ロジスティクス秋のサンマ、冬の牡蠣など、旬の魚や水産物を味わうことは私たち日本人にとって「文化」そのものだ。近年、そうした文化の継承さえ危ういとの報道が、毎年のように繰り返される。
水産業の流通構造も大きな転換点を迎えている。地域で長年安定して水揚げされてきた魚が取れなくなり、海水温上昇による養殖魚の死滅も相次ぐ。生産サイドの供給不安定化が常態化し、高齢化や過疎化の進行、就業者数の減少など複数の要因で、水産漁業は厳しい経営状況に直面している。一方、発注側においては従来の卸ルートだけでは必要量を確保できないことや、売り手市場化による価格高騰が課題となっている。
こうした現場の切実な課題に、ITの力で向き合おうとしているのが、TISが展開する活魚流通プラットフォーム「トトスマ」だ。
全国の出荷者と発注者を結ぶ水産事業プラットフォーム
「トトスマは、水産物の出荷事業者と発注事業者をITの力でつなぐBtoB専用の流通プラットフォーム」と、トトスマ事業の責任者であるソーシャルイノベーション事業部インキュベーションセンターの湊川賢太氏はいう。

▲「トトスマ」流通スキーム イメージ(出所:TIS)
全国の出荷事業者が登録した活魚・鮮魚・水産加工品を、発注事業者が直接検索・発注できる仕組みだ。「発注業者と出荷業者を直接つなぎ、中間流通業者を介さずに受発注から精算管理までをアプリ内で完結することができる。これにより、発注業者は仕入の際に負担するコストを大きく削減でき、仕入れルートを複線化できる。一方、出荷業者はアプリ上に登録された多数の発注業者とマッチングの可能性が広がる。アプリ上で出品するだけで全国の事業者からの引き合いが発生することから、販路拡大と利益の最大化にもつながる」(湊川氏)
昨年末にサービス提供を開始してから、「すでに40都道府県近くから利用申し込みがあり、中には海のない内陸県の飲食店や小売事業者も発注側として参加、新たな販路や取引先の拡大を後押しできる手応えを感じている」(湊川氏)

▲湊川賢太氏
これまでの魚の流通というと、豊洲をはじめとする卸売市場での対面取引が思い浮かぶ。「直接魚を見ることができないオンライン取り引きでは品質への懸念があったことも確か。トトスマでは、すべての商品に出荷者名を明示するルールを採用し、非対面取引で課題になりがちな品質への不安を、責任主体の可視化によって担保できる」(湊川氏)仕組みが取られた。湊川氏は、「鮮魚は市場で屋外に長時間に並べるだけでも鮮度に影響する。トトスマなら魚を締めた後に、即梱包で鮮度を落とすことなく店舗まで届けることも可能。実証に参加したお店では、常連客から『今日は新鮮で美味しい、仕入れ先を変えたのか』との反応があったと報告もあり、より良い品質で届けられる自信を得た」という。
市場外取引はすでに全体の50%超に達しているとされるが、その多くは電話やFAXといったアナログ手法が残る。トトスマは、そうした市場外の流れをデジタルで再設計する試みともいえる。
事業責任者は現役水産業者、TISだから実現したユニークな事業創出
トトスマ事業の成り立ちはとにかくユニークだ。
まず、国内最大手のシステムインテグレーターであるTISが取り組む水産事業という点。ITとは縁遠いように思える同社の社内ビジネスピッチ制度「Be a Mover」から事業化されたものだという。起案者はもちろん湊川氏。この制度でPoCを経て正式にサービスローンチに至った初めてのケースであり、「エンジニアとして入社してからITの力で漁村を救うことをずっと目指してきた」という湊川氏の戦略と熱意、執念の賜物といっても良いだろう。事業化に向けては「社内では魚関連に使える勘定科目が無いため例外ルールを要望するなど、社内の各部署に行って皆が嫌がるような相談ばかりしていた」と笑う。
一方、湊川氏は、三重県で70年続く活魚専門の卸売業の三代目としての顔も持つ。家業を引き継ぎながら、現在はTISの兼業制度を活用して週末を中心に卸売事業を続けているというから、その働き方や会社の制度も極めてユニークだ。なるほど、現役の水産業者とシステムエンジニアを兼ねる湊川氏だからこそ、水産業の厳しい現状打破のために、本当に有効なサービスとして要件を突き詰めていったのがトトスマなのだなと納得できる。

