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静岡市のドックシェルター、高度な冷蔵輸送実現

2022年7月22日 (金)
【探訪インサイト】

先週金曜日(7月15日)からスタートした「短報」の取り組みで、この日の短報記事のなかで最も多くの読者から「もっと知りたい」ニュースとなったのは「清水港で新設備による農産物輸出作業を公開」でした。この結果を受け、LOGISTICS TODAY編集部では現地取材を敢行し、農産物の鮮度を保つ新装置を使ったバンニングの様子など、より詳しい情報をお伝えすることができる運びとなりました。今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

▲ドックシェルターからコンテナへの初めてのバンニング(積み込み)。荷物は桃

国内清水港からの農産物輸出を促進する新設備「ドックシェルター」を使って初めての輸出作業が22日、静岡市中央卸売市場(静岡市葵区)で行われた。低温を保ったまま新鮮な青果物を海外に送るコールドチェーンの重要装置で、冷蔵倉庫から暑い外気に触れることなく冷蔵コンテナへの搬入に成功、関係者たちは自信を深めていた。

このドックシェルターを活用しての冷蔵農産物輸出は、国土交通省中部地方整備局と静岡県、静岡市、青果卸の静岡VF(同区)の共同事業だ。静岡、山梨、長野、新潟産の新鮮な青果を、香港やシンガポール、タイ、台湾に送り出す。作業初日の22日は桃やパセリ、小松菜、チンゲンサイなど計2トンを、シェルターを通して大型トラックのコンテナに入れ、清水港まで運んだ。25日にコンテナ船で出港し、8月5日に香港でスーパーの店頭に並べられる。

ドックシェルターは冷凍・冷蔵倉庫の搬出・搬入口と冷凍・冷蔵コンテナとの隙間を埋め、搬入時に荷物を外気に触れさせない遮へい装置だ。倉庫に連続した小部屋に設けられ、弾力のある黒いゴムや樹脂がコンテナへの搬出口を四角く囲んでいる。縦2.5、横2.4メートル。同市場では静岡VFが所有し、5月に完成していた。設置費用は約5000万円。国と市が1000万円ずつ補助した。

▲ドックシェルターに隙間なく接続されたコンテナ

静岡県内の物流・流通業者や農業者などは近年、清水港経由の農産物輸出を増やそうと、行政と協力して様々な取り組みを続けてきた。その中でコールドチェーンの確立が大きな課題となっていた。静岡VFの滝戸信一専務は「卸売市場で倉庫からコンテナに移す際、外気に触れるとどうしても鮮度に影響が出てしまう。野菜が汗をかいたりする」と話す。静岡VFでは、アジアの消費者に日本の新鮮な青果を届けるにはどうしたら良いか、荷主の農業団体などと模索してきた。その一つの「解」がドックシェルターだった。導入を後押しした静岡県によると、卸売市場のような公共施設での導入は全国でも珍しいという。

新鮮な日本の農産物をアジアへ――物流業者らの夢に大きく前進

隙間のないドックシェルター(右)とコンテナの接合部

冷んやりした倉庫内に入ると、さっそく桃が詰まった段ボール箱がハンドフォークで次々とドックシェルターをくぐり、コンテナの中に運ばれていた。暑い外気はどこからも侵入していない。

大袈裟かもしれないが、宇宙船と宇宙ステーションのドッキングの光景を想像してしまった。

静岡市中央卸売市場で22日、報道機関に公開されたドックシェルターを使っての初のバンニング作業(コンテナへの積み込み)。ゆっくりとバックしてきた大型トラックの冷蔵コンテナは、ドックシェルターの黒い枠にピッタリと収まった。記者は近づいて接続部を目を凝らして見たが、隙間は見つけられなかった。

倉庫内もコンテナ内も3度前後に維持されている。外は30度を超える真夏の暑さ。隙間があれば吹き出して来そうな白い霧も出てこない。ほぼ完璧な密着。周囲で見守っていた市場や国・自治体の関係者ら約30人からは「おおっ」という驚きの声がこぼれた。

記者の脇で見守っていた静岡県港湾振興課の坂口大燈主査は「初めてだったので少し心配もあったが、相当な鮮度維持が期待できそうだ」と語った。坂口主査は今回のシェルター設置を側面支援してきた一人だ。

▲ドックシェルターから冷蔵コンテナに電気を供給する

静岡VFの滝戸専務によると、外気の遮へい機能と並び、シェルターのもう一つの重要機能が冷凍・冷蔵コンテナに電源を供給するプラグだという。市場での荷物搬入時に車載コンテナへの充電を行えることで、港湾までのトラック運送時の庫内の冷温維持ができる。

「将来的にはドックシェルターに保税機能も持たせたい。卸売市場の中で通関手配が可能となり、港の税関検査でコールドチェーンが途切れてしまうリスクも避けられる」。滝戸専務はこう話し、清水港を国内有数の輸出拠点に成長させるベく、次のステップに眼差しを向けていた。(編集部・東直人)

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