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中小運送業が挑むモーダルシフト・湯浅運輸【上】

2022年7月27日 (水)

環境・CSRトラック輸送を部分的に船や鉄道に置き換える「モーダルシフト」が国内でも広がってきた。これまで主に大手の陸運会社を中心に取り組まれてきたが、ここに来て地方の中小運送会社の中にも試行や導入の動きが出てきた。そこには大手とは少し違った事情や課題もある。茨城県日立市の湯浅運輸の“挑戦”を紹介する。

茨城県北部を本拠地とする湯浅運輸は1961年の創業。日立製作所のお膝元で精密機械の輸送で成長し、建設資材などに取扱品目を広げてきた。現在、従業員49人、保有トラック29台、年間売上高約5億円。北海道から九州まで広範囲の運送を手がけ、また安定した雇用の場を茨城経済に提供している。

首都圏から九州へ、トラックを「航送」

湯浅昇社長は船を使ったモーダルシフトに「やってみたい」と以前から関心を持っていた。関川俊道物流部長と相談を重ね、ことし5月から試行的に取り組み始めた。地元や各地の企業から請け負う日立発九州行きの運送業務について、従来の陸運一本に替えて途中の東京・苅田(福岡県)間で、商船三井フェリー(東京都千代田区)のRORO船にトラックを乗せる「航送」を行うことにした。本来は車両だけを搭載するのがRORO船だが、ドライバーも乗船し、苅田港で上陸したのち、再びハンドルを握って届け先まで走る。

▲湯浅運輸の湯浅昇社長(右)と関川俊道・物流部長(茨城県日立市で)

7月までに8回ほど実施。例えば日立市から北九州市まで建築資材を輸送する仕事では、ドライバーの勤務時間は陸運だけの場合は13時間から14時間(休憩時間を含む拘束時間は18時間)になっていたが、途中に航送を使うと乗船時間分が除かれ3時間程度に短縮された。「航送がドライバーの健康維持に大きく貢献することが確認できた」と湯浅社長は手応えを語る。一方、CO2排出量の削減効果については、「まだきちんと検証していない」という。

CO2削減も大事だが…

国土交通省や物流の業界団体などは大企業によるモーダルシフトの事例を毎年のように表彰している。その多くがCO2排出削減など環境負荷軽減効果を評価したものだ。これに対し、湯浅社長は「環境ももちろん大事だが、中小企業にとってモーダルシフトの目的は労働環境の改善なんだ」と話す。

働き方改革法によりトラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間以内に制限される2024年が迫ってきた。ドライバーの勤務時間を抑えながら、大量の仕事をどうこなしていくか。人員に余裕がなく、またグループ企業との連携もしにくい地方の中小運送会社にとって、それは大企業以上の死活問題。湯浅社長がたどり着いた解決策が「航送」だった。

長年、従業員の労働環境改善に取り組んできた湯浅運輸が、政府の「ホワイト物流」推進運動の賛同企業だったことも、モーダルシフトの活用につながった。トラック運送各社にRORO船やフェリーによる航送を提案していた商船三井フェリーの営業マンが、今春、「ホワイト物流企業ならば」と当たりをつけて営業先を探したことで、湯浅運輸と出会えたのだ。この営業マンの提案で、湯浅社長と関川部長の構想が一気に実現に向かった。

海を渡った2トントラック

▲モーダルシフトに使われている商船三井フェリーのRORO船(同社提供)

湯浅運輸は7月には2トントラックの東京・九州間の航送という、採算面からは一般的には考えられない異例のモーダルシフトも行った。荷主から2トン車を指定される特殊事情によるもので、4トン車並みの運送代金で請け負ったことでペイできたという。ラストワンマイル配送に使うような小型車両が船で海を渡ったことは、モーダルシフトの裾野の広がりを示す出来事と言えそうだ。

湯浅運輸の「挑戦」が始まって3か月。乗船中のドライバーの賃金の扱いや、RORO船には女性運転手用のトイレがないといった課題、そして歴史的な原油高を受けてのサーチャージ料金の高止まり…。さまざまなハードルもあるが、湯浅社長は「地方に拠点を持たない我々が、2024年以降も全国的な仕事をやっていくには航送は欠かせない」と話し、挑戦を続ける覚悟を示した。

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