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セイノーと組み乱立市場で勝ち残る、ハコベル社長

2022年8月8日 (月)

M&Aトラック運送の求荷求車マッチングサービスのハコベル(東京都品川区)が8日、セイノーホールディングス(HD)とラクスルの合弁会社(ジョイントベンチャー)として新たなスタートを切った。ハコベルはセイノーグループの規模と信用度、財務力をバックに、複数のプラットフォームが乱立する求荷求車サービス市場で勝ち残りを目指す。就任まもない狭間健志社長兼CEO(最高経営責任者)(37)に課題認識と戦略を聞いた。(聞き手・東直人)

――合弁がスタートした。今の気持ちは。

「すごくワクワクしている。セイノーグループの全国の支店を回っており、このような大きな会社のネットワークを活用して、自分たちがこれまで培ってきた事業を展開することに心が躍る。従業員一人ひとりと話をしたが、皆とてもポジティブに捉えている」

――社外の反応は。

「取引先を何十社も回ってセイノーとの合弁化について説明した。好意的に受け止めていただいている」「(取引先から)素朴な質問として、『(プラットフォームの運用が)セイノー優先になるのか』と聞かれたこともあったが、そうではないと説明すると理解してくれた。サービスの利便性向上に対する期待の声もいただいている」

大手の拠点を足場に全国展開へ

――当面の取り組みや課題は。

「現在、ハコベルを利用している運送会社は約1万2000社、車両3万6000台。地域的にはまだ南関東が中心であり、他の地域、そして全国に利用を広げる。セイノーと協力して荷主の開拓も進める。サービスをセイノーの全国ネットワークにどう乗せていくか、両社で膝を付き合わせて話し合っている」「売上高は現在の30億-40億円から数年で数百億円台に伸ばしたい」

――中長期的な取り組みや課題は。

「ドライバーや運送会社向けのサービスを強化したい。例えば、梱包材などの資材や燃料、タイヤ、車両などを、セイノーは規模の効果で比較的安く購入できる。この調達力をハコベルに登録する中小運送会社や個人事業主にも“開放“する仕組みを検討している」「倉庫管理やバース管理、伝票・帳票の電子化といった他社のデジタルサービスと、当社の運送管理システムとの乗り入れ・共通化も進める。システム連携を行い、ワンストップ化して顧客に提供したい」

「強い営業組織が必要」

――ハコベルは業界や会社の垣根を超えたオープンでパブリック(公共的)なプラットフォームを目指すというが、運送会社であるセイノーの子会社になったことで「色」が付いてしまう。これまでの中立的な運営を守っていけるのか。

▲(左から)セイノーHDの田口義隆社長、狭間氏、ラクスルの松本恭攝社長兼CEO(6月10日撮影)

「大手のセイノーがハコベルのプラットフォームを使うことで、しっかりとした『背骨』が一本通ったと受け止めている。セイノー色がつくこと自体に問題はない。多くの荷主は複数の運送会社を使い分けており、ほとんどの荷主がセイノーを使っているので、荷主に敬遠される恐れははない」「セイノーからは、ハコベルのシステムをセイノー向けに改造したりせず、今の全方位的な仕組みを続けるように強く求められている。システムも運営体制も(中立性は)変わらない」

――若いテクノロジーベンチャーのラクスルと、歴史ある路線輸送のセイノーとでは、文化的な摩擦がないか。

「セイノーには歴史とともに、スタートアップ企業やドローン企業などに積極投資するといった先進性があり、親和性を感じている」「セイノーの強い営業組織も魅力だ。営業組織の強さはハコベルにも必要なカルチャーなのだが、我々(ラクスル)は自前で作れなかった。同じ釜の飯を食った仲間を大事にし、都市対抗野球で自社チームを全社一丸で応援するセイノーのカルチャーから、学ぶものは多い」

カギは荷物の量

――多数のプラットフォームが乱立する求貨求車市場の今後をどう展望しているか。

「今後、数社に絞られていくと思う。すでに収れんが始まっている」「ポイントは荷物の量だ。仕事のあるプラットフォームに人(運送事業者)は集まって来る。その意味でも当社が(多くの荷主と取引のある)セイノーと組めたのはよかった」

――合弁化の次のステップは。事業体制や組織の変革はあるのか。

「いま具体的な話があるわけではないが、オープンプラットフォームの趣旨を考えれば、(セイノーとラクスル以外の)他社の資本参加や業務提携も選択肢としてあり得るだろう。前述の周辺システムとの連携もその一つだ。我々が目指す(物流変革の)理念に共感する企業と対話していこうという考えは、セイノー、ラクスルとも一致している」

ハコベルは、ラクスルが同名の事業部門を8月1日付で分社化し、8日付でセイノーHDが出資して合弁会社となった。出資比率はセイノーHDが50.1%、ラクスルが49.9%。狭間氏はラクスルの執行役員兼ハコベル事業本部長として同事業をけん引してきた。

緊張感持ち、中立的運営を

「ポイントは荷物の量だ」「ほとんどの荷主が使っているセイノーと組めば、荷主から敬遠されることはない」「セイノーの拠点と営業力を借りて全国展開する」――。37歳の狭間社長の口からは、具体的で現実的な経営戦略が次々と飛び出した。6月の共同記者会見で、セイノーHDの田口義隆社長とラクスルの松本恭攝社長兼CEOが「物流業界を変革する」などと、やや理念的な話に力点を置いていたのとは対照的だ。

物流業界の変革のために、企業の垣根を超えて誰でも参加できる「オープンパブリック」なプラットフォームを作る。その理念はもちろん大切だが、他の求荷求車サービスとの厳しい競争の中、「中立性」や「独立性」に過度に寄りかかっていては生き残れない。これまでハコベルの現場を引っ張ってきた指揮官としての現実認識を狭間氏は示した。

とは言え、ハコベルのプラットフォームがより多くの運送会社に参加してもらい、「オープンパブリック」の旗を掲げ続けるには、参加企業が納得できる「中立性」も、やはり必要となろう。資本面で「独立性」がなくなった分を補うだけの、運用面での「中立性」だ。有利な荷物を西濃運輸に回すような優遇は決してないということを、緊張感を伴った運用で示し続けなければならない。狭間氏によると、それはセイノーHDも強く求めていることだという。

例えば「オープンパブリック」の大先輩である東京証券取引所を運営する日本証券取引所では、公正性と透明性、信頼性を守るため、市場運営をチェックする自主規制法人をグループ内に設置している。東証と同列には論じられないかもしれないが、ハコベルにも何らかの内部けん制の仕組みがあって良いのではないか。また、求荷求車のマッチングに西濃運輸が優越的な関与をし得ないようにする、ファイアウォール(線引き)を講じる手もあろう。

「パブリック」を標榜する以上、「特定企業を利するマッチングはない」ということを外形的にもわかる仕組みづくりに、ハコベルは取り組んでほしい。それは同社に限らず、特定物流企業の資本の下で運営する全てのパブリックプラットフォームに求められることだろう。(編集部・東直人)

セイノーとラクスルが合弁設立、ハコベル事業移管