▲湊川氏は、現役の水産事業者でもある
湊川氏は地元・三重の水産現場で起きている変化、特に、現場の高齢化を目の当たりにしている立場だ。「それだけに、アプリのユーザビリティにはとことんこだわった。想定ユーザーには60代以上の出荷業者も多く含まれると想定し、LINEやInstagramが使えれば操作できるレベルを目標に設計した」(湊川氏)
また、既存事業との両立、既存顧客との取引を最優先できるよう、スケジュール管理機能も搭載しており、スケジュールに合わせて空いた時間をトトスマに費やせる柔軟な運用を認めている点も特長だ。水産現場の実情に合わせて既存業務と併用できる設計は、現場起点ならでの発想である。
「出荷業者も発注業者も、空いた時間を有効活用できるようなスケジュール管理の仕組みも整えた。空いた時間だけトトスマを便利に使ってもらいたいというのがコンセプト」(湊川氏)であり、大胆な変革ではなく必要に応じた無理のない利用を提案する。
「活魚混載」という水産物流イノベーション
物流面での大きな特長が、活魚の当日混載配送を可能にすることである。従来、水槽で生きたままの魚を届ける活魚輸送は「出荷者1対配送1」が基本。そのため積載効率が低く、コストが高止まりしやすかった。
トトスマでは、水槽ごとの活魚の積荷要領を自動で生成する機能を備え、複数の出荷・発注を束ねて当日混載する仕組みで、輸送効率を高めることができる。特許出願中だというこのサービスは、一般的なトラック輸送においても検証が進む共同・混載配送を、活魚にも取り入れて輸送効率化し、コストの大幅な削減に貢献する。参加事業者が増えていけば、帰り荷とのマッチングによる水槽内を空(から)にしたままの無駄な運行を削減することとなる。
湊川氏は、「物流の中で活魚の運搬はかなりニッチな領域で、新しいつながりのきっかけに欠ける。全国各地の活魚運搬できる人たちがトトスマに集まれば、効率化や変革のスピードも急速に上がるはず」と呼びかける。

▲「ルート計画機能」と「積荷要領」イメージ(出所:TIS)
水産業から一次産業全体へ、先進技術で実現する構造改革
現在は水産業の課題解決をきっかけとしたソリューション開発だが、湊川氏の視線はその先にある。湊川氏は、「まずは水産分野でシェア、マッチングの精度を高めて輸送効率化を進める。その後、漁具のあっせんや就業支援、天候連動の需給リコメンドなど、周辺ツールを拡充した総合プラットフォームを目指す。さらに最終的には農業・畜産・林業を含む一次産業全体への展開することが目標。トトスマによって、一次産業の課題が一通り解決できるようにしたい」と語り、その実現を支える過程のすべてにTISの先進技術がある。最先端技術による自動運転の社会実装など、物流インフラのさらなる大変革は、水産業の構造もガラリと変えてしまうだろうと語る。
30年には1000社導入を目標に掲げるトトスマ、サービス提供スタート間もないが、その進ちょくは想定を上回るペースだという。「水産業の衰退を止めたい。水産業は儲かる、儲かるから新たな人々がやってくる、そんな漁村の風景に変えたい」と湊川氏はいう。「苦手な販路拡大、営業活動はトトスマに任せてくれれば良い」(湊川氏)
湊川氏は、本当に新鮮な魚の美味しさをできるだけ多くの人に味わってもらいたいと語る。三重のものなら、定番の真鯛やハマチ以外にも「この時期、冬のアオリイカは絶品」と太鼓判を押す。もっとも水産業の物流、流通構造の非効率が残っていては、本当の美味しさを知ってもらうことは難しい。
トトスマは、消費者にとっても今まで食べたことのなかった産地の魚を発見し、美味しい魚をよりリーズナブルに味わうチャンスを広げる。美味しい魚を手軽に食べること、それこそが私たちにできる水産業の応援だとすれば、魚好きの消費者の立場として、また物流の変革を期待するものとして、トトスマの普及には期待せざるを得ない。
家業で見てきた現実と、大手IT企業で培った知見。その両方を知る当事者だからこそ描ける流通の再設計が、静かに、しかし着実に水産物流の景色を変え始めている。(大津鉄也)

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