所、つまりプラットフォームなのだ。

スマートドライブが社会課題の解決力を編み出すパワーの秘訣について聞くと、ユニークな答えが返ってきた。「肌触りのよさ」。移動データ可視化技術を基点に、他の機能を掛け合わせることで解決策を出す。その方程式のを解を円滑に導く「触媒」なのが、システムの使いやすさ、つまり肌触りのよさなのだ。

スマートドライブの描くアルコールチェックシステムも、こうした方程式で考えると実にロジックが明快になる。それも北川社長の言葉を借りれば、肌触りがよいということになるのだろう。(編集部・清水直樹